第22話 「止まって」
一体何が起きてる?
私はクジラに飛ばされて、起き上がりながら考える。
私はただ研究の邪魔をするやつらを退かしただけのはず。
それは研究員のルールであったはずだ。
研究の邪魔をするなら、同じ研究室の仲間だろうと、容赦しないと。
それを破ったのはカナタだ。
それに望も。
私が魔法を使って、細部の調整をしてやったから出来たのに、なぜ私に牙を剥くの?
……私はゆっくりと前を見る。
研究対象、美香。
カナタからは、
面白い魔法を持っている。
その力を見せる代わりに、頼み事を聞いてやって欲しい
そうメールで届いていた。
だから見てやったのに。
そしたら、これはなんだ?
私の花畑が、グチャグチャじゃないか。
それに……
……ここまで飛ばされてる
……私は木のデッキに大きな穴が空いたことに苛立ちを覚える
ここは……
いつか研究室の皆と一緒に過ごしたいなと思って作った場所。
それなのに、こんな事をするなんて
私はちらっと左を見る。
……どうにか椅子と机は無事だった。
研究がみんな一段落したら、ここで一緒に花見酒でもやりたかった。
だから机と椅子は壊されたくない。
……たとえすぐに直せるとしてもなぜか、
何故か壊されたくない……
「能愛ァ!?さっきからその机ばっか見て!何か意味があるのかな!?もしかして、それの事、気にしてるの!?じゃあさ、壊してあげよっか!ズタズタに!!アハハハハハハハハハ!!行って!!」
っ!
……私の頭上で旋回していたクジラが、真っ直ぐ落ちてくる。
クジラの巨体はウッドデッキどころか、家にすらも影を落としていて……
「……ふざけないで」
そこは……
そこは私の大事な……!
…………
……私は鉄の槍を4本生やして、クジラの体にぶっ刺す。
そして、槍の末端は地面に埋めた。
クジラの体を空中で縫い止めた。
……大規模な魔法は使えない。
……ここを壊してしまう。
「使えないなぁ!?ほら、私の胃、あげるよ!だからさ、動けよ?」
美香は自分のお腹に手を突っ込んで、胃……
胃を取り出すと、クジラの口元に投げつける。
……クジラはそれを食べると、また一回り大きくなった。
そして、槍の拘束が外れる。
美香の体はまた、また再生する。
……とても興味深い。興味深いけど……
だんだん面倒くさくなってきた。
カナタは殺してないし、望も殺してない。
研究員のメンバーを殺すことと、その研究の邪魔をすることは、研究室の規則において、禁忌。
だから、美香のことも殺せない。
殺せないなら、私の魔法じゃやり過ぎしてしまう。
……あぁめんどくさい
もういいかな。
私がやってなかったら、許されるかな?
じゃあ……
私は暗い紫色の光を手に出す。それを頭にぶつける。
ガクン!
……頭が殴られたみたいな、痛みを伴わない衝撃だけがくる。
……これ、いっつもウザイ。
「煉、美香を殺して」
私が使ったのは、対象が死を連想させられた、存在を呼び出す魔法。
私が呼び出したのは煉。約2年前の時の煉。
1度煉の研究の邪魔をしてしまったことがあって、その時に殺されかけた。もっとも、2年前の煉と今の煉では、全く強さが違うが。
それでも……この煉でも、私は敵わないだろう。
「我に命令するな……」
「っ!!」
……焦った。
この魔法は使った人に絶対に服従する魔法……なのだが、煉は今確かに、確かに私に殺気を……!
はぁ……
煉ってほんとめんどくさい……
「行って」
煉はそれ以上何も言わず、目に見えない速度で飛び出す。
瞬時に美香に接近し、
手に持った大剣を、斜め下から振り上げる。
スパッ
「へっ!?」
美香の胴体を斜めに二等分する。
そのまままた、大剣を振り下ろして、
スパッ
足を二等分する。
「2対1なんて!卑怯なんじゃない!?でもさぁっ!!なんか、こんなことされてもっ、死なないって!そう思うんだ!……ほらぁ!!」
……美香の体は煉がもう一度大剣を振りおろそうとするときには治っていた。
スパッ
スパッ
スパッ
スパッ
……煉は大剣を振り回すが、美香はその度に再生する。
……もしかして、煉と美香は相性が悪いかもしれない。
煉は他の研究員とは違って、魔法の類は使えない。だから出来ることは大剣を使うことだけ。その大剣はどんな魔法も切り裂くし、どんな物だって豆腐のように裂けていく。
だから強い。
……でも、美香の再生能力との相性は最悪ね……
「煉、もういい。クジラを殺して」
そっちなら、相性も悪くないだろう。
煉は黙って空に飛ぶクジラに飛び上がっていく。
「ううん!!私のクジラはさ!こんなもんじゃないの!だって!私が初めて死ぬと思ったんだよ!?だからさ、こんなもんじゃないの!!見せてあげる!あなたのデッキが!グチャグチャになるところ!」
……っデッキ!?
……いや、クジラは動いていない。煉は真っ直ぐ飛んで
スパッ
クジラを真っ二つにした。
……大丈夫
大丈夫。殺れる。煉なら……
あ、いや……
まさかっ!
「煉!切って!肉片1つ落とさないよう!早く!!」
クジラの体がゆっくりとデッキに落ちてきていた。
……煉は動かない。煉は殺したと思っている生物には、手を出さない……っ!
……だめ!
デッキが壊されちゃう……っ!
でも、でもでも、私の魔法じゃ……っ!
デッキごと壊してしまう……っ!
どうしよう……
どうしよう……
あっ……
ドシーン
バキ、バキバキバキバキ
ガシャン
あっ、あっ!あっああ!!
……デッキが……
「アハハハハハハ!!ほら、ほらグチャグチャっ!!これ、直せるのかなぁ?直しても、またグチャグチャにしてあげるよ!!アハハハハハハ!!」
……………………
…………………………
……殺す。
もう手を出さない理由は無い。
カナタと望を巻き込むかもしれないが、知らない。
……絶対殺す
私は右手を空に高く掲げると、それを振り下ろす。
空にある、眩しいほどの光が動き出す。
その光がどんどん落ちてくる。
「……っは?」
辺りはどんどん影になっていき、そして、その光だけが辺りを照らす。
落ちてくる。
どんどん落ちてくる。
「おい!美桜を巻き込むなよっ!チックジラ!飲み干せ!!」
無理だろう。
それは。
クジラは今死んでる……
いや、死体はどこだ?
どこ……
「なんでまだ生きてる……っ!!」
擬似太陽と変わらない大きさになっていたクジラが大きく口を開ける。
そして、クジラの体に太陽が収まった……
パーーーン!
クジラの体が破裂した。
だが……
太陽も、どこかに無くなってしまった……
ザーーー
クジラの血の雨が降る。
「アハハハハハハ!!アハハハハハハ!!凄い花火だなぁっ?美桜にも見せてあげたかった!でもぉ?うちのクジラはこんなもんじゃないよ?だって、私を食べたんだもん!そりゃ、この程度じゃ、すまないよ?」
私は言っている意味がわからず、辺りを見回す。
……地面だ。
血の雨が1粒落ちる度に、その1粒が小さいクジラになって、再生している。
「塵になれ!」
……私は優先権が低いものを自分の指定のものに変える魔法を使ったが……
血の雨は塵に変えられた。
既に地面に落ちていたクジラたちは……
パクパクパクパク
私の体をよじ登って食べ始める。
「いたっ!くっ!私をこんな目に……っ!」
めんどくさい!
私が魔法を打てば、私ごと貫いてしまう!
クソっ!こんな所で詰むなんて思わなかった。
「降参する……」
「ん?聞こえないよ?」
「降参するって言ってるのっ!!」
「だーかーら、聞こえないってー!アハハハハハハ!」
グチャグチャグチャグチャ
パクパクパクパク
……私は少しずつ肉体を食べられていく
足はもう虫食いになっていて、骨が見え始めている。
私は立っていられず、足をぺたんと地面に付ける。
ワシャワシャワシャワシャ
……クジラたちはこれ幸いとばかりに、私の体をよじ登って、胴体を食べ始める。
「いったっ!言った!!降参って言った!!……ふざけないで……っ!」
「ううん。終わりじゃないよ?私は何回も言ったよね?死にたくなーい、美桜が待ってるー、殺さないでー!って、そう言ったのに止めてくれなかったよね?全部、全部返してあげる!手始めに〜!」
……美香がスキップをして近づいてくる
やめて……
何をするつもりなの?
ズボッ
は?
ブシャーー
私のお腹に、手を突っ込んでる……?
「あっっぐっ!!うぅううぅぅ!!」
ブチッ
ズルズルズルズル
「あぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ほら、これが腸だよ?見える?ほらほらー!」
……美香は私の口に腸を咥えさせてくる……
……おえっ
口の中がピリピリする……
……吐き出しそうだ
「もう、やめて。これ以上やる意味は……無い」
「誰が誰に言ってんの?それ。じゃあ、続き始めるね!」
……美香はそのまま私の右の膝に手刀を当てて……
ゴリ、ゴリゴリゴリゴリゴリ
「あぁぁああっ!?膝がっ!膝が削れて……っ!!」
痛い痛い痛い痛い!!
ポキッ
「かはっ!!」
「あ、取れた。うん。脆いね。じゃあ、こっちも」
ゴリゴリゴリゴリゴリゴリ
ポキッ
「痛っっ!!も、もうやめて……私は、治らない……あなたと違って……治らない……から…っ!」
「うーん?やめる?なんで?分かんないなー!」
「ひぐっ!!あぁぁぁぁぁあああ!!!」
…………………………
……………………………………
…………………………
「うーん?次は目かな?うーん、心臓かなぁ!?終わっちゃうもんね!そしたら、全部終わっちゃう!あー……っ!うん!終わらせるか!家に連れて帰って、美桜におはようって言いたいし!」
ズプッ
ぐっ
「じゃあ、殺すね?カウントしてあげよっか?ほら、3、2、1……あぁぁぁごめーん!どこまで数えたか、忘れちゃったぁ!!アハハハハハハ!!もう1回数えるね?ほら、5」
ぐっ
「4」
ぐっ
「3」
ぐっ
プシュ
「2」
プシャー
「1」
ドクンドクンドクンドクンドクンドクン!!
「ぜ——」
ドン!!
「あれ?……k?なんで止めるの?」
「もうやめろ……能愛のことを思って言ってるんじゃない。きみのためを思って言っている……君は美桜のお姉ちゃんだろう?……そんな人が、殺しをしてはダメだ……ここで止まれ……」
「k?何を今更言ってるの?kだって、今体、グチャグチャだよ?それはその能愛がしたことじゃん!ほら、この綺麗な銀髪が赤く染まってる!これだけで……これだけで凄く気持ちがいいじゃん!それなのにさ、こうやって心臓を掴んで殺せたらさ、どれだけ気持ちいいか……っ!!」
「……やめろ。能愛は殺しても死なない……それよりもう朝になるぞ?……妹が目覚める。そっちに構ってやってはどうだ?家に送ってやるから……今なら能愛の魔法封じも抜けられそうだ。」
「美桜が……?うーんじゃあ、仕方ないか!うん!帰るよ!」
「そうか……ありがとう……」
グニャリ
…………………………
……………………………………
グニャリ
「能愛……君にかける言葉が見つからない……君が悪いんだ……っ!!でも、私の個人的な感情が、君を死なせたくない……!……クジラ……君に群がっているクジラを食べろ……それは美香の魔法を吸い込んでいる。きっと……きっと食べれば回復する……ほら、食え……!……食うんだ!!」
ムシャムシャムシャムシャ
ゴクン
「……おえっ」
「吐き出すな!食え!」
ムシャムシャムシャムシャ
ゴクン
「おっおえっ!」
「食え!食え!本当に死ぬぞっ!」
ムシャムシャムシャムシャ
ムシャムシャムシャムシャ
ムシャムシャムシャムシャ
ムシャムシャムシャムシャ
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「君が生きてくれて……良かった……だが、次はきっとない……まっとうに生きろ……そうすればまたこんな目にあうことはない……私はここで失礼する……また、様子を、見に来るからな……」
グニャリ
「……………………」
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