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魔法少女ごっこをしてるだけなのに、勝手に周りの人が曇っていくのはなぜ?  作者: さたけやま


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第19話 『能愛』

「こ、こんなところに居るの?」


 私は大学外の山の中で、

 kのモヤワープに初めて相乗りした。

 そして、その先は……


 雪にまみれた、剣山だった。

 吹雪がビュービューと強く吹き付け、そして、足元を見ると、すぐ横は断崖絶壁。

 私は横幅1m程度の雪で作られた地面を踏みしめていた。


 kが1歩でも足を踏み外したら、2000m落ちるといった、その瞬間から震えが止まらなかった。


  ……流石にここで終わったら酷すぎる……!


 寒さと恐怖で震えが止まらない。

 身体をかけめぐる、もはや地震のような震えは私に足を踏み外させようとしていた。


 無理無理!

 無理!

 こんな場所無理!

 てかここどこ!?

 こんな場所ないよね!?

 たまに「そこは道がないからジャンプしてくれ」なんて言われて、剣山から剣山にジャンプさせられる場所なんて無いよね!?


「能愛は人との関わりに興味を持たなかったからな。ここの環境というのは、能愛にとって都合がいいわけだ。いや、ここの環境自体が能愛が作ったものだから、順番が逆だが。」

 kは続けて「元々は乾燥した平野だった。」と少し呆れたように、しかし自慢するかのように言う。


 ……こんな、環境を変えることまでできるの……?

 ……能愛って思ってるより、ずっとヤバいかも

 それに比べて、私の目の前にいるkとの落差で少し笑っちゃいそう。

 

 kは私を先導している。

 しかし、その体と声はガクガクに震えていて、足も覚束ない。腕は自分を抱くように肋の辺りに回されていて、同じ研究員だとは思えなかった。

 しかも、私が思っているよりも弱いらしく、吹雪に当てられてたまに吹っ飛びそうになるのを、私が必死に体を抑えて、守っていた。


 ……kが手前までしか行かないって言ったの、中がもっと酷いっていう話じゃないよね?


 ……着くかどうかですら不安なのに、着いてからの不安もあるなんて、前途多難が過ぎるよ……


 私はどうにかkについて行き、

 時折、吹き飛ばされるkを必死に捕まえながら、なんとか私たちは進んで行く。

 ———————————————————————————

「そろそろだ。」


 そろそろ?


「えっ!?まだなの!?」


 私たちはどうにか、どうにか歩き続けて……いや、正確には下り続けた。

 山を、下り続けた。

 どれぐらい下ったかは分からないが、5時間は歩いた。


 途中で気づいたが、能愛が日が暮れるまでって言ったの、割と優しかったのかもしれない。

 さっきから太陽の位置が変わっていない。

 ずっと昼のような明るさだった。

 これも能愛の魔法なのだろうか。

 いつでも待ってるという意味だったのかもしれない。


 まぁとにかく、

 山を下った私たちを迎えたのは


 ……満開の花畑だった。


 山とは川を一つ挟んでいる、ただそれだけなのに、


 ……ここまで環境が違うなんて……


 花畑の周りをたくさんの木々、恐らく森が囲っており、切り開かれたその中が花畑になっている。


 緑の大地と、花畑と、森だけしか見えない。


 その花畑は地平線まで見えていて、どうやら信じられないぐらい大きいみたいだ。


 ……でもね、私はね……ひとつ思っちゃったの……


「……ここに飛べばよかったんじゃない?」


 私はジッとkを見る。


「……飛べるわけないだろう?魔法少女の研究をしているのだぞ?転移には対策がしてある。それどころか、能愛の許可がなければこの中で魔法は使えない。」


 えっ?

 ……魔法を封じれるの?

 ……強すぎない?


 それなら、私がこの中で体を切られたりしたら、治らないって事もありうるよね?それどころか、痛みだって出てくるかも……


 あれ?

 なんだか、

 急にすごく怖くなってきた……


 あ、あれ?

 寒くないはずなのに、また震えが……


 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン


 ……私が本当に死の恐怖を感じたのは、クジラ以来かな。美桜にはそれよりも不甲斐ない姉で申し訳ない気持ちしか無かった。


 だから、久々だった。

 慣れるものじゃないとは思う。

 それでも……


「ご、ごめん。k、ちょっと、待ってくれない?」


 あ、足がフラフラする。

 動悸だって……

 目眩?吐き気?

 ダメだ、

 恐怖で頭がいっぱいだ……


「ふむ……」

 

 kは花畑の中で、止まってくれる。

 

「君の気持ちもわかる。そして、その予想は大抵間違っていないだろう。能愛はとてつもない力を持っていて、そして人に危害を加えることに躊躇しない。だが、今の時点では能愛なら、君に手を出す方がめんどくさいと思うだろう。安心して行くといい。」


 て、手を出す方がめんどくさい?

 私なんて、1捻りじゃないかな……?

 イマイチ安心できない……


 kはもう待つ気がないのか「ほら、行くぞ」と言って、歩き出す。


 私は、雪山の時とは違う理由で、kにしがみついて歩く。

 ……こうしなければ、前に進むことすら、出来なそうだった……


 歩くこと1時間ほど、

 ……足の痛みは堪えられないほどになって来ていて、恐怖も薄れることなくずっと私の心臓を掴んでいた。

 

 まだ能愛に会えないまま、1時間も経ってしまったのだ。


 1時間もこの恐怖に晒された。それだけで、私はもう限界だった。


「ほら、着いたぞ」

「え?」


 私は途中から意識がほぼなかった。意図的に考えないようにしないと、おかしくなりそうだった。kのスーツの裾をずっと掴んでいて、それを頼りに歩いていた。


 そして、

 着いた場所は……


 花畑の真ん中。

 そこに木のログハウスがあり、煙突からは煙が吹き出している。

 デッキには木の椅子が4つ並べられていて、大きい木の机がその中心に置かれている。


 そのデッキを横目で見ながら、ドアの前まで来てしまった。

 思ったより可愛いものが出てきて、困惑したのだ。


「それでは、ここで失礼する。」

「あ、本当に帰るんだ。」

「……疲労が限界なんだ。だから能愛と話すなんて疲れることしたくない。ここで失礼する。」


 ……そんな理由だったんだ……

 ……なら、あとちょっとだけでもいて欲しいなぁ……


 ……なんて、無理は言っちゃダメだよね

 ここまででも、十二分に頑張ってくれたし、感謝を伝えるぐらいじゃないと!


「ありがとうk。私、頑張るね」

「……頑張らない方がいいと思うが、まぁいい。ここで失礼する」


 kはモヤに吸い込まれて、消えていった……


 よ、よーし……


 ドンドンドン!

「ごめんくださーい!美香です!kからの紹介で来ましたー!」


 …………………………………………

 ………………………………

 ……あれ?


 返事がない。

 それどころか、

 音がしない。


……もう1回言っていいのかな?

 も、もうちょっと待つ?


 シーーーーーーーーン


 風が草花を揺らす音以外何も音がしない……


 ドンドンドンドン

「ごめんくださーい!」


 ガチャ


「え、開いっ!!」


 …………………………

 ……………………

「……………………」

「……………………」

「……………………」


 ……えっと、ドアを開けてくれた人は、私をジッと見て何も言わない……

 それにこの見た目……

 ………………

 ……………………


「能愛さん、ですか?」

「…………………………」


 その人は私をじっと見るだけで、何も言わない。

 

 私は今回日本語が通じる場合しか考えてなかった。


 ……まさか


 まさか、外国人の方だったなんて……


 綺麗な床に垂れるぐらい長い白髪に、ぱっちりとした可愛らしい白い目、鼻は高く、口はただ横1文字に閉じられている。


  ……そして、気になることは、


 ……その身長。私でさえ、別に高い訳じゃないのに、そんな私が見下ろせるほどだ。

 ……140?いや、130ぐらいかもしれない。


 とにかく低い身長の、とても可愛らしい女の子が、上目遣いで私をじっと見ている。


 ……可愛い!凄く可愛い!ギュってしたくなってきちゃった……!

 でも、そんな事より……

 まずは美桜なんだ。


「能愛さん、ですよね?」

 もう1回聞いてみる。


 いや、日本語が通じてないなら、もう1回に意味はないかな……

 どうしよう……

 英語で通じるかな……


「……入って」


 喋った!

 少しハスキーな、とても可愛らしい声だ!


 喋った能愛はそのままズカズカと部屋の中に消えていく。私も慌てて入る。

 室内は普通の民家という感じだった。

 整理されて綺麗な室内に机があったり、椅子があったり、少し特徴的なものをあげると、暖炉があった。

 能愛はそのままキッチンの方に消えていった。

 私はどうしたらいいのか分からなくなり、入口でウロウロする。

 すると、

 

 ガチャ。


 えっ?

 鍵が閉まったような音が鳴った……


 ドアノブに手をかけてみる。


 開かない……!


 どうして!?

 閉められた!?


 ヒュン

 なにかの音が鳴った。

 ……瞬間、


「ぐぁっ!?」

私は呻いた。

 

 熱い!?

 痛い!?

 何が!!

 何が起きて……!!


 私は痛みの箇所を見ようと下を向いた……

 しかし、それよりも目を引くものが……

 ……足元の木でできた床が血で染まっていることだ。


「なん……で……!!」


 そして、次に目に入るのが右の太ももに刺さった包丁。


 ……太ももを貫通したのか、刃だけが見える。

 ……まさか、後ろから攻撃したのか!?

 いつ!?


 カツカツカツカツ

「何でこんなことをっ!?」

 歩いてくる能愛に私はぶつける。


 ……能愛は答えず、私の右の太ももに刺さった包丁の刃をそのまま……そのまま……


 ……掴んで横に薙いだ


 スパッ


「あぁぁぁぁ!!!」


 痛いいい!!!

 なんでっ!?


 グラっ


 ……足がちぎれかけた私は、立っていられなくなり、倒れる


 ドシン


「あっ!」


 ……地面に叩きつけられて、また呻く。


 何でこんなことを!?

 どうして!?

 理解できない!!

 痛い……!!

 立たないと……!


 立たないと……殺される!!


 ……私は片足で、どうにか立ち上がろうとするが、能愛がヒールを私の傷口に押し付けて……


 ぐちゃ


 踏み抜いた


「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 ……その一撃で私の右足は根元から完全に切断される


 足が……!!


 まずい

 やばい

 どうしよう

 無理

 こんな痛いの初めて

 耐えられない

 美桜が美桜が待ってる……でも無理……痛い……無理……死ぬ……殺される……こんな所で……


 助けて……


 助けて……


 ……能愛はまたヒールを高く上げて……今度は私の顔に……


 踏みおろした


「ぶべっ!」


 ……ただのヒールとは思えなかった。

 歯が数本抜けた感覚があった……


 ……能愛は私の様子を気にする様子もなく、ただ、ただただヒールを振り下ろしたんだ……

 その度に私は呻いて、喘いで、殺さないで、まだ生きてたい、美桜が待ってる。そう言った。

 ……それでも能愛は止めなかったんだ……


 ……能愛がやめてくれるよりも、私が意識を飛ばす方が早かった

 ———————————————————————————

 私……どうなって……

 

 ギ……ィ……ギ……ィ……


 ……何?この音……


 ギ……ィ……ギ……ィ…………パン!


 ……っ!?

 ……左足から何かが外れたような感覚……


 ……深い喪失感


 確かに……

 確かに何かが無くなった……


 ギィコギィコギィコギィコ


 なに!?何が起きてるの!?前が見えない……!目が開いてないの!?目は開けてるつもり……つもりなのに……見えない……


 私は恐る恐る手を伸ばそうとして……そして、手の感覚がないことに気づいた……


 匂い……匂いもしない……


 何がどうなって……


 音だけが聞こえる……


 ビチャ……ビチャ……ビチャ


「……手間……次は臓器……めんどくさい……まぁいいか」


 臓器!?

 何の話!?

 やめて……

 やめてやめてやめてやめて!

 本当に生きられなくなっちゃう……!!

 美桜の元に帰らせて……

 美桜と一緒に暮らしたいだけなの……


 サクッ


 ビチャビチャビチャビチャ……ズルッ


 ……何かが、また何かが抜けていった。

 ……それはとても長いものだったみたい。

 ……確かに何かを引き抜かれた感覚があった。


 ……それはとても大事なものだったのかな……

 ……体が私のものじゃなくなったような気がする


 ……ううん


 違う……


 もう私のものじゃないんだ


 何か……異物感がずっとあるんだ……!!

 ……お腹ら辺を、何かが、何かが確かに動いてる……!!


 その何かが動くのをやめる度に……!

 

 その何かはどんどん大きくなっている……

 

 そして、私の体から、何かが代わりに無くなっていく……

 それは、私のお腹の中を食べているのかもしれない……


 怖いよ……

 美桜……助けて……

 これは……理子ちゃんを捨てたせいなの……?

 ……これがその報いなの?


 ……怖いよ


 ……美桜、k、望ちゃん、ツバメ。


 ……私、もう家に帰れないかも……!!


「……何を……っ!!何をやってるんだっ!!能愛っ!!」


 ……kの声?

 助けに来てくれたのかな……

 でも無理だよ……

 能愛はkが勝てる相手じゃないよ……

 kだけでも逃げて……


「……うるさい……大きな声出さないで。それはさっき聞き飽きた。」

「……君に……!君に任せたのが間違いだった……!!」


 グニャリ


 体が歪む


 床の感触がなんだかヒンヤリとしている気がする


「望!!今すぐ手当の準備を!!」

「っお姉様!?承知致しました!!」


 望ちゃんの声……

 

 あぁ……

 助かったのかな……


 でも……こんな見た目で……美桜にもう会えないよ……

 また、また心配かけちゃう……


 でも、無事だよって伝えてあげなきゃ……伝えてあげないと……美桜、また無理しちゃう……


 美桜……美桜……


 会いたいな……

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