第17話 「諦め」
「理子ちゃんが……いない……!」
「本当……ですね……」
私たちは一頻り泣いたあと、理子ちゃんがいないことに気づいた。
……いつ?
いったいつ……
美桜も少し変わってくれたみたいで、理子ちゃんが居なくなったことに眉を悲しそうに曲げている。
「とにかく探しに!…………いや、……」
……探しに行くの?
理子ちゃんは私の気持ちに迷惑だと思ったからいなくなったかもしれない。
それに、
美桜の大切な時間は幸せなものにしてやりたい……
でも、
理子ちゃんは今見つけないと……
今度は本当に死んでしまうかも……
……いや、だったら、今すぐ探さなきゃいけない!
すぐに……!
……美桜ごめん……!
人の命とは比べられない……!
「ごめん美桜、お姉ちゃんは理子ちゃんを探すね。朝までに帰れたら、その時は、抱きしめてあげるから……」
「お姉ちゃん……」
美桜は涙を目に貯めるが、堪える。
ごめんね……
「いえっ!私も行きます!……さっきはあんな風に言ってしまいましたが、理子ちゃんは友達です!私にも探させてください!」
「っ!そっか……うん。一緒に探そう!」
……美桜は変わったな。
帰っきてくれた。優しい美桜が。
……あぁ。嬉しいなぁ
理子ちゃんを探すなら人が多い方がいいよね。
kを呼ぼう。
でも、美桜は嫌がるかな……
でもkは心強い味方だ。
人の命より大事なものは無い……よね……
我慢させてばっかでごめんね……
「美桜、今からある人を呼ぶね……美桜にとっては嫌な人かもしれない。でも、頼りになるんだ!きっと今回も、助けてくれる……!」
「わかり……ました」
美桜は少し考えたが、
なんのことかよく分からないだろうに、
それなのに、頷いてくれた。
……ありがとう。
私は意識を集中する。
そして、胸に手を当てて、
「来て!」
呼ぶ。
美桜が目を見開く。
「それって!お姉ちゃんの契約相手を!?」
目を開けられないぐらい強い光が走る。
……美桜も記録を見たから私の契約相手が普通とは違うって、知っていたのかな。
……美桜は驚くかな。
すると、空中にモヤが現れ、それに伴ってkが現れる。
望ちゃんも来て欲しかった……
「またか。この機能はそんなによく使うものじゃないと思うのだがな……」
「k!緊急!望ちゃんも呼んで!」
「望を?まずは要件を言ってもらおうか。私は望の世話で忙しいから、最近は君の盗聴器を使っていないんだ。」
……kの間延びした声に少し、焦りを感じる。
……こんなことで時間を使ってる暇はないの!
「理子ちゃんがいなくなっちゃったの!さっき、理子ちゃんは自分の首を絞めて、死のうとしてた……!!だから、今理子ちゃんを1人にするのは危険なの!!だから、一緒に探して欲しい!だから、人が多い方がいいから望ちゃんも呼んで欲しい!」
kは少しめんどくさそうに頭を搔く。
「理子という少女に介入するのは、得策ではない。彼女は——」
「そんなのどうでもいい!!まだ中学生なんだよ!?死んじゃっていい訳ないじゃん!!kだって望ちゃんが死んじゃったら……そんなこと考えたくないでしょ!?」
kは苛立ちを隠そうとせず「ふんっ」と言った。
そのまま腕を組み、少し考えて、「ハァ」とため息を着いた。
「来い。望」
k!分かってくれたんだね!
「危ないことになったらすぐに帰らせるからな!」
kがそう言い終わると、何も無い空中から望ちゃんが出てきた。
望ちゃんは床に着地する。
望ちゃんは辺りをキョロキョロと見て、私を見つめて笑顔を浮かべる。
「お久しぶりです。お姉様。」
美桜が望ちゃんを見て、一瞬確かに激しい怒りを顔に出したが、すぐに不思議そうにした。
「望、美香が理子という少女を探しているそうだ。手伝ってやれ。ただ、危ないことはしなくていい。そうなったら大人しく私を呼ぶか、帰ってこい。」
「はい。承知致しました。しかし、理子様は確か……」
「いや……いい。美香が言うんだ。手伝ってやろう。」
「そうですか……分かりました。」
あれ?
その話まるで……
kが手伝ってくれないみたいじゃないか?
「kは?」
「私は……少し忙しい。望は付けてやるんだ。許してくれ。」
kは腕を組んだ傲岸な態度のまま言うが、
望ちゃんが手伝ってくれるだけ、良いのだろう。
……でも理子ちゃんの命がかかってるのにと思う気持ちもあるが、口に出しても変わらないだろう。
今はそんな自分のモヤモヤを晴らすことに時間を使うべきじゃない。
すぐにでも探しに行くべきだ。
私たちは家を出る。
「お姉様、私たちそれぞれ別の方向に行きましょう。」
「確かにそうだね。美桜、望ちゃん、頼んだよ!」
「はい!」
「分かりました。」
私たちはそれぞれの別の方向へ探しに行く。
……しかし、結果は奮わなかった。
朝になる前に、私と美桜は一度家に帰った。
美桜が記憶を飛ばすタイミングというのが分からない以上、無理に探すと、要らぬ事故を呼ぶ可能性もあった。
望ちゃんは少し思い当たる場所があるらしく、そちらに行くと言っていた。
期待して、外れたとしても望ちゃんのせいじゃない。
だから、望ちゃんに全てかける訳にもいかない。
美桜をベッドに寝かしつけて、
しかし、そこで私はまた探しに行くことは出来なかった。
……今回美桜は確かに私と生きると言ってくれた。
でも、それが次の日にも受け継がれるのか、よく分からなかった。
……美桜が朝起きてすぐに死んでしまうかもしれない
……そう思ったら家を出られなかった
……最低だ
……命の取捨選択をした
でも、ごめん……
……美桜は私の愛しい家族なのだ
理子ちゃんとは比べられない……
……あぁそんなことを考えているのも最低だ。
……目を覚ました美桜は私のことを見て、満面の笑みを浮かべた。「お姉ちゃん、何かいいことがあった気がします。なにかありましたっけ?」そう言う美桜に、私は笑顔を浮かべた。
……それは心からの笑顔だったんだ
……そう、その時の私は理子ちゃんよりも、美桜のことを優先したんだ。
美桜が元に戻った。
だったら探しに行けばいい。
理子ちゃんを探せばいい。
まだ今なら見つかるかもしれない。
……でも、
……でもさ
ずっと会いたかった美桜が、帰ってきたんだよ……?
そんなの離れられない……
ごめん……!ごめんね……
私はお姉ちゃんでしか、無いんだ……
本当は人のことまで、手を伸ばせるほど出来た人間じゃないんだ……
……ごめんね
……私は理子ちゃんのことを……捨てて……美桜といつも通りの日常を過ごした。
あぁ……最低だ……
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男はため息を着くと、話し出す。
「やっぱり、君が匿っていたか」
「ん?そうだよ?だってさ、こんなになっちゃってるんただよ?可哀想じゃん!私が救わなきゃじゃん!これは、オタクとしての義務だよ!」
こんな、と少女が指さしたベッドには……
……ツインテールの少女が虚ろに目を開けながら寝転がっていた。
「こんなって、君がやったんだろう?」
男は怒気を滲ませる。
「えー!?今更そんなこと気にするの!?いーじゃん!理子ちゃんが死にたいっていうから、意識を飛ばしてあげたのー!もう!何がいけないの?」
……少女は子供が質問をするみたいに、純粋に問いかける。
男は何も言わなかった。
ただ、その場から悲しそうに立ち去った。
途中、男は小さく、
「……帰ろう」
そう誰かに呼びかけた。
少女はそんなことを気にしていないみたいで、
ピンク色1色の広い部屋に、天蓋付きのベッド。
その中心で目を開けているツインテールの少女を、ずっと見つめ続けた。
「私が、トイレからお風呂まで……なんでも世話してあげるからね……」
少女は愛おしそうに、ツインテールの少女の唇をツーっと撫でる。
……少女の意識はずっとツインテールの少女に向けられていたが、ツインテールの少女は、少女を見ていなかった。
ただ、虚ろに天井を見ていた。
それは、天井をも越えて、雲の上を見ているようであった……




