1章 幕間2 「妖精の研究員」
それからの生活というのは、はっきり言って酷いものだった。
美桜は腕が無いし、私から離れない。
中学校には家の都合でしばらく休ませる、なんて言ったがそんな理由でいつまで保つか。
なにより、美桜の腕と頭を治す手段が一切見つからないまま、1ヶ月が過ぎた。
適切な処置はしたかったので、普通の病院に連れて行って、腕を処理してもらった。多分、少しはマシになるはずだから...
夏が始まる前に起きた私たちの出来事は夏にまでもつれ込み、
そして……
この夏の間にも、また大きく変化していく、そんなふうに感じる。
もう元には戻れないんだ。
———————————————————————————
「えっ治るの!?」
「そう決まったわけじゃない。だが、腕の方は……手段は、ある」
私は美桜を寝かしつけたあと、美桜の部屋でkと1ヶ月ぶりに話していた。
現状を変えたくて、呼んでみたら、来てくれた。
「ただ、私は反対なのだ。あの女のためにそこまでしてやる義理はない。」
「でも、わざわざ言ってくれたってことは、理由があるんでしょ?」
「あの子が……あの子がそうしろと言うのだ。」
あの子、というのは……
『あの子』か。
kは憎々しげに言う。
「私はっ!反対なのだ!このような方法...!」
「待って待って!まずは、話してくれない?」
kは吐き捨てるように言った。
「あの子の切り落とした腕が残っている……私は!あの子に腕を返してあげたかった……でも、あの子がその腕をあの女につけてやれというんだ……そんな事をしたら、もうあの子は元には戻れないのに……」
「あの子の腕……」
切り落とした?
あの子は、魔法少女になった結果、あの見た目だった訳じゃなくて、あのライオンのような腕は、やっぱり付けられた腕だったの?
いや、それよりそんなの、反対だ。
反対に決まってる。
美桜を助けるために1人を犠牲にして何になるんだ。
それでは何も変わらない。
いや……犠牲になるものなしに、腕なんて大きなものは治せないのかもしれない。
でも!これは反対だ!
「それは受け取れないよ」
「だろうな。だが、もう付けた」
「は?……今、なんて?」
「もう、付けた。……あの子が自分で、自分の腕を、あの女に付けたのだ……」
は?何言ってるの?もう付けた?
は?
は?
ガチャ
あの子が部屋に入ってきた。
その見た目は初めて会った時と変わらず、傷は完治したように見える。
「私がさしあげたいと言ったのです。お姉様。ですから、お気になさらないでください。」
「なんでっ!?……あなたの腕なんだよね!?……大事にしてよ……」
美桜の腕が無くなって、腕の大切さに、より気づいた。
腕って人間を構成する要素の1つなのだ。
それがないだけで、美桜が美桜で無くなったような気がした時もあった。
それは美桜の精神面でも……美桜の外見でも……
そんなものを人にあげるなんて……!
「お姉様は誤解しています。私はもうその腕には戻るつもりがありませんでした。この腕は研究員の皆様が私のために作ってくださったもの。このしっぽも、この目もそうです。そして、この少女の肉体自体も、研究員の方々が作ってくださったもの。ですから、必要無いと腐らせておくよりも、有効活用していただく方が、私にとっては嬉しいのです。」
あの子は微笑む。
……全てが作り物?
少女の見た目も?
その、獣のような部位も?
……そんなことが出来るのか?
……いや、出来るのか。
否定しようにも、彼女はそこにいる。
それが何よりの証拠だ。
私たちのやり取りを見て、kがぽつりと言う。
「……私は反対だった。その子の体を人に渡すなんて、嫌だった。……でもその子があげたんだ。……だから、大事にしてくれ」
……返せない……!
返せないよ!
腕の恩なんて……!
どうすればいいの……?
私達に受け取る資格はあったの!?
私たちはあなたたちを傷つけたんだよ!?
「お姉様、気にする必要はありません。お姉様の妹様は、私にとっても、家族のようなもの。その妹様のお役に立てるのです。何も思うことはありません。」
あの子は微笑む。
私は、噛み締めるように
「ありがとう……!!絶対……!絶対大事にする!!」
そう言った。
あの子は昔の美桜みたいに、満面の笑みを浮かべた。
そのあと、私は泣き出してしまい、私が泣き止んだのを見てからkは頭を治せるかもしれない方法ついて、話し出した。
「私たち研究員にはそれぞれの分野がある話はしただろう?それぞれの分野と研究内容も大抵話した覚えがある。」
あ、どうしよう。
その話、聞き飛ばしたんだった。
「そして、魔法少女について研究する者について話したのも、覚えているだろう?」
覚えて……ない!
だって、あの時は脚本の話だと思ってたんだもん!
今となっては、大事な話だったんだろうなって思うけど!!
……多分、私が思うに研究員と管理局の対立というのは、脚本に関係なく起こっている。水族館の時の配信がどのように行われているか心配になって、初めて配信を見た。そこには、私が怪獣を倒す所までしか映っていなかった。
ややこしいが、研究員は管理局と対立している。それは脚本じゃない。そして、管理局と対立しているということは……私の敵とは限らない。
いや、管理局も敵とは限らないことを忘れてはいけない。
だいいちkと『あの子』だって、私達を助けてくれた。
いや、話を戻そう。
……どうしよう。
kは話し続けている。
その内容はほとんど理解できず、
多分この間の話を前提に話している。
……聞いてなかったとは言えないなぁ
でも、美桜のことがかかってるんだ。
言うぞ……
言うぞ……!
kは私のことをあまりを見ていないのか、ペラペラペラペラ続きを話し続ける。
……これを止めるのはしんどいなぁ……
でも、やるぞ!
「あ——」
トントン
私の肩を『あの子』が叩いていた。
『あの子』が手を口元に立てて、私の耳元に近づける。
私も耳を近づけて聞く準備をする。
「……お姉様、あとで私が話を要約した紙を渡しますので、ご安心下さい。」
……なんていい子なんだろう。
kの方をちらっとみると、こちらに気づいた様子はない。まだペラペラとずっと喋っていた。その内容は頑張って聞こうとするがやはり分からず……
「……お願いするね」
「はい!」
その顔は……満面の笑みだった。
……チクリ
私は胸の痛みに目を背け、笑顔を浮かべる。
そのままkは30分ぐらい話し続けた。
私は『あの子』が要約してくれるというので、あまり聞いていなかった。
kが気づく様子はなかったので、そのまま小さい声で『あの子』と話をする。
私がその話を要約すると、
『あの子』は私の次にkに手掛けられた存在だから、私のことをお姉様と呼んでいるらしい。
『あの子』は元になった体があったりする訳じゃなく、1から全て研究員に作られたんだそうな。
『あの子』に名前はないらしい。つけてあげてよ。いい子だぞ。
『あの子』が水族館の時にいたのは、kが私に会いたがってると思ったからだそうな。いい子だな。名前付けてあげてよ。
一応は魔法少女らしい。kがそうさせたそうな。
本当はめちゃくちゃ強いっぽい。序列一桁台に対抗するために、怪獣の研究員が色々やったそうだ。
ただ、本人自身が争いを望まないから、あの場ではやられたんだそうな。
名前付けてあげてよ!いい子だぞ!!
……と、ここまでで約30分。
私たちが話し始めるまでにもkは30分ほど喋っていた。
合わせて1時間。
kはまだ話していた!
私がkに向ける視線に気づくと、『あの子』は困ったように笑う。
そして、口を開いた。
「ご主人様、お姉様も疲れたご様子。今日はここまでにしてはいかがでしょうか?」
なんていい子なんだ!!名前!!
「ふむ?確かにそうみたいだ。分かった。話したように、鍵になるのは魔法少女の研究員、能愛だ。性格も話した通りだ。取り入るすべも話した通りだ。能愛と万が一戦いになった際の注意点も話した通りだ。あと絶対能愛にしてはいけない話も、話した通りだ。わかったな?絶対だぞ?どうなっても知らないからな?能愛の実力は序列五位は間違いなくあるからな?」
やばい。大事なこと、だいたい聞いてなかった。
しかも結構大事なことだった。
……だ、大丈夫なの?
あ、『あの子』が小さく手を振ってる。
大丈夫みたいだ。
「も、もちろん聞いてたよ?そ、それより、その子に名前付けてあげてよ。無いんでしょ?」
誤魔化してみる。
「名前か……1つ、案はあった。お前が嫌じゃなければ、私の名前を1文字、貰って欲しい。」
なんだ、kだって、考えてたんだ。
「ご主人様の、名前を…………もちろんです。尊敬するご主人様のお名前、是非とも頂きたいです。」
「そうか。なら、私の名前から1文字取って、望むの望で、のぞみ、そう名付けよう。これからは望むように生きるがいい。私が守ろう。」
……え!?
kの名前!?
何それ!?
「ありがとうございます……!望……すごくいい名前です……」
「お、おめでとー!望ちゃーん!」
私は取り敢えず祝福し手を叩く。
望ちゃんは嬉しそうに笑う。
「望、好きなように生きろ。私にはもうこれ以上やることはない。だから、君が一緒にいる必要はない。」
「いいえ、ご主人様。やることがなくとも、私はご主人様のそばに居ます。ずっと……ずっと……」
「そうか……」
へぇ〜
ふーん
へぇ〜
そうなんだなぁ〜
すると急にkが私に向き直った。
「……なにか勘違いしているだろう?望は私の娘だ。変な勘違いするな。」
「はい!はい!望はご主人様の娘です……!」
望ちゃんは娘と言われたことすら嬉しいらしく、笑顔を爆発させる。
……胸が痛い。
「分かった分かった!kの娘ねー」
「絶対わかってないだろう……」そう言いながら、kは時計を見た。
「あぁ、もうそろそろ君の妹が起きる。私たちが帰る時間だ」
「だから、なぜ美桜のことまで分かるの?怖いんだけど」
「今から大事なことを言う。」
急にkは私に真っ直ぐ向き直った。
「君の妹には、もう自身の記録を見せるな。」
……そうだろうな。
だって、見せる度に美桜はなにかが溜まって言っている感じがあった。フラストレーションのような、似た何かのような。
少なくともいいものじゃない。
「分かった……」
「それと、私は戦闘能力が低く、身分がバレてはいけないから、こうやって変装しているが」
kはそう言いながら、自分のモヤを指さす。
「他の研究員は違う。皆序列一桁と同等の戦力を持っているから、その行動と振る舞いは堂々としたものだ。隠す必要が無いのだ。敵に回すな。今の君たちでは勝てない。無いとは思うが、怪獣の研究員だけは、絶対に、絶対に敵に回すな。管理局が敵に回るよりも、世界が敵に回るよりも、もっと大変なことになるぞ」
管理局を敵に回すより?
世界を敵に回すより?
……個人ですよね?
改めて、研究員に対して恐れを抱く。
いや、そもそも研究員が何かもよく分からないが。
「それではここで失礼する。」
「お姉様、お会いできて、嬉しかったです。」
「うん!また会おうね!」
望ちゃんは私の手を握るとそっと紙を握らせ、
kとともにモヤに吸い込まれて、消えていった。
紙を開くと、
「妹、美桜の頭を治す術を知っているかもしれない者、魔法少女の研究員、能愛。齢26歳にして魔法少女になる大天才だが、性格に難があり、魔法少女に関すること以外興味を示さない。能愛に話を聞かせるには、君の魔法を見せるのが手っ取り早い。それで興味を示さなかったら、実力で黙らせるといい。多分無理。配信で映った魔法少女の魔法は全て模倣していて、とても手強い。多分望でも無理。てかそんな戦いさせない。うちの娘だぞ。」
綺麗な、見本みたいな字なのに
……うちの娘だぞの周りだけ、字が踊っていた。
「アジトの場所は口で伝えるには少しややこしい。当日は案内するから、私を呼べ。それと、絶対に、能愛に歳の話はするな。見た目には触れるな。絶対。絶対。」
紙に書かれたのはそこまでだった。
うーん……
kって……
いい人過ぎない!?
着いてきてくれるの!?
私、1人で行かなきゃ行けないって覚悟してたのに!!
良かったぁ……
私は安堵に包まれて、そのまま自室に戻る。
そして、美桜を抱き締め直して、寝た。
次の日、美桜にはkの忠告通り、記録を見せなかった。
美桜は1ヶ月ぶりに笑った。
当時ほどの、満面の笑みではないが、
確かに……確かに笑ったんだ。
私は自分が喜んでいることに、怒りに近い感情を覚えたが、気づかないフリをした。
——そして、能愛を探す日々が始まる。
1章 妖精の研究員編、完
——————
以下は1章の間に作者がやむを得ない事情により、ボツにしたタイトル達です。
第9話「やがては」
↓
美桜が持ってきた百合本を一緒に読む際、美桜に見せていい内容か分からなかったので、美香が自分基準でストップをかけると宣言したことを受けて、
「お姉ちゃんストップがかかったら、読むの辞めるんだからね!?」
第9.5話「終点」
↓
望が培養槽から出る際に、破片が飛び散っていたら、痛いよな。というのを受けて、
「割れた培養槽の鋭利な破片が研究員に刺さった!『いてっ!』」
第1章幕間1 「記憶」
↓
「はい、今から3数えると美桜の記憶がなくなります。はい、1.2.3.『あああぁぁぁぁぁぁ!!』美桜は慟哭した!」
引き続き、この作品をよろしくお願いします。




