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魔法少女ごっこをしてるだけなのに、勝手に周りの人が曇っていくのはなぜ?  作者: さたけやま


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1章 幕間1 「記憶」

私たちは家に帰ってきた。


 美桜は私の部屋のベッドに、私を置いた。


 私は、まだ生えてこない手足と、これまでの状況を思い出して、ボーッとする。


 単純な疲れもあるだろう。


 だから、本当のことをいえば、眠ってしまいたかった。


 でも、


 これからの話はしなければいけない。


「美桜、その腕は……治るの?」

 美桜は伏し目に私を見る。というか、さっきからずっと目線が私から外れていない。

「……お姉ちゃんこそ、元に戻るんですか……?」

「…………」


 あぁ。

 私には美桜を安心させてあげることができない。

 治るかは分からない。


 いや、

 ……美桜もそうなのかな。

 美桜も治るか分からないのかな。


「……一応、私の腕は管理局が経営してる病院でなら、治ります。でも、その際に何をされるかは……分かりません。」


 治るのか。切られた腕だって置いてきたのに……


でも……


「絶対行かないで」

 

 私と姉妹だと知られている美桜が今管理局の膝元の病院に行くなんて、危険すぎた。

 多分、管理局というのは本当に残酷な組織なんだと思う。

 脚本に沿っているからというのを建前に、少女に消えない傷をおわせることも、決して味わうはずではなかった痛みをもたらすのも、容認している。

 私はそんなやり方が許せなかった。


 それに、管理局が知らない方法で魔法少女になった私のことを、管理局がどう扱うか分からない以上、慎重に動いておいた方が良さそうだった。


 それと、私は、

 魔法なんてものと魔法少女なんてものが本当に存在することに、全く持って理解が追いついていなかった。


 いや、kが私の元から帰る時にモヤに吸い込まれて消えること、ツバメからkを見た時に子供に見えたこと、全てが現実では起こらないようなことだった。だから、言われてみれば、それを何かしらの技術だと考えるより、魔法と言われる方がしっくり来るのだった。


「はい。私はもうお姉ちゃんから離れないので、お姉ちゃんが管理局の病院に行かないなら、私も行きません。」

「そっか……」


 私がこんな状態になってるのは、美桜からしたら酷いショックなんだろうな。私自身は痛みも感覚もなくて、自覚が湧かないが。


 でも、美桜の腕が片腕しかないのを見てると、酷く胸が痛む。

 多分これが、そうなんだろうな。


 腕や手足の怪我にばかり目を向けていてもしょうがない。

 気になるのは……


「美桜は他に怖い思いしなかった?大丈夫?」

「大丈夫……です。」

「…………」

「…………」


 美桜の様子がおかしい。ここまで口数は少なくなかった。それに、やっぱり笑ってくれない。美桜は私に対してはいつも満面の笑みを向けてくれていた。


  ……それが無いって事は、私のことが好きじゃなくなっちゃったのかなぁ


 なんて、分かってる。

 今の状況のせいだろう。

 きっと、きっとまた笑ってくれる日は来る。


 あと少し気になることがある。

 1つは……


「美桜、今は何も覚えていられないって、本当?」

「はい……私はもう、何も覚えていられないので、スマホに1日あった出来事を、全て記録しています……」

「そっか……」


 ……なんで美桜がこんな目に……


 ただの、中学2年生として生きさせてくれないの?

 どうしてこんな歳の女の子が犠牲にならなきゃいけないの?

 配信なんかの、エンタメのために。


 ……他にも気になることがある。


「水族館はどうなるの?」

「……管理局が処理をします。配信のセットが壊れただけだって、そう思わせる魔法を使います。魔法少女の家族が疑問を持たないのも、配信での人払いも、全て魔法です……」

「……魔法ってそんな便利なの?だって、絶対に全員を騙すことなんて、できると思えないんだけど。」

「騙せなくても……いえ、騙せなかったら……管理局の暗部によって、その人物を粛清されます」

「粛清……」


それって殺されるってこと?

 ……それも少女にやらせてるってことだよね?

 そんなことが許されていいわけない……

 

「……恐らく、お姉ちゃんにどうにかしようとしたら、このチームが動くと思います。チームのトップは対人戦において序列三位相当だという噂があります。」


 三位。

 翠が七位で、私には一切動きがわからなかったし、戦っても絶対勝てなそうだった。


 そこから四つも上か……

 

 勝てないだろうなぁ……


 そして、噂、ね。多分管理局が裏切らないよう抑止力として、意図的に流しているんだろうな。


 最後に……


「美桜、お姉ちゃんは美桜のこと、はっきり言って、恋愛的には何も思ってないんだ。」

「っ!!そう……ですよね……」

「でも、美桜のことは家族として大好きだから、一人で抱え込まないで。私は大好きな美桜のためなら、なんでも出来るから。」


美桜は肩を震わせる。

 

「じゃ、じゃあお姉ちゃん。抱きしめてもいいですか……?」

「……いいよ。私は返すことができないけど、それぐらいなら……」

「お姉ちゃんっ!」


 美桜が私を片手で抱きしめる。皮肉にも私の手足がないから、美桜が私をより密接に抱きしめた。


「キスは……キスはダメですか……?」

「……………………だめ」


 なんでダメって言ったかは自分でもはっきりしなかった。美桜にされた時、嫌ではなかったはずだ。

 ……どちらかというと嬉しかった。

 もしかすると、あの時の美桜を思い出すのが嫌なのかもしれない。それか、ただ単純に、私に恋愛感情が無いのにそんな事をするのは美桜に失礼だと思っただけかもしれない。


 そのまま、どれ程が経っただろうか。

 美桜が離してくれる気配はなく、かといって私も離れたい訳じゃなかった。


 なんだか人肌が恋しかったのかもしれない。

 美桜の体の温かさは私を安心させてくれる。


 夏手前の暑さもあって、私と美桜は互いに汗をかいてしまう。

 でも、それすらも気にならなかった。


 気にならなかったんだよなぁ……


 美桜に抱きしめられて、どれ程が経ったのか分からない。ただ、美桜が「え?」と言った声で気づいた。

 私の体が生え始めていた。

 その末端が美桜にぶつかっていた。

 美桜は慌てて私をベッドに置く。


 私自身も驚いていた。

 もう治らないと思っていた。

 少しは覚悟していた。


 あぁ……腕がある。

 足がある。


 これなら、美桜1人に背負わせることもない。

 美桜を抱きしめてあげられる。


「……ありえない。どうして治っちゃったんですか……?」


 ……美桜の反応は思っていたものと違った。


「ええと、でも、治ったから、美桜のこと、抱きしめてあげられるよ?」

「私は……手足が無いお姉ちゃんなら……私がお姉ちゃんと死のうとしても逃げられないと……思っていたのに……」


美桜はまだそんなこと考えてたんだ。

 

「美桜……お姉ちゃんはね、美桜とだからって訳じゃなくて、誰とも死にたくないの。生きられるだけ生きて、天国で思い出話とか、片方が居なくなったあとの話をするとか、そういうことがしたいな」

 天国があるなんて思い込むのは、夢想家だろうか?

 私は自分にそう思う。

 いや、でも、今の美桜にはそういう話のが大切な気がする。

 そんな、気がする。


「でもっ!……でも……いえ……」

 美桜は諦めたように何も言わなくなる。


「美桜、思ってることは全部言って」


「お姉ちゃん好きです。好きなんです。愛してます。お姉ちゃんにも愛して欲しい。お姉ちゃんからの愛の印が欲しい……だって、今日の私はもう死んじゃうんです……だから、お姉ちゃんに愛された幸せな記憶で死にたい……」

「……どういうこと?」

「私は、もうそろそろ記憶を無くしてしまいます……今日のお姉ちゃんを好きな私は!それで死んじゃうんです!また明日……私が知らない私が、記録を見てお姉ちゃんに愛を伝えようとする。でもそれは!私じゃないんです!今日お姉ちゃんを好きな……」


 そっか。

 そうなっちゃうんだ。

 一日おきに記憶が無くなっちゃうんだね。

 そうなんだ……


 そう……なんだ……


 それでも……

 それでも……


 美桜は私の妹なんだ……

 私が守る家族で……

 恋愛的には見られない……


 だから、


「美桜、最後まで抱きしめてあげる」

「お姉ちゃん……はい。私を看取ってください……」


 美桜を抱きしめたまま、1日を明かした。


 美桜は必死にスマホに今日のことを書き留めていた。


 そして、


 次の日起きた美桜は私を見て大きな声を上げて驚いた。


 私はそれを見て、本当に美桜は記憶を無くしているとしって……

 しって……


 美桜にスマホを見るように言った。

 美桜は私が知っていることに、少し訝しみながらスマホを見た。


 泣いた。


 そして、美桜は涙を拭おうとして右手が無いことに、気づいた。

 絶叫した。


 美桜は右手のことを書かなかったみたいだ。

 でも、私に好きを伝えたことや、水族館の思い出は書いていたらしい。


 美桜は、今知った情報で当時を思い出して慟哭する。


 美桜は、いつか壊れしまうのかもしれない。

 ……美桜を治す方法を探さないと。

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