第11話 「一緒に」
……え?
なんで、こんな……
……ここまでやるのか?
水族館が、建物1つがぐちゃぐちゃだ。
水槽に入っていたクジラだって、死んだ。
あれすら作り物だったなんて、ありえるのか?
私には分からない。
でも、やり方は、……そのやり方は気に食わなかった。
ただ、今は
美桜を安心させてあげたい。
それが一番優先されることだ。
ダンダン!
足を踏みしめる。
足が治った。力が入る。腕も生えてきた。走るのに違和感は無い。
クジラの怪獣が少し遠くに見える。
私はその背を追うように水族館の敷地をまたいだ。
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建物と呼べるものは、何も無かった。
全て、瓦礫の山だ。
そして、そんな殺風景にふよふよと浮かぶ、あれが配信カメラなのはすぐに分かった。
本当に配信だったんだ。
……ムカつく
「美桜ー!!美桜ー!!返事してー!!」
私は大声で呼びかける。
私は配信だと分かっても、この殺風景を見て、余計美桜が心配になってしまった。
敷地は広く、探すのは時間がかかりそうだった。
クジラの水槽があった辺にいる気がするが、これだけ瓦礫しかないと、どこがクジラの水槽の位置なのか、よく分からなかった。
「美桜ー!!」
私は走り続けた。
怪獣のクジラは当たり前みたいに空を飛んでいた。
……でも、少し様子がおかしかった。
ユラユラ、ユラユラと限られた位置をずっと旋回していた。
嫌な予感がして私は怪獣に向かって走り出した。
パカッ
クジラが口を開けると、瓦礫の山がどんどん口に吸い込まれていく。
そうやって、瓦礫が無くなると、
いた。
美桜だ。
美桜は足をぺたんと地面につけて項垂れていた。
表情は、見えない。
「美桜!!」
私は呼び掛けながら近づく。
……あれ?
「美桜ー!!」
……美桜が私を見ない。
なんで?どうして?
私にいつもみたいに笑顔を向けてよ
怖い
どうしたの?
私を安心させてよ
「美桜!!」
肩を揺さぶる。
「……あ……」
美桜は呻くような声を上げる
美桜はまだ動かない
スゥゥゥゥゥゥゥ
怪獣が美桜と私に狙いを絞って吸い込もうとしていた。
「お前に美桜は、渡さない!」
私は怪獣の吸い込む力を利用して、一気に近づくと、その下顎を
バーーーン!!
思いっきり殴ってやった。
怪獣はその勢いで、下に叩きつけられる。怪獣の下顎がぐちゃぐちゃになった。
……ざまぁみろ
私は吹っ飛ばされて、美桜をも通り過ぎて、離れた位置に飛ばされる。
それでも美桜が心配で、無くなった腕を庇いながら美桜に近づく。
「美桜!」
私は残った左手で肩を揺さぶる。
「…………あ……あ……あ」
……美桜は呻くだけだ。
ホォォォォォォォォォ!!
怪獣がまた動き出す。
「美桜!起きて!」
怪獣は私たちに近づいてきていた。
私は美桜から大きく離れて、怪獣を離れた位置におびき寄せる。
ホォォォォォォォォォ!!
怪獣が体を捻りながら、そのシッポを私にぶつけようとしてくる。
「やぁぁぁぁぁぁ!!」
私もそれに左手を全力で、ぶつけてみる。
パーーーーーーン!!
聞いたことのない、破裂音のような音がする。
私の左手は、また無くなっていた。
また吹き飛ばされた。
怪獣は?
怪獣は……
……どうしてあれで生きていられるんだ……
怪獣はしっぽが丸々無くなっていて、顔もぐちゃぐちゃになっていて、口が開きっぱなしだ。開いた口からはずっと血がボタボタ落ちてきている。
やっぱり腹を狙わなきゃいけない。腹はあの怪獣の大部分を占めているからだ。
でも、最初腹を殴ったのに、あまり効いていなかった……
……なら、
……徹底的に壊すしかないよね?
……あれ?右手がまだ治ってない……
左手もそうだ……
攻撃手段が足しかない。
でもまぁいいか。
あいつを殺せるなら……!
私は走り出す。
クジラはビル1個分ぐらいの高さで浮いていた。
私のことを脅威だと思ったのか、私を見ていた。
私は気にせず、手前でジャンプした。
どうにか足が壊れない強さで飛ぶことに成功。
私は怪獣に向けて、その勢いのまま、右足を向ける。
ぐちゃ、ぐちゃぐしゃ、べちゃ
怪獣の腹の中にある、遮蔽物を全て蹴り破り、空に浮く。そのまま怪獣に着地……出来なかった。
私は転んだ。
それでもどうにか背に留まる。
……私の右足はひしゃげていた。
私は怪獣の背で寝転んだ。
そして、駄々をするみたいに寝転んだまま、残った左足を上にあげ、思いっきり振り下ろした。
足が砕けると同時に音が鳴った。
ボッ!!
なにか硬いものを粉砕したような音がなり、怪獣はその身体を暴れさせながら、地に落ちていく。
手足がない私も、一緒に落ちていった。
ズシャーーーーーーン!!!
砂煙を上げながら、瓦礫の山を蹴散らしながら、怪獣は地に落ちた。
手足がなくて踏ん張れない私は、当然投げ出される。
ガスっ!ダッ!ガッ!
色んな音を立てながら私は転がる。
ガツン
何かにぶつかった。
それは温かくて……
あ、
美桜だ……
私はちょうど、美桜の顔をのぞきこめる位置に転がっていた。
だから気づいてしまったのだ。
……美桜は泣いている。
「美桜!」
「……………………」
「美桜!!美桜!!美桜!!」
「お姉ちゃん……お姉ちゃん……お姉ちゃん……お姉ちゃん……お姉ちゃん……お姉ちゃん……お姉ちゃん……お姉ちゃん」
美桜はうわ言のように私を呼び続ける。
「美桜!美桜!!美桜!!私ならここにいるから!!美桜!!」
「……え?」
美桜が顔を動かした。
良かった。
美桜が生きてた。
美桜
美桜
美桜
「ヒッ!!ああああぁぁぁあぁああ!!!!!」
美桜が悲鳴を上げた。
「美桜?」
「あっあ……あっあ、あ!あぁ!!」
美桜は自分の顔を掻きむしって悲鳴を上げる。
「美桜!!大丈夫だから!お姉ちゃんはここにいるから、安心して!!」
「あ、安心!?なにが、なにがなにが!なにがなにが!!……何が安心なんですか!!もう、手遅れじゃないですか……あぁ……もう……お姉ちゃん……お姉ちゃん……お姉ちゃん……あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
美桜はわんわんと泣き出してしまう。
なんで!?
私、何かしたっけ!?
美桜
笑って
美桜
泣かないで
美桜
美桜
美桜
「美桜!大丈夫だから!お姉ちゃんが着いてるから!」
「あぁ……」
美桜は手から札を取り出した。
「お姉ちゃん……ごめんなさい……一緒に……最後は……一緒に……ごめんなさい……私となんて……嫌ですよね……でも……ごめんなさい……最後は……一緒に……いさせてください……」
美桜が持った札は赤赤と燃えだした。
その炎が美桜を包む。
「美桜!?何してるの!?今すぐやめて!!」
そして、美桜が私を抱き起こす。
炎が美桜から私へ伝播する。
「……お姉ちゃん、好き……です。」
「美桜!?」
好き?
なにが?
なんのはなし?
この炎は?
大丈夫なの?
美桜の服焦げていってるよ?
美桜の綺麗な体が黒くなっていく……
「美桜!!やめて!!死んじゃうよ!!」
「……お姉ちゃん……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「美桜!!」
美桜の顔が近づいてきて
「生きて!!」
死んで欲しくない
「死なない——んっ!?」
唇になにかがピッタリくっついている。目の前には美桜の顔。
あ、美桜
好きって、
私のことが好きだったんだ
どうしよう。美桜のこと離せない。手足がない。
悲しい。悲しい。美桜の気持ちに気づいたのに。
私たち死んじゃう。こんな終わりなんて。
美桜には大切な未来があるのに……
「私が助けてさしあげます」
バシャーン!
水だ。
ホースで出したような量ではない。大量の水が落ちてきた。
あ、美桜から火が消えている。
良かった。
良かった。
「……は?……私は……お姉ちゃんと一緒に死ぬことも許されないんですか……?いや……いや……もう1回……もう1回すればいいんです……アハハ!……誰かが邪魔をするなら……アハっ!」
美桜はゆっくりと誰かを見た。
私も美桜に抱かれたまま、視線を動かすと、そこには、
手がライオンのような。
足がトカゲのような。
うねうねと動くしっぽがミミズのような。
ねじれた角が龍のような。
目が猫のような。
お腹を露出したメイド服みたいな衣装。
それでいて黒髪ショートカット。
歪な特徴たちに、それ以外が幼い少女の見た目をした、化け物がいた。
「初めまして。お姉様。お迎えに上がりました。」
……そんな化け物が私に向かって、お辞儀した。




