ある令嬢の話③
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それから、ニコラス様は学園を欠席する日が続いた。
心配していたら、ニコラス様が隣国へ留学したことを知った。
隣国への留学はニコラス様の昔からの希望だったそうだ。
ドラクロワ侯爵令息と婚約したことで無しになったのを、この度婚約破棄になったことで留学を決めたとのこと。
「チャンスだと思って婚約を申し込んだけど、断られてしまったよ」
わたしに謝るお父様。
「ありがとうございます、お父様。だけど、もう良いのです」
「!」
「聞きましたわ。ニコラス様は隣国に新たな婚約者を探しに行かれたのでしょう?」
「………」
ニコラス様のお父様であるリンモッド伯爵はこの国でニコラス様の新たな婚約者は選ばないことを決めた。
ドラクロワ侯爵家からの圧が無くなって、リンモッド伯爵家へ婚約を申し込みやすくなったけど、同性との婚約が破棄になり更に評判が悪くなったニコラス様にこの国の令嬢を嫁がせて不幸にするわけにはいかないとリンモッド伯爵が断言したのだ。
ニコラス様がドラクロワ侯爵令息と婚約破棄したことでリンモッド伯爵家は大変な状況なのに、わたしたち令嬢の未来を案じてくれた。
ニコラス様は容姿だけではなく、性格もリンモッド伯爵に似たようだ。
「すまない、すまない……。リンモッド伯爵からも『息子のことは諦めて別の令息と婚約してほしい』と言われてしまったんだ……」
「あ、やまらないでください、お父様……」
声は震えてないかな。
初恋は実らなかったな。
わたしが、ニコラス様を幸せに……。
わたし、優しいニコラス様と夫婦になって幸せになりたかった……。
ドラクロワ侯爵令息がいなきゃ、ニコラス様の婚約者になれる望みは少しはあったのかな?
婚約破棄になってもニコラス様の新たな婚約をドラクロワ侯爵令息が邪魔をする。
(わたしが王族か公爵令嬢だったのなら、外聞なんて関係ないって強引にニコラス様を婚約者にすることが出来たのかなぁ……)
この家の娘に生まれて後悔はしていない。
爵位が低い男爵令嬢でもわたしは貴族だから、跡取りでなくても結婚して子どもを産まなければいけない。
婚約者探しは早く始めないと出遅れて同年代で家柄の良い令息は他の令嬢に取られてしまって、婚約者の条件がどんどん悪くなってしまう。
お父様は無理と分かっていても、わたしの意志を尊重してくれた。
ドラクロワ侯爵家から圧を掛けられてもリンモッド伯爵家へ何度も婚約を申し込んでくれた。
父親が娘の婚約者を好き自由に決められる中、こんなに幸運なことはない。
「お父様、今までわたしの我が儘を聞いてくれてありがとうございました。これからはお父様が選んだ殿方と婚約しますわ」
「っ、分かった」
ずっとニコラス様一筋だったけど、こんなわたしにも婚約を申し込んでくれた家はある。
今も相手方が待っているわけじゃないから、お父様の判断に任せるとしよう。
こうして、わたしの初恋は実ることなく散ったのだった。
わたしは、アルヴィン・ドラクロワ侯爵令息を殺したいほど憎んでいた。
ニコラス様が隣国へ留学して、学園に来なくなると記憶が戻ったらしいドラクロワ侯爵令息はまた人が変わったように性格が変わった。
横暴な態度も令嬢たちと行動するのも止めて、ニコラス様を探しているみたいだ。
一年後にニコラス様が学園に復帰すると、付きまとうようになって気が付けばドラクロワ侯爵令息は学園からいなくなっていた。
事故の後遺症が悪化して、休学したようだ。
落ちぶれたドラクロワ侯爵令息を見て、わたしの中にあった憎しみは消えてしまった。
だけど、嘲笑したりはしない。
ただ、婚約破棄になったけどあんな男にニコラス様を取られたことが悔しいのはずっと消えないだろう。
「良いのか?」
「えぇ」
わたしは拾って大事に保管していたニコラス様の手紙の紙切れを男爵令息に渡す。
「あなたに任せるわ」
「ニコラスと話さなくて良いのか?」
「いいの」
一年前と比べると、ドラクロワ侯爵令息が休学してから、ニコラス様は好きな本を読んで穏やかに過ごしている。
わたしは過去にニコラス様へ婚約を申し込んだ令嬢たちの一人に過ぎない。
今更関わるなんて、おこがましかった。
学園を卒業後、ニコラス様は隣国へ渡った。
リンモッド伯爵夫妻と共に移住するとのこと。
姿を見られなくなるのは寂しいけれど、ニコラス様が自分で選んだことだからわたしは何事もなく過ごせるように祈るだけだ。
「おい、ニコラスから手紙が届いたぞ」
「ほんと!?」
「奥さんと元気に過ごしてるってよ」
夫宛てに送られた来たのはクリームイエローの手紙。
相変わらず綺麗な字。
ニコラス様は隣国の女性と結婚した。
その報せを受けた時、わたしはショックを受けるかと思ったが安堵したのを覚えている。
「ねぇ、落ち着いたら隣国へ旅行に行かない?」
「おっ、いいな」
家督を継いだばかりの夫は忙しい。
わたしも男爵夫人として覚えることは山ほどある。
(ニコラス様。わたしはこの国であなたの幸せを願っています)
わたしが願わなくてもニコラス様なら自ら幸せを掴みに行くんでしょうね。
だって、あなたはわたしの初恋の殿方ですからね。
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