ある令嬢の話②
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アルヴィン・ドラクロワ侯爵令息が馬車の事故で記憶喪失になったというのは知っていた。
だけど、こんなに性格が変わってしまうなんて思わなかった。
ドラクロワ侯爵令息が破いた手紙は、ニコラス様と一緒にいる時に嬉しそうに読んでいたのを何度か見掛けたことがあった。
ニコラス様がドラクロワ侯爵令息へ送った手紙なんだろうとすぐに分かった。
便箋は白ではなく、淡い青色をしていたから覚えている。
ニコラス様がドラクロワ侯爵令息を見る目はとても優しかった。
ニコラス様もドラクロワ侯爵令息のことを慕っていることは嫌でも理解した。
何故、ニコラス様の目に映るのがわたしではないのかと何度思ったことだろう。
ニコラス様が幸せなら、わたしも幸せ。
ドラクロワ侯爵令息がニコラス様を大事にしてくれるなら、大丈夫。
なのに、なのに……。
「……こんなのってあんまりだわ!」
誰もいない庭園。
散らばった淡い青色の紙切れ。
見付けたらすぐに拾い上げてハンカチに包む。
ハンカチが紙切れについた泥を吸収して汚れても構わなかった。
「綺麗な字……」
破かれてしまったことで、手紙の内容は分からないけれど、見覚えのあるニコラス様の字だった。
ドラクロワ侯爵令息のために一生懸命書いたのかな。
真面目なニコラス様のことだから何度も書き直したんじゃないかな。
婚約者候補にもなれなかったわたしには受け取ることはないニコラス様からの手紙。
「ずるいわ……。こんな心のこもった手紙、婚約者しか貰えないのに……」
わたしの家の全財産と交渉を持ち掛けても、一生手に入ることはない。
ニコラス様とドラクロワ侯爵令息が婚約破棄になっても、わたしがニコラス様の新たな婚約者になれることはない。
「おい」
「ぎゃっ」
紙切れを眺めていたら後ろから声を掛けられた。
「『ぎゃっ』って……もっと可愛い声出せないのかよ」
「いきなりのことでそんな余裕ありませんわ」
わたしに声を掛けて来たのはクラスメートの男爵令息だった。
家が男爵同士だからか、話しやすい令息の一人だ。
「それ、ドラクロワ侯爵令息が破いた手紙だよな」
「!」
「俺たちも紙切れを探してるんだ」
「おれ、たち……?」
「ん」
男爵令息が指差す先には見知った生徒たちがしゃがみながら移動してたり、石を避けたりして凝視していた。
「あいつらもニコラスの手紙を探してくれるってさ」
「な、なんで……」
「なんでニコラスの手紙かって? ドラクロワがニコラスの前で暴露してたんだからそれはニコラスが書いた手紙だろ?」
わたしのハンカチを指差す男爵令息。
「そうじゃなくて!」
「じゃ、なんだよ?」
「どうして、あなたたちはニコラス様の手紙を探しているんですの?」
「そんなの当たり前じゃん」
「?」
「俺もあいつらもニコラスには色々と世話になったんだ。ドラクロワはどうでも良いけど、手紙はニコラスのものだろ。全部は無理だけどある程度集めたらニコラスに返すんだ」
「それは……」
「自己満足、余計なお世話。俺たちはそれを承知で探してる」
「!」
男爵令息はわたしが何を言いたいのか分かったみたい。
「強制じゃないからお前が拾った紙切れはお前の判断に任せるよ」
「っ」
わたしが紙切れを奪われないようにしてたのはバレていた。
「俺、後悔してるんだ」
「え?」
「同性婚を選んだからって嘲笑するのはおかしいって思っても何も出来ない自分が嫌になる。王族か公爵家に生まれてればって無い物ねだりだよ」
「………」
それはわたしも思っていたことだった。
「でも、気付いたんだ。学園の中では生徒たちはみな平等だ」
「え? えぇ、そうね?」
「これからは学園にいる間、俺はドラクロワに意見することにした」
「なっ!」
「ドラクロワが記憶喪失か知らないけど、ニコラスにも関わる」
男爵令息は迷いのない目をしていた。
「まっ、そういうことで。お互い探すの頑張ろうぜ」
「えぇ」
「これを機にニコラスに話せれば良いな」
「はいぃっ!?」
火照った顔が冷えるのに時間がかかったのはここだけの秘密だ。
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