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第50章  『死』(1)

大輝の視点


ここ数日、まともに眠れていなかった。


気がつけば視線は宙をさまよい、意識は別の場所へと飛んでいる。四日前に優一さんと交わしたあの会話を、何度も何度も思い返していた。


「あの日、お前にやってほしいことがあるんだ」


優一さんはそう言った。


「弟を昏睡状態から目覚めさせないでほしい」


「……は?」


思わず間の抜けた声が漏れた。


あまりにも唐突な言葉だった。


何を言われたのか理解できず、俺は小声で問い返した。


「どうしてですか」


顔に困惑が出ていたのだろう。優一さんは遠回しな言い方をやめた。


「はぁ……麗華はもうほとんど親権を手にしてる。実際に効力が発生するのも時間の問題だ。だからな」


肩をすくめる。


「長くても四日以内には、あいつは海斗を別の病院へ移そうとするだろう。そのとき何が起きるか、わかるよな?」


俺は反射的にうなずいた。


海斗の医療記録は改ざんされている。だが、それも有能な医師が一度診れば終わりだ。積み上げた嘘など一瞬で暴かれる。


その事実を知ったとき、あの感情の起伏が激しい女がどう反応するのか――想像しただけで胃がねじれるようだった。


「だったら」


俺は言った。


「親権を認めなければいいじゃないですか」


しかし優一さんは諦めきったような顔で首を振った。


「それは無理だ」


「無理!?」


椅子に座っていたなら、飛び上がっていたかもしれない。


「どうして無理なんですか」


あの女一人に藤村家がそこまで追い詰められるなど信じられなかった。


だが返ってきたのは、


「そんな単純な話じゃない」


それだけだった。


俺は額に手を当て、大きな箱にもたれかかった。


「じゃあ、どうするつもりなんです」


優一さんを見る。


「何か考えがあるんでしょう?」


優一さんはわずかに笑みを浮かべた。


「もちろんある」


「なら勝手にやってください」


俺は遮った。


「ただし俺を巻き込まないでください。それと、確実に成功させてください」


本当ならその場をすぐにでも離れたかった。


昔から閉鎖的な空間は苦手だったし、こんな倉庫に長居したいとも思わなかった。


だが優一さんは俺を引き留めた。


「計画はある」


そう繰り返してから、


「そしてお前はその計画の一部だ」


俺は眉をひそめた。


「それで、その素晴らしい計画って何です?」


狭い部屋に沈黙が落ちた。


永遠にも思える静寂のあと、優一さんの穏やかな声が空気を裂いた。


「殺す」


「――は?」


自分の唾でむせた。


何度も咳き込み、ようやく言葉を絞り出す。


「何を言ってるんですか……!?」


優一さんは微動だにしなかった。


笑ってもいない。悲しんでもいない。


ただ、どうでもいい話をするみたいな口調で続けた。


「言った通りだ。俺たちに残された道は、弟が死ぬことだけだ。他に方法はない」


そこで一度言葉を切る。


「海斗には本当に死んでもらう必要がある」


そう言って、自分の両手を見下ろした。


「本当に死ぬんだ。そうすれば義妹は親権を手に入れる。そして俺たちは真実を誰にも知られずに済む」


まるで頭の中で組み立てた筋書きをなぞるように語る。


「考えてみろ。俺は約束通り麗華に親権を渡す。だが運悪く、その当日に海斗は医療上の問題で死亡する。完璧だろう? 多少は疑われるかもしれない。でも時間が経てば全部落ち着く」


言葉は途切れることなく流れ続けた。


まるで俺に向かって話しているというより、自分自身を納得させているようだった。


「弟が死ねば、もう怯えなくて済む。家に帰って、命令を果たしたという満足感のまま眠れる。ぐっすり眠れるんだ」


その目がゆっくりと伏せられる。


「弟が二度と泣かないと知りながらな」


そして顔を上げ、俺を見た。


その瞬間、冷たいものが腹の奥を貫いた。


「それをやるのはお前だ、大輝」


それまで穏やかだった声が、不意に硬質なものへ変わる。


「四日後までに海斗が死んでいなければ、墓に入るのは俺たちだ」


優一さんは淡々と言った。


「必要なら、お前も道連れにするつもりだからな」


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