ワイバーン討伐
読んでくださってありがとうございます(*´ω`*)
森の中は意外と明るい。
落ちている葉は少なく、かわりに様々な植物が生い茂っている。
かと言って見通しが良いわけでもなく、使用する魔法は考えなくてはならないだろう。
「ヴァル殿下はワイバーンの捕獲担当といったところです?」
「そうだな。空を飛んでる場合、動きが速い場合なら拘束魔法を使って、あとは索敵と咆哮|ブレス|対策だな」
なるほど。となると闇魔法か。
闇魔法は便利な魔法が多いイメージだ。
私には適性が無かったため使えはしないが、似たようなことは守護石で出来てしまったりもする。
「騎士たちも気配を読むのに長けているから、だいたいは拘束だけになるがな」
「流石ですね」
森の中に点在している魔力の反応は、大小様々。人と魔物の区別はつくが、魔物の種類まで把握することは難しい。せいぜい強いかどうか分かるくらいだ。
「ー!」
サッとヴァル殿下が顔を向けた先、空気のざわめきと共に咆哮が響いた。
「ギャァァァアアアッッッ!!!」
どちらともなく駆け出した。
木々の間を駆け抜けひらけた場所に出る。
なぎ倒された木に囲まれるようにして騎士たちが1体のワイバーンと戦っていた。
硬質な黒い鱗と長い尾を武器とするワイバーン、竜型の魔物の弱点はその喉元『逆鱗』だ。
騎士たちは上手く連携して敵の注意を分散させ、隙を伺っている。
「おらっ!」
騎士の一人が大きく剣を振った。
仰け反ったワイバーンに別の騎士が蹴りを入れる。ワイバーンは体勢を崩した。
その隙を逃すはずもなく、ヴァル殿下が魔法を展開した。
「拘束|バインド|」
ヴァル殿下の魔法によりワイバーンはお腹を天に向けて地面に縫い付けられる。
そして素早く騎士が逆鱗に剣を振りかざした。
「ギィヤアアアアアアッ!!!」
断末魔を挙げたワイバーンはどうすることも出来ないまま事切れた。
(お見事…)
手慣れている。
私が入る必要など無かったためじっくりと観察することが出来た。
実はワイバーンを見るのは初めてだ。
倒し方などの知識は持っているが、実践に勝るものは無い。
「これで一体目―!」
「「「うおおおおおおおお!!!」」」
ヴァル殿下の言葉に被るようにして大声が聞こえてきた。
魔物と遜色ないほどの大声だが、間違いなく騎士たちのもの。
「殿下!!頼んだ〜!!」
見れば先程よりいくらか大きな個体がこちらへ突進中であった。
砂埃の後ろに、ワイバーンの後を追うカルダンと騎士たちの姿も見える。
「…拘束|バインド|」
一瞥したヴァル殿下が唱える。
さっきから思っていたが、展開速度が恐ろしく速い。
発動させる位置の狂いもなく、詠唱だけでここまで出来るのは相当だ。
ワイバーンが魔力に気がつくよりも速く展開しているからこそ、完全に動きを封じ込めているのだ。
身動きの取れないワイバーン。
いつの間にか追いついていたカルダンが真一文字に剣を振り抜く。
ワイバーンの首に線が走り、斬られた首がスッとずれ、落ちた。
「「「「おおおおおお!!!」」」
声すらなく落ちた首に騎士たちの歓声が響く。
逆鱗ではなく、そのまま首を落とせた所がカルダンらしい。
だからこそ、この騎士たちの盛り上がりようなのだろう。
「フィリアも出来るか?」
何がとは聞かずとも、首を落とせるかどうかだろう。
それはもちろん―
「出来ます」
「だろうな」
「お見せしましょうか?」
試したことはないが、私もドラゴンの首なら落としたことがある。
だから大丈夫だ。
「…いや、遠慮しておく。ワイバーンは素材として持ち帰らないといけないからな。出来れば頭と胴は繋がっていたほうが良い」
「なるほど」
少し残念な気もするが仕方ない。
「…どうやら集まってきているみたいですね」
「ああ」
これだけ騒がしくやっているのだ。
魔物たちが集まってくるのは当然とも言えるだろう。
ふと、空を見上げると影が差した。
悠々と空を飛ぶ二体のワイバーン。
耳を澄ますと戦闘音がするため、他の魔物の対処をしている小隊もあるのだろう。
「厄介だな」
ヴァル殿下は顔をしかめてそう呟いた。
魔法で拘束するには少々面倒くさい高さを二体は飛んでいる。
「仕方ない。撃ち落とすか…」
「片方、私に任せてくれませんか?」
私の言葉にヴァル殿下は驚いたようにこちらを見る。
「あれだけ飛び回っているんです。二体同時に撃ち落とすのは大変でしょう?」
「それは、そうだが」
「大丈夫です。地上に落とせば良いんですよね」
「ああ」
「任せてください」
ヴァル殿下は一瞬ためらう素振りは見せたものの、頷いた。
「今からワイバーンを地上に落とす!総員距離を取れ!」
ヴァル殿下の命令に騎士たちは各々動き出す。
「タイミングを合わせるぞ」
「はい」
魔法の展開準備をしたヴァル殿下の言葉に頷く。
「それでいったいどうするんだ?」
「蹴り落とします」
「は?」
「では、私が合図を出しますので…」
そう言って私は剣を鞘から抜き投擲した。
もちろんワイバーンに向かってだ。
目論見通り、片方のワイバーンの後ろ足付け根に突き刺さった。
それを見届け私は走り出す。
怒り狂ったワイバーンは私を目掛けて急降下してきた。
「今です!!」
軽く地面を蹴った私は手頃な木に跳躍し、そこからまた宙に飛ぶ。
「ウィンド・ランス!」
ヴァル殿下が魔法を発動させたのを視界の端で捉えながら、空中で身体を捻った私はそのままワイバーンの頭に踵落としを食らわせた。
ーゴッ
骨でも折れたのではという鈍い音をさせてワイバーンは落下した。
二体同時に地に落ちた衝撃で空気が揺れ、砂埃がたった。
トンと無事着地した私はワイバーンへと近づく。
もうすでに魔法によって拘束されたワイバーンたちは微動だにしない。
「おお。すげえな」
真っ先にワイバーンのもとにいたカルダンがそう言った。
見るとヴァル殿下が相手取ったワイバーンは的確に逆鱗を貫かれ絶命していた。
「このワイバーンきちんと死んで…ますね」
ラニエルさんが私が対処したほうのワイバーンに近づき、生死を確認する。
「ワイバーンって踵落としで倒せるんだな!」
カルダンの言葉に私はしっかりと頷く。
そのために全力で蹴り落としたのだ。そうでなくてはガレディアス家としてのプライドが廃れるというものだ。
「なあ、フィリア」
「はい」
「地面に落とすっていうのはこういう意味だったのか」
「はい。もちろんです」
はっきりと答えた私に、ヴァル殿下は小さく笑みを刻んだ。
「何というか…流石だな」
「ありがとうございます」




