ミカエラの人探し
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是非最後までお読みください。
―――翌日。
チヒロの誕生日会を終え、集会場にテンゴたち5人が揃う予定となっていた。
まず先に来たのはモモ。続いてネルソン、ピロー、チヒロ、そして最後にテンゴの順で全員が集会場へと顔を揃える。
「よし、揃ったな」
「準備はいいか?」
その問いに、異を唱える者は誰もいなかった。
「――――それじゃ、行こうか」
「次こそ地球であるといいな……」
テンゴがそう呟き、一同は集会場を後にして転送装置へと黙々と歩を進めた。
転送装置の前に立ち、彼らは固唾を呑んだ。
この装置の向こうに何が待っているのか、予測すらつかない。もしかすると、転送された瞬間に強力なモンスターの群れに襲われるかもしれないし、見渡す限りの海の真ん中に放り出されるかもしれない。さまざまな不安が頭をよぎるが、実際に飛び込んでみないことには答えなど出なかった。
そして――光に包まれ、5人は転送された。
見回す限り一軒の家もなく、どこまでも広がる草原。その傍らには、ぽつりぽつりと木々が立っている。
「ここは……」
慎重に行動しようと事前に会議で申し合わせていた通り、テンゴたちは身構えながら草原に降り立った。
「やっぱり、地球じゃないな……」
ピローが呟く。
「よし、行くぞ」
「あぁ」
「うん」
「まずは近くの街で情報収集を……」
ネルソンの提案に頷き、5人は少し離れた場所から街を目指して歩き始める。もちろん、身を隠す必要まではなかったが、警戒を怠るわけにはいかない。
「この惑星に、本当にUNIVERSAL・ORDERの連中がいないとは限らないよな……」
「いないことを祈りたいが、もしいたら戦うしかないだろう」
「そして……うちらを消しにかかる、か…」
「あぁ、そもそもこの世界は本当にL K Oの中なのかって疑問もあるけどな」
歩きながらそんな言葉を交わしていたとき、すぐ傍の木の陰から、ふと誰かの気配がした。
「……何奴……!」
ネルソンが腰に携えた刀の柄に手をかけ、一瞬で戦闘態勢に入る。
「おい、ネルソン……落ち着けって、たぶん危害はないだろ……」
ピローが慌てて制止する。
「……なんか、泣いているみたいよ?」
モモが首をかしげ、チヒロも「どうしたのかな?」と心配そうに覗き込んだ。
その気配に気づいたのか、木の陰にいた女性がこちらを向き、突然声をかけてきた。
「あら? 君たちは……見たことのない格好ね。この街の人たち?」
思いがけない言葉に、テンゴたち5人は一旦立ち止まり、コソコソと円陣を組む。
「どうする?」
「とりあえずフレンドリーに行こうか」
「街の住人だと思われているみたいだし……」
草原の丘から少し先を見ると、確かに街の風景が見える。その人物はフードを深く被り、木陰で少し休憩を取っていたようだった。
これからの出方をどうするか。話を合わせるべきか、それとも警戒すべきか――いずれにせよ、目の前の女性は彼らを不思議そうに見つめている。向こうもこちらの出方を探っているらしかった。
「君たちも、セビリアに行くの?」
「えぇ……はい、そうです」
テンゴが代表して返事をすると、他の4人もそれに合わせて頷いた。情報が喉から手が出るほど欲しい今の状況において、この女性はまたとない情報源になりそうだった。彼女がここで何をしていたのか、なぜ街へ向かうのか、できることなら聞き出しておきたい。
「セビリアに向かうところです」
「あら、そうなのね」
「ところで、貴方はここで何をなさっていたんですか?」
「私はただ、少し休憩を挟んでいたのよ」
テンゴたちの歩いてきた道の先に見える大きな街。おそらくあそこが『セビリア』と呼ばれる街なのだろう。せっかくここまで来たのだから、立ち寄ってみる価値は十分にある。
「あの街に行くなら、私も一緒に行くわ。実は、探している人がいるの……。よかったら、手伝ってもらえないかしら?」
――これは、女性側から発生したクエストというやつだろうか。
しかし、この惑星について右も左も分からない今の状況で、差し出された手を断る理由などどこにもない。何かしらの手がかりや情報を得られるなら、乗らない手はなかった。
「どうする?」
「行くしかないがいね」
「UNIVERSAL・ORDERの連中じゃなさそうだし……」
「見たところ、敵意はなさそうだが」
「よし、まず協力してみるか」
5人はその場で再び手短に作戦会議を開く。女性も、そんな彼らを待つようにじっと見つめていた。
テンゴの本質として、困っている人を見捨てておけないというお人好しな部分もあるが、何よりこの未知の惑星で協力者や伝手は多いに越したことない。デメリットはほぼゼロと言ってよく、これは大きなチャンスだった。
カルメン編が幕を切って落とされた。
「もちろんです! 一緒に探し出しましょう、その人物を!」
「クエスト受託ってところだな」
「あぁ、そうやわな」
「なら決まりね、私の名前はミカエラよ、よろしくね」
「探している人はドン・ホセって人、私の許婚よ」
テンゴたち5人とミカエラを加えた合計6人が、街に向かって歩き出した。
途中で、テンゴがふとネルソンに近づいて小声で話しかける。
「なぁ、許婚ってなんだ?」
「それは……」
隣で聞いていたピローが、すかさずそれに反応する。
「許婚ってのはな、所謂婚約者ってやつだな」
「ドン・ホセには美人な人が待っているという事だ」
「そういう事、テンゴは勉強不足ね、もうちょっと勉強したら?」
チヒロは、学校のテストの点数でも見せ合ってお互いの学力を知った時のことを思い出したのか、少しからかうような口調でテンゴを挑発する。
「何だと……お前こそ、ニコロの野郎に勝手に突っ込みやがって」
「あれはね、しょうがないでしょ!?」
「今と関係ないじゃん!」
「しかも、この間の学校の体育の授業じゃ、バスケで『私に任せて!』って自信満々にシュートして外しやがって……!」
人々が行き交う広場。
様々な人が来ては去っていく。詰所の戸口で手持ち無沙汰に煙草を吸ったりおしゃべりしたりしているヨレヨレの服を着た男性たち、大きな傘を持っている人、傭兵達が集まって机の上にトランプを広げて遊んでいる一団、コーヒーを飲んでのんびりしている人。大きな袋を背負った旅人や、オレンジを売り歩く商人とそれを買う客、さらには怪しげなツボを売る商人の姿まであった。
「こら! 待ちなさい!」
「やだなね、お前を見ていると面白いんだよ、ははは!」
「逃げるな~、テンゴ~っ!」
そこは、たばこ工場の目の前だった。
そのたばこ工場はかなりの規模を誇っており、大体サッカーコート10面分くらいの大きさをしている。その横を通り過ぎ、目の前に広場や闘牛場、街の酒場が広がる一帯へ差し掛かると、そこはなかなかの人だかりになっていた。
「この街に来るのは初めてなの?」
「はい。そうです」
「それじゃ、ちょっとだけ町の説明をするわね。この街『セビリア』では闘牛が流行っているのよ
休日になるとそこに大勢の人が集まるわ。この街の産業は『タバコ』よ。見える?」
ミカエラは大きな煙草工場を指して説明した。
「これが煙草工場よ」
「そして、夜になると居酒屋にたくさん人が来るの、それに有名人も来たりするから行ってみるのもお勧めするわ…」
「けど、悪い人たちが町をうろついているらしくて、夜な夜な盗みか何かをしているのよ
それには気を付けてね」
二人は言い合いをしながら4人の周りをぐるぐると回り、いつの間にか追いかけっこを始めていた。
まるで夫婦漫才でも始めたかのように広場の真ん中で騒ぎ出すものだから、周囲の人々がジロジロと注目し始める。あれほど「目立たないようにしよう」と念入りに打ち合わせをしたというのに、これでは台無しである。
「どうする? あの二人、止める?」
モモが呆れたように聞いた。
「止めるしかないだろう、目立ちすぎだ」
フードを深く被ったピローが言う。
「そうやわな」
「面白い二人ねぇ」
ミカエラまで面白そうに微笑んでいる。
だが、それを言いかけたその瞬間――。
追いかけっこに夢中になっていたテンゴの足がもつれ、勢い余って、テンゴの上にチヒロが覆いかぶさるような形で派手に転んでしまった。
あろうことか、そこは白い服を着た一人の人物の目の前だった。
転がった拍子に、その人物が手元で開いていた本をパタンと閉じる音が響く。
はずみでその男とガッツリ目が合ってしまった。
何かを言われるだろうか。注意を受けるかもしれないし、最悪の場合は警備や警察に連行されるかもしれない。服装からしてこの街の住民ではなく、どこかの重要機関のエージェントのようにも見えた。
「あ……っ、すみません!」
「ふざけてたわけじゃ……その、ごめんなさい!」
「おや、おや……。随分と激しくじゃれ合っていらっしゃるようですね。広場を駆け回るのは、さぞ楽しかったですか?」
白髪交じりの髪に、貴族を思わせる上品な白い衣服、そして眼鏡の奥のキリッとした瞳。
うつ伏せに転がったまま慌てふためくテンゴとチヒロを、その紳士は優しく見下ろしながら穏やかに語りかけた。
その手には一冊のぶ厚い本が抱えられている。どうやら先ほどまで熱心に読書をしていたらしい。自分たちがそこに突っ込んでしまったのだと気づき、テンゴは冷や汗をかいた。
「すみません……読書の邪魔をしてしまいましたか……?」
テンゴは目の前の白い服の男の顔色をそっと窺う。手には、さっきパタンと閉じられたばかりの本があった。
「いえいえ、そんなことありませんよ。この本に書かれているのは、私の書き留めた文字と絵だけですから。それをただ、のんびり眺めていただけですよ」
紳士は柔らかく微笑む。その本を大切そうに抱えている姿を見て、何が描かれているのか少し興味が湧いたが、初対面でそれを尋ねるのは少し気が引けた。
「そうなんですか……」
「ところで、あなた方は一体、何をしにこの広場へ?」
白い服の男が静かに問いかけてくる。もちろん、彼らがただの悪ふざけでここにやってきたわけではない。
「あ……!」
その質問に、テンゴの頭の中でハッと重要なことが閃いた。そうだ、ミカエラの許婚である『ドン・ホセ』を探すためにこの街へ来たのだった。目の前のドタバタですっかり忘れていたのだ。
二人は慌ててその場から起き上がり、服に付いた砂をパタパタと払い落とす。
「い、いやその……とある人物を探しに来たんです」
「そうです、人探しのために!」
チヒロがテンゴに続いて力強く頷く。
「では、私も探すのを手伝いましょうか? せっかくこうして知り合ったんですから、仲良くいきましょう。――で、探しているお方とはいったいどなたなんです?」
その時、少し離れた場所から、ネルソンたち4人が息を切らせて走ってきた。
少し申し訳なさそうな顔をしている。無理もない、自分たちの仲間が走り回って、目の前の紳士に迷惑をかけてしまったのだから。知り合いである以上、しっかりと謝罪を述べておくべきだろう。
「すいませ〜ん! うちのバカな2人がご迷惑をおかけしたようで〜!」
ピローが声を張り上げながら駆け寄り、後を追うように他の3人もやってくる。最後尾には、少し遅れてミカエラもこちらへ近づいてきていた。
「いえいえ、本当に気になさらないでください。これでこうして、知り合いになれましたし」
男はクイッと人差し指と中指でメガネの中央を押し上げる。
いかにも頭が良さそうな、現実世界であれば典型的な「優等生」に見えなくもない、独特の知的さを漂わせる人物だった。
「ところで、お仲間ですか?」
2人と4人は知り合いなのだろうと、白い服の男は穏やかに尋ねる。
「はい、そうです!」
「ついさっき、このセビリアに来たばかりで……」
「なるほど、承知しました。では、とある人物を探す前に、まず私自身の自己紹介をしなくてはなりませんね」
メガネの奥の知的な瞳を細め、男は静かに名乗った。
「私の名前はアマデウス。よろしく……。私の職業は、そうですね――しがない、絵描きといったところでしょうか」




