作戦会議
ご覧いただき有難うございます。
是非最後までお読みください。
今回は力作です。夜空を眺めながら思い出に浸ります。
誕生日会もいよいよ大詰め。
5人ともすっかり腹が膨れ、箸やフォークが止まりかけた頃、今度は自然と口がよく動き出す。
――そう、ここからが本当の肝心な話だった。
「そういえばさ……ソウルメア社って、今のうちらの様子を見て、画面の向こうでほくそ笑んでいたりするのかな?」
ふと零れたモモの疑問から、話題は現実世界へと移っていく。
埼玉県所沢市――かつて広大な敷地を誇っていた「航空公園」のあった場所。
2040年現在、そこは公園のアスファルト以外の豊かな緑が広がる敷地内に近代的な施設が建てられ、ソウルメア社の本社が置かれていた。
その周囲には所沢市役所、郵便局、警察署、税務署、さらには防衛医大までもが隣接している。
現在の公園内には、今も「航空発祥記念館」や「所沢市立図書館」をはじめ、日本庭園や茶室「彩翔亭」、野外ステージ、テニスコート、野球場やドッグランといった多様な施設がそのまま残されていた。
また、園内の歩道には一周1.95kmのランニングコースが整備されており、アスファルトの上には膝への負担を軽減する赤い特殊舗装がカーペット状に敷かれている。夜間にはフットライトが点灯するなど、ランナーへの配慮が行き届いた環境は今も健在だった。
ソウルメア社がこの場所に本社を置いた背景には、政府が推進する「脱東京」の一環としての狙いがあった。社員の通勤時間短縮や、ベッドタウンとしての埼玉県という地理的特性に加え、大企業である同社が「従業員約2,000人の雇用を約束する」という条件が合致した結果だった。
もちろん、公園内への一般市民の立ち入りはこれまで通り自由である。いわば、緑豊かな公園と大企業の先進施設が完璧に融合した街並み――それが現在の所沢・航空公園エリアの姿だった。
そして、その一角にそびえる本社こそが、この『L K O(ラニアケアオンライン等の運営母体)』を統括するソウルメア社そのものだった。
現在のこの異常な状況を、本社の連中はどう見ているのか。一体どんな顔をして、この事態を受け止めているのか。問い質したいことは山ほどある。
5人それぞれが胸に複雑な思いを抱えつつも、一刻も早くこの状況を打開したいという焦りと、ソウルメア社の不手際に対する怒りや疑問が渦巻いていた。
「うーん、どうだろうね……。向こうだっていま頃、まともに対処に追われてパニックになってるかもしれないけど……」
今この瞬間のリアルな現実世界を想像すれば、運営側である向こう側でも大問題に発展しているに違いない。
「それにしても、ソウルメア社の周辺って、意外と重要な公共施設が多すぎない……?」
「あんなに重要な機関がギュッと固まってる場所なんて、日本広しと言ってもそうそうないだろ……」
日本の心臓部である霞が関周辺を除けば、所沢市の航空公園周辺ほど各種施設が密集している地域も珍しい。防衛医大から米軍関連施設までが目と鼻の次にあり、少し足を伸ばせば入間には航空自衛隊の基地さえ控えているのだ。
「けどよ……あまりに主要な施設を一箇所に固めすぎたら、万が一なんかあった時に対処できんげん……」
少し多めのワインを口にし、すっかりいい気分で酔っ払っているネルソンが、グラスを傾けながら会話に割り込んでくる。
「……といいますと?」
「……何の対処のこと? 災害とか……?」
隣で聞いていた奏護と千宙は、顔を見合わせながら怪訝そうな表情を浮かべるのだった。
「いわゆる、上からの攻撃であったり、地上からの攻撃は考えにくいんやが……」
「なるほど」
「つまり、軍事的な脅威ってことか……」
「まさか、入間基地がしっかり防衛してくれるはずだろ……」
「とにかく、うちらはソウルメア社を信じて待つしかないってことなのか……? 一体いつまで待てばいいんだよ?」
自衛隊の守備隊が万全の態勢で攻撃を防げればいいが、万が一それが突破された場合、ここを直撃される危険性も十分にあり得た。
そう考えると、東京都内の重要施設群もそうだが、この航空公園周辺に行政機関や防衛関連施設がこれほど密集しているのはリスクが高すぎる。これでは「どうぞ好きに狙ってください」と言っているようなものだった。
さらに言えば、現在のソウルメア社自体が、正体不明の存在――“X”からの攻撃を受けている可能性も否定できない。例えば、国家や組織を揺るがすような電子攻撃、いわゆる強力なコンピュータウイルスや、内部からのサイバーテロなど、企業を機能停止に追い込む手段はいくらでもあるのだ。
埼玉県の広大な公園敷地を買い取り、巨額を投じて自社ビルや関連施設を整備したソウルメア社の判断には、やはりどこか不自然な点や、大きなリスクが隠されていると言わざるを得ない。
ふと、テンゴは隣で千宙と一緒に食事をしているネルソンの様子に目をやった。
ネルソンはすっかりいい気分でワインを飲み進めているが、まだ意識はしっかりしており、倒れているわけではない。さっきから、狩りの話から軍事の話題へとスムーズに移行し、熱心に意見を交わしていた。
「そういえばさ、ネルソンって、やけに軍事に詳しいんだっけ?」
「そうやぞ」
「おまけに旧日本軍の装備から自衛隊、さらには軍歌まで大好きなんだぞ、この男は」
ネルソンは筋金入りの軍事オタクだった。
――もっとも、ゲーム内で高い火力を誇るクラスを極めている以上、武器や戦闘戦術の知識が豊富なのは当然かもしれないが。
「いや、軍歌の話なんて誰も聞いてないんだけど……」
「昭和の古臭いおっさんかよ……」
誰かが冷ややかなツッコミを漏らす。しかし、ネルソンは全く気にする様子もなく、むしろ得意げに胸を張った。
「酔いながらもしゃべり続けるネルソンだけど……大丈夫かこれ? このまま飲みすぎたら、本当にひっくり返って倒れそうだな……」
ふと心配になったテンゴが、ネルソンの手からワイングラスを取り上げ、そっとテーブルに置く。酔っ払いを野放しにしておくと、次に何をしでかすか分かったもんじゃない。
「うん、ウーロン茶飲むか?」
「こっちは聞きたいことが全然聞き出せないんだけど……」
「ソウルメア社の話はどうなっちゃうわけ?」
冷ややかな視線と呆れた声が飛んできても、ネルソンは何やらご機嫌な様子で軍歌を歌いたそうにソワソワしている。どうやら自分の作ったオリジナルの軍歌の替え歌を、どうしてもみんなに聞いてほしかったらしい。
もっとも、ネルソンの筋金入りの軍事オタクっぷりは、今に始まったことではなかった。
ギルド『宇宙の走破者たち(スペースランナーズ)』に加入した当時から、彼の軍事に関する知識量と熱量は突出していた。
日本の自衛隊の装備から、アメリカ、ロシア、中国といった各国の軍隊事情まで――彼の頭の中にある話の引き出しは驚くほど豊富だ。もっとも、軍事の話題というのはどうしても人によって興味の有無が分かれるものだが、ギルド員たちは日々のニュースをネルソンに持ちかけては、お酒の席の面白いネタとして話を聞いていたものだった。
もちろん、話題は軍事だけに留まらない。
効率的な狩場のルート選定や、最強の装備構成、いかにして稼ぐかといった戦闘のノウハウに至るまで、何を聞いても得意げに熱く語り出す。
それこそが、岡田ネルソンという男の変わらぬ特徴であり、愛すべき一面だった。
「まあまあ、ネルソンの熱弁はこれくらいにしておいてさ」
モモがやれやれといった表情でグラスを置く。
「本題に戻りましょうよ。このままソウルメア社の動向をただ待つだけで、本当に大丈夫なわけ? 私たち、いつまでもこの宇宙空間に閉じ込められたままになっちゃうよ」
「これまでのソウルメア社の無反応な対応と、現実世界での動きを見とっても、うちらは今まったく手がかりがない状態やげん」
ネルソンが真面目な顔で付け加える。
ピローもフォークを置き、真剣なまなざしを仲間たちに向ける。
「確かにそうだな。いくら美味しい料理を食べて、こうして盛大に誕生日を祝っていても、現実逃避には限界がある。向こうがどんなシステムトラブルやセキュリティの破綻を抱えていようとも、我らが自ら動かなければ何も始まらないぞ」
ピローの力強い言葉に、部屋の空気がふっと引き締まる。
ログアウトができないという絶望的な状況。しかし、ただ怯えて縮こまっているだけのメンバーではない。それぞれがそれぞれの過去や強い意志、そして宇宙への情熱を胸にここまでやってきたのだ。
「手がかりがあるとすれば、ニコロのような奴がいたって事くらいか。あれから取れる情報からすると、『UNIVERSAL・ORDER』と言うギルドか組織がいて、『ダークマター』を狙っているということくらいか……」
テンゴが、先の戦いから得た貴重な情報を整理して口にする。
「まぁ、そいつらがこの宇宙を荒らしまわっているって事か……」
「けど、あいつらもプレイヤーって線は消えたってこと?」
「そうだな~、その可能性もあるがないかもしれん」
「プレイヤーと言えばさ、他のプレイヤーたちは今どうなっているんだろう?」
テンゴは力強くうなずき、思考を巡らせる。
「まず、生き残っているプレイヤーが何人いるかだな……」
「何人って、数千から数万人はいるんじゃないか?」
「だろうな……。そいつらと連絡を取り合って、なんとしても地球を目指して緊急脱出装置に乗って脱出するしかないな」
「じゃあ、その他のプレイヤーもみんな地球を目指すって訳?」
「まぁ、緊急脱出装置が地球にあるって知ってるプレイヤーは目指すだろうな」
「そうじゃないプレイヤーは、このままここに残るか……」
何人かのメンバーが真剣な議論に夢中になっている、その時だった。
ピピッ――!
部屋の中に、電子音が鳴り響いた。
「これは……」
「「!!!惑星探査の着信音……!」」
「新しい惑星を発見したか……!」
そう、この音は新たな惑星の発見を告げる転送装置からの着信音だった。
突如もたらされた通信に、全員の視線が一斉に集中する。
「……よし。今日はここまでだな。続きはまた明日だ、みんな休もう」
緊迫と期待が入り交じる中、テンゴがそう切り出し、賑やかだったお誕生日会の夜は静かに締めくくられたのだった。
「明日、準備が出来次第、集会所に集合だ。発見できた惑星が今度こそ地球であれば良いが、前回の惑星同様、違う可能性の方が高い。回復薬や装備等、念入りに準備しておこう」
テンゴがそう切り出すと、
「あぁ」
「おう」
「うん」
と、皆がそれぞれの返事を返す。
食べた食器や空の皿は、このシステム上、瞬時に片付けることができるため問題ない。皆、後片付けもそこそこに『捨てる』コマンドを使用し、テーブルの上を何事もなかったかのように綺麗に戻した。
こうして千宙の誕生日会は無事に終了し、それぞれが各自の自宅へと帰路につく。
「ねぇ、テンゴ。最後にいい?」
部屋を出る間際、千宙が引き止めるように声をかける。
「ん、どうした?」
「……地球に戻ったら、本当に現実世界に帰れるのかな?」
「あぁ……俺も本当のところは分からないが、そうであると信じたい」
「そう……よね」
千宙は、ふと視線を足元へと落とした。だが、すぐに顔を上げ、パッと明るい笑みを浮かべる。
「うん、そうだよね! 頑張ろうね、だって帰れなかったら大事なコンサートに出られないからね!」
再びテンゴにまっすぐな視線を戻す千宙に、テンゴは優しくうなずいた。
「あぁ、絶対に帰ろうぜ。もし何か困ったことがあったらいつでも相談してくれ、力になるから」
「うん……ありがとう、テンゴ」
「じゃ、俺も自分の部屋に戻るぜ。今日はお疲れ、ゆっくり休みな」
「うん、おやすみ!」
テンゴは千宙に別れを告げ、自身も帰路についた。
こうして、誕生日会と作戦会議は幕を閉じ、次なる惑星の探査に向けて全員がそれぞれの休息に入る。
それは、テンゴたちだけでなく、この広大な宇宙に囚われたすべてのプレイヤーたちも同じだろう。
皆、現実世界へ帰れるという可能性を信じ、いつか訪れる「脱出」という名の希望を胸に眠りにつくのだ。
この宇宙の全容は、まだ何も解明されていない。
人類は太古の昔から宇宙へと挑戦を続けてきたが、未だ分からないことばかりだ。
だが、どの時代の人間も、決して宇宙への挑戦をやめることはなかった。
ゲームの中で宇宙へ挑み、そして脱出不可能という理不尽な事態に巻き込まれた今であっても、彼らは挑戦を続ける。そして、これからもそれは変わらないだろう。
次の惑星の話は決まっています。
次回、乞うご期待!
っというか、どんな形で完結するか決まってます。
それまで皆さん、お付き合いください。




