繋げ!メロディを
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テンゴが展開する「五 音 の 防 星」から派生し、『並走する星の使者』として仲間に配られた扇子の大盾は、激闘の末についに残り二枚となっていた。
その二枚の大盾は、今もルスランとネルソンの傍らにピタリと寄り添い、二人を護るように並走を続けている。だが、激しい打撃を受け続けた大盾の耐久値(HP)は、もはや風前の灯火だった。
テンゴのもとへ急行した四人は、泥臭い肉弾戦が繰り広げられている目と鼻の先へとたどり着いた。
チヒロ、ネルソン、ルスランの三人は、すぐさま武器を固く握り直し、再び鋭い戦闘態勢に入る。
ニコロとの激しい殴り合いが始まってからというもの、正面から攻撃を受け続けていたテンゴの体力は、すでに半分以下にまで削り取られていた。
その危機を察知したモモは、間髪入れずに『テレポート』を発動。一瞬でテンゴの背後へ跳ぶと、間近でスキルを詠唱する!
「『全休符』――ッ!」
モモがギュッと抱えるアザラシクッションの目が、妖しくも美しいエメラルドグリーンに眩しく輝いた。柔らかな癒しの光がテンゴの身体を包み込み、削り取られていた体力を一気に回復させていく!
「ありがとう、モモ」
「うん。仕事だからね」
「っはぁ…ッはぁ…っチ……なんだぁ? 回復だと……!? そこにいるピンクドレスの女『魔法使い』かよッ!?」
ニコロは苛立ちと怒りを露わにし、激しく舌打ちした。
肉弾戦の最中だったニコロはテンゴの胸倉を鷲掴みにすると、そのまま殴り飛ばす勢いで力任せに突き放す!
「っぐはあッ……!?」
勢いよく三メートルほど後方へ吹き飛ばされたテンゴだったが、足を踏ん張ってすぐさま体勢を立て直し、油断なくニコロへ向けて身構えた。
一方のニコロは荒い息を吐きながら、溢れ出る感情を抑え込むように静かに、だが重々しく語り始める。
「っはぁ……っはぁ……お前、さっき言ってたな。『お前の演奏は凄い』とかなんとか……。ああ、よく言われるよ。だがな……俺は……俺には……!」
ニコロの瞳に、凄惨なまでの情念が宿る。
「世間から悪魔と呼ばれようが、ギャンブラーと蔑まれようが……命に代えても護りたかったものがあったんだあッ!!」
魂を絞り出すような叫びとともに、ニコロは弓を強く握りしめ、自らのバイオリンに叩きつけるようにして激しい演奏を開始した!
「そんなに俺の演奏が聴ききてーなら……望み通り聴かせてやるよ! ! 『破滅の24奏』!」
(※パガニーニ作曲:『24のカプリース』)
その瞬間、超高速の旋律とともに狂暴な魔力が爆発した。
ニコロ自身の周囲から漆黒の闇を纏う弾丸、眩い青光を放つエネルギー弾――全24種類にも及ぶ異質なエネルギーの光弾が生成され、ニコロを中心に全方位へ向けて荒れ狂う嵐のごとく一斉に放出された!!
「みんな! 回避だ――ッ!!」
テンゴの切迫した叫びが響き渡る。
自身もすぐさま距離を取ろうと地を蹴りかけたその瞬間――テンゴの視界に、一人の人物が映り込んだ。
モモだ。
先ほどテンゴの背後に『テレポート』して回復スキルを施したため、モモは未だニコロの目と鼻の先に留まっていた。他の三人より遥かに敵に近く、何より防御力の低い『魔法使い』である彼女が、あの全方位に荒れ狂う高火力エネルギー弾を正面から喰らえば――ひとたまりもなく体力を根こそぎ削り取られてしまう!
(まずい……! モモが……ッ!!)
思考より先に、テンゴの声が爆発した。
「『並走する星の使者』――指定対象変更! ネルソンからモモへッ!!」
叫びに応じ、ネルソンを護っていた扇子の大盾が一枚、空気を切り裂く勢いで凄まじい軌道を描き、モモの元へと急旋回した!
「きゃっ……!?」
直後、殺到するエネルギー弾がモモの身体を捉えかけたその刹那――滑り込んできた扇子の大盾が滑らかな防壁となって割り込んだ! 弾かれた光弾が激しい火花を散らし、モモは被弾を間一髪で免れる。
盾が猛攻を受け止めている隙に、モモは即座に『テレポート』を詠唱して後方へ離脱。着地した足元付近に、見覚えのある小さな「黒い炎の跡」が刻まれているのに気づく。
「これは……ピローの……?」
疑問を抱く間もなく、持ちこたえていた扇子の大盾が限界を迎え、激しい破壊音とともに粉々に砕け散った。これで『五音の防星』の大盾は、残りわずか一枚となる。
「テンゴ―――ッ!!」
チヒロが悲痛な叫びをあげた。だが、テンゴは両手で開いた扇子を構え直す。
「俺のことはいい! 心配するなチヒロ、離れろッ!!」
直後、テンゴの元へ幾多のエネルギー弾が集中して押し寄せた。
ドバババババッ!! と天地を揺らす衝撃波の中、テンゴは間欠泉のように降り注ぐ弾幕を、開いた扇子一本で泥臭く受け止め続ける!
「くそっ、ルスラン! 一旦距離を取れ!!」
自身の大盾を奪われたネルソンも、襲い来る弾幕を回避しながら迫真の声で叫び、二人揃って必死の回避行動を取る。
扇子を無数に振り回して迎撃するテンゴだったが、全方位から押し寄せる弾幕を全て殺しきることはできず、抑えきれないエネルギー弾がその身を穿つ。
「っくぅ……ッ!」
その時――激しく演奏を続けるニコロの斜め上、屋敷の屋根の上から大中小の漆黒の光弾が怒涛の如く浴びせられた!
「『脱出不可能な宇宙の輪舞』―――ッ!!」
暗黒のエネルギーがニコロを呑み込む。
透明化して行方知らずとなっていたピローによる、決死の奇襲攻撃だった!
「ぐあぁっ……!? な、誰だ……ッ!?」
不意の激痛にニコロが呻くが、それでも演奏を止めることはない。
「今度こそ、闇の底から這い出て来たぜッ!!」
スキル『黒音が消えて行く』の不可視状態からは直接攻撃が繰り出せない制約があるため、ピローは姿を晒して屋根の上に立っていた。狂暴な24色の光弾から回避を続ける仲間たちの視界に、頼もしい姿が映り込む。
「今のうちに……ッ!」
チヒロはピローの援護に気を取られた隙を見逃さず、テンゴへと視線を向けた。その最中、容赦なく押し寄せる光弾を二発、さらに三発と身体に被弾してしまう。
重いダメージを負いながらも、チヒロは光弾を避けつつ白い杖を高く振り上げた。
「『寒天の滑奏』―――ッ!!」
激しく地面に叩きつけられた杖の先から、ズバババッ! と巨大な氷柱が出現し、ニコロが放つ弾幕を一時的に遮断する。
さらにチヒロは杖の先端を地面につけたまま、出現させた氷の路面の上を一気に滑走し始めた! 氷柱の陰から滑り出したその動きは、まるでアイススケートのように滑らかで疾走感に満ちている。
「テンゴ! 今行く――ッ!!」
本来は攻撃時に氷柱を何本も発生させるスキルだが、チヒロはその応用で地面を凍らせ、超高速移動の足場として利用したのだ。猛スピードでテンゴの真横へと肉薄する。
「テンゴ! 手をッ!!」
「チヒロ!?」
テンゴはチヒロの言葉に応え、咄嗟に手を差し伸べた。
チヒロはその手をがっしりと掴むと、勢いそのままにテンゴを引き込んで後方へと滑走を続ける。牽引されたテンゴも同じように氷の上を滑り出し、二人は並んで急退避していく。
「ふふっ……少し被弾しちゃった。HPの二割くらい持って行かれちゃったよ」
「あぁ、すまない……! 大丈夫か!?」
「うん、問題ないよ!」
チヒロは右手で杖を操作して氷の足場を連続生成し、左手でテンゴの手を離さぬよう固く握りしめる。テンゴも空いた方の手で扇子を閃かせ、二人に襲いかかる弾幕を片端から叩き落として庇い続けた。
その間も、ニコロの血吐くような叫びが場に響く。
「全てを奪われた……! 俺はあの時、全てを失った!そして俺は……とあるお方に救われたッ!!」
後退していたルスランが体勢を崩し、迫る光弾の直撃を受けそうになったその刹那――テンゴが展開していた『五音の防星』の最後の一枚となった扇子大盾がその場に固定され、ルスランを覆う壁となった!
間一髪で直撃をやり過ごしたものの――連続被弾に耐えかねた最後の防壁は、激しい亀裂とともに粉々に打ち砕かれてしまう。
盾が全滅した一瞬の隙を突かれ、ルスランに向けて幾多の光弾が殺到する。ルスランは光る剣を振りかざし、一発、二発、三、四、五発と必死に切り払うが、勢いに押されてついに一発の直撃を許してしまう。
ネルソンもまた自らの刀で弾幕を五発ほど斬り散らしたが、同じく一発を喰らい、苦悶の表情を浮かべた。
「仕事を任された! だから俺は……ここで役割を果たしているんだッ!! ほらほらァ!! 守護者ども、どうしたッ!? さっきまでの威勢はどこへ行ったんだああああッ!?」
ニコロが狂気的な旋律とともに嘲笑を撒き散らす。
その頃、モモは先ほど目撃した「黒い炎の跡」の周辺で光弾を間一髪回避しながら、即座に守護スキルを打ち込んでいた。
「『神の賛美歌・天空結界』―――ッ!」
「みんな、早く中へッ!」
眩いオーロラの結界が展開されると同時に、被弾したネルソンとルスランの二人が滑り込むようにして結界内へ駆け込んだ。
「ハハハッ! なんだぁ!? お前の自慢の盾は、これで全滅かぁ!?」
大盾が完全に破砕されたのを見たニコロが、勝ち誇ったように叫ぶ。
「もう仲間を護る術なんて無ぇだろ!? これで終わりだあああッ!!」
その間にも、チヒロとテンゴは氷の滑走によってモモの展開する結界のすぐ近くまでたどり着いていた。
「みんな! 大丈夫かッ!?」
モモは駆け込んできたテンゴとチヒロのために結界の枠を一瞬解放し、二人を中に迎え入れる。
しかし、ニコロの激しい演奏に呼応して弾幕はさらに速度と密度を増し、全方位から逃げ場のない嵐となって押し寄せてくる。
(くそっ……もう、打つ手は無いのか……!?)
テンゴは焦燥に顔を歪めた。――その時、結界の中に一瞬にして黒い影が舞い降りた。
「みんな! 大丈夫か!?」
屋根の上にいたはずのピローだ。モモが先ほど確認していた「黒い炎の跡」を目印に、一瞬で地上へと瞬間移動してきたのだ。
本来、ダークメイジの『テレポート』は短距離(5メートル程度)しか跳べない。だが、あらかじめ地面に刻んだマークの位置へ距離を無視して転移する特殊スキル――『闇の軌跡』を行使したのだ。魔法使い系統の共通スキルであり、モモの場合は『光の軌跡』である。
合流するやいなや、モモはアザラシクッションをギュッと抱きしめ、満身創痍のパーティ全員へ向けて間髪入れずにスキルを連続詠唱した!
「『全休符』――ッ! 『全休符』――ッ!」
怒涛の5連打によって放たれた緑色の癒しの光が、傷ついた六人の体力を一気に押し戻していく。
「チッ……あいつのあの全方位攻撃、相当厄介だな」
態勢を立て直したピローが眉をひそめる。
「ああ……なんとかして攻略できないものか」
ルスランも光る剣を握り直しながら呟いた。
「うち…もうMP少ないから、魔法は『全休符』《ヒール》以外使わないから」
怒涛の回復連打を終えたモモが、息を荒らしながら切迫した声をあげる。
「我も1割くらいしかない、出来れば無くなる前に攻略を…」
ピローも苦い表情で吐き捨てた。闇魔法の奇襲と転移で、すでに魔力は限界に近い。
「拙者はまだMPはあるげんけど、近づけんことには……あと連打でも食ろうたら、拙者は戦線離脱することんなる」
ネルソンが刀の柄を固く握り締め、滲み出る汗を拭う。
「私もMPは残り半分を切ったところ」
チヒロが続けて言うと、そのまま探るような視線をテンゴへと向けた。
「テンゴは……」
「俺は……半分以上残っている。だけど……どうすれば……」
全滅した自分の大盾、ひび割れていくモモの結界、底をつきかける仲間の魔力、そして狂気を増していくニコロの全方位弾幕――。
(俺のMPだけが残っていて、守るための盾はもう一枚もない……)
テンゴの思考が高速で回転する。
だがその瞬間、テンゴの脳裏に電撃のような閃きが走った。
――「すべての盾が破砕され」、かつ「術者のMPが潤沢に残されている」こと。
これまで一度も満たされたことのなかった、ガーディアンの最高峰秘蔵スキルの発動条件が、この絶体絶命の極限状態で見事に合致したのだ!
(そうだ……! 盾が全滅した“今”だからこそ、あのスキルが使えるッ!!)
覚悟を決めたテンゴは足場を力強く踏み鳴らし、爆音を突き破る迫力で腹の底から叫んだ!
「みんな、聞いてくれ! 俺はガーディアンの切り札を使う!!」
凛としたその声に、全員の視線がテンゴへと一斉に集まる。
「この放射状の攻撃は――攻略できるッ!!」
テンゴの言葉を受け、チヒロがハッと合点がいったように声をあげる。
「テンゴは何のスキルを……あぁ、あれね! 流星のやつねッ!」
チヒロだけでなく、他の三人にも思い当たる節があるようだ。
「あぁ~、はいはい!」
「なるほど……めったに使わん、あの必殺技やなぁ」
パーティ内に一瞬で理解が広がり、絶望的だった空気が一変して反撃への確信へと変わる。その様子を見届け、ピローがニヤリと口元を緩めて声をあげた。
「よし! なら使うスキルが決まったところで、俺たちも決戦に向けて『共通スキル』でも発動させますか!」
「えっ……? 何の共通スキル?」
モモが首をかしげる。
この世界のスキルには「各職業共通スキル」と「全職業共通スキル」が存在し、全職業共通スキルの中には特定のレベル帯(Lv170、180、190、200など)へ到達した際に習得できる強力な技が存在する。
「そりゃあ『個性的な5人衆』だ。ちょうど今、条件を満たしてる仲間が5人揃ってるしな!」
ピローが答えたのは、レベル180で開放される全職業共通熟練スキルだ。
その場にいるレベル180以上の全プレイヤーに対し、攻撃力と防御力を+20%向上させるバフを付与する効果を持つ(持続時間1分)。さらにこのスキルはパーティ内で効果を重複させることが可能で、現在のように5人同時に発動すれば、効果はなんと+100%(2倍)アップ、持続時間も5分間へと跳ね上がるのだ!
「作戦タイムはここまでやぞ! そろそろ結界がやばいげんてッ!」
ネルソンが刀を構え直して警告を発する。
モモの『神の賛美歌・天空結界』は、激しい弾幕の連続着弾によって蜘蛛の巣状のひび割れが全体へ広がり、崩壊寸前を迎えていた。
傍らにいたルスランが、驚きと惑いを隠せない様子で問いかけた。この絶体絶命の窮地において、なお反撃の秘策を残しているという仲間たちの醸し出す雰囲気に圧倒されているのだ。
しかし、それもそのはずである。L K Oから来たプレイヤーであるテンゴたちとは異なり、ルスランはこの世界の純粋な住人だからだ。ゲームシステムとしての『共通スキル』や『連携バフ』といった概念は、彼には知る由もない。
「ルスランは、自分がしたい事を思い浮かべるだけでいいんだ。その想像が、そのまま自分と俺たちの力になるから!」
「そうか……分かった! みんなの合わせ技、本当に凄いよ……これが『協力』なんだねッ!」
ルスランの瞳に熱い尊敬と感動の色が宿る。
「みんな、よく耐え抜いてくれた」
ルスランの瞳以外にも他の4人の目は覚悟の瞳になる。
「――いよいよだッ!……あとは俺が決める!!」
テンゴの咆哮と同時に、頭上のオーロラ結界がガラスの割れる凄まじい音を立てて弾け飛んだ!
宙を舞う光の破片を突き破り、ニコロの解き放つ24色の光弾が、逃げ場のない6人目掛けて一斉に殺到する!
「『天空完全五度』―――ッ!!」
極限のタイミングで、テンゴが防衛スキルを解き放った!
手にした扇子が一瞬で巨大な扇子の光の盾へと膨れ上がり、6人をすっぽりと包み込む。持続時間わずか2秒、クールタイム5秒という極短のスキルだが、ニコロの凶悪な弾幕を完璧に無効化して防ぎ切った!
この完全無敵の2秒間を、仲間たちは見逃さなかった。5人が息を合わせ、同時にスキルを叫ぶ!
「「「「「『個性的な5人衆』―――ッ!!!!」」」」」
5重の光がパーティ全体を包み込み、攻撃力・防御力が2倍に跳ね上がる圧倒的な強化バフが駆け巡る!
そして――ついに、ガーディアンの真の必殺技を解き放つ時が訪れた。
テンゴは深く精神を集中させる。その瞳には、揺るぎない覚悟の輝きが宿っていた。
手にした扇子を前方に掲げ、静かに、だが力強くスキルを解き放つ。
――本来、この必殺技は通常のレベリングや雑魚狩りで使うような代物ではない。
過去の大規模なボス戦において、複数のガーディアンを同時投入して挑むような極限状態や、パーティが全滅の危機に瀕した土壇場でしかお目にかかれない大技だった。テンゴ自身にとっても、これを使うのは実に久しぶりのことだ。
決して存在を忘れていたわけではない。単純に、これほどまでの死線に巡り合わなかったからに過ぎない。
(……昔、公式PVでこの技を見た時に決めたんだ。絶対、ガーディアンになるって――)
テンゴの背後に、ガーディアンの象徴たる『星の紋章』――楯座の輝く星座陣が浮かび上がる。
必殺技の発動を告げる、至高のシグナルだ。
「『星屑の音片結合』――――ッ!!!!」
スキル発動と同時に、テンゴの頭の中に、とある流星的なクラシックの旋律が流れるのだ。
夜空を流れる星々のようなイメージと、雄大な音楽が見事に調和していく。
テンゴの叫びと同時に、戦場を支配していたニコロの『破滅の24奏』の爆音は打ち消され、テンゴの脳裏に天を駆ける流星のごとき圧倒的な大交響曲が響き始めた。
(※カール・チェルニ作曲:『大交響曲第1番 op.780』)
かつて石川県立音楽堂で日本初演を聴いた際、テンゴが「音楽を始めたい」と心から感動を覚えた原点の曲だ。「息をもつかせぬ疾走感」と「宇宙の星々が激しく流れるような優美な煌めき」。その情景が、『LKO』公式PVで魅了されたガーディアンの美技と、今完全にシンクロする!
「行くぜみんな! 俺たちのメロディを繋げるぞ―――ッ!!」
「俺たちに攻略できねー敵なんていねえッ!!」
テンゴが力強く地を蹴り、突き進む!
その瞬間、戦場の上空を絶望的に覆い尽くしていた漆黒のドーム『日食の終止符』が、解き放たれた『星屑の音片結合』の眩い光によって一斉に貫かれた!
暗黒の夜空は瞬く間に無数の光の粒子へと砕け散り、頭上全域を満天の星々が縦横無尽に駆け巡る――まるで巨大なプラネタリウムのような、幻想的な星空へと塗り替えられていく!
さらに、上空から降り注ぐ光の粒子が突如として地上へ散乱し始めた。
「な……何だ……!? これは……ッ!?」
困惑するニコロの目の前で、地上に舞い降りた光の粒子が形を変えていく。
それは、テンゴの持つ扇子が開いた姿そのもの――光り輝く「星の扇」だった。
これこそが、打ち砕かれた『五音の防星』の『音片』を再結晶化させて戦場に満たす、必殺技の本領。砕け散ってもなお、盾となり剣となるのだ。
MP半分使用する。効果時間は実に3分間!
テンゴは腹の底から叫んだ!
「みんな!! 星に乗れ―――――!!!!」
ニコロの『破滅の24奏』から放たれる24色の光弾はなおも全方位へ荒れ狂っていたが、地上を埋め尽くす無数の「光の扇」に遮られ、ことごとく相殺されて弾け飛ぶ。破壊されても無限に再生成される光の扇が、完全な自動防壁となって弾幕を封じ込めていく!
「光の扇」とは別に――散らばる「光の粒子」は、仲間たちの新たな足場となった。
「いやあっほおおおおおおおッ!!!!」
ピローが歓喜の声をあげて地を蹴る!
地上から一メートルほど浮かび上がると、足のかかとから眩い光の粒子を撒き散らしながら、流星となり高速で滑走を始めた!
「そおおおれえええッ!!!!」
ピローに続いてチヒロが叫び、光の粒子に乗り宙へと飛び出す。流星の尾を引くように星のラインの上を滑走し始めた!
「それじゃあ、行くよー」
モモもアザラシクッションを強く抱きかかえ、地面すれすれの低空を滑らかに高速滑空していく!
「斬って、伏せるッ!」
ネルソンが鋭い一閃とともに叫び、斜め上空に向かって伸びる星の軌道へと躍り出た!
「みんな、すごい……! ぼ、僕だってッ!」
その圧倒的な光景を目にし、ルスランは驚きと戸惑いを隠せない。だが、先ほどのテンゴの言葉――『想像しろ』という言葉が脳裏に強く響いた。
「想像だ……みんなと駆ける姿を、想像するんだ……」
意を決して地を蹴り、宙へ躍り出てみる。すると次の瞬間――ルスランの足元から眩い流星の光が溢れ出し、見事な滑走ラインが生成された!
「よし……行けるッ!!」
自信を得たルスランもまた、仲間たちの描く光の軌跡を追って大空へと翔け上がった!
仲間たちが縦横無尽に空を駆け巡り、自身の『破滅の24奏』がことごとく「光の扇」に阻まれて相殺されていく惨状に、ニコロは顔を歪ませる。このままでは埒が明かないと判断したニコロは、苦々しく演奏を中断した。
「っチ……! これじゃあ、俺の攻撃が全く意味をなさねえッ!」
その時――縦横無尽に上空を駆ける5人とは対照的に、ただ一人、テンゴだけが地面にしっかりと両足を着けていた。
深く前傾姿勢を取り、低く身を構える。
足元に広がる「光の扇」も、宙を舞う「光の粒子」も全てを身に纏うようにして、前方のニコロ目掛けて直線上に正面突破を仕掛けた!
「おっしゃあああああああッ!!!!」
天地を震わせるテンゴの雄叫び!
正面から押し寄せる尋常ではない圧迫感に反応し、ニコロは咄嗟に両腕を胸前でクロスさせ、必死の受け身体勢を取る!
「お・前・の・わ・ざ・かあああああああああああ―――――ッ!!!!」
正面から突進してきたテンゴの猛烈な振り下ろしを、ニコロはクロスさせた両腕でかろうじて受け止めた!
「ぐわああああああッ!?」
激しい衝撃波とともに押し込まれるニコロ。
無数の光の粒子と舞い散る「光の扇」に遮られて視界が悪い中――なんとテンゴの手には、眩い光を放つ一本の「光の剣」が固く握られていた!
しかし、テンゴは本職のガーディアンであり、元より物理攻撃力は低い。ニコロの咄嗟の防御を突破しきるには至らず、削り取ったダメージは僅かなものに止まる。
「なッ……!? なんでお前が『剣』なんて握ってやがる……!?」
「この剣か? 今、ここで作ったんだよッ!!」
「何を……ッ!? ふざけた小細工をしやがって!!」
ニコロが怒りを剥き出しにして吠える。
「今回『星屑の音片結合』で無数の光の『音片』から想像して作り出したのはこの剣だ」
ニコロの目の前で、テンゴが不敵に言い放つ。
その瞬間――ニコロの頭上から、強烈な殺気が降り注いだ。
直感的に危険を察知したニコロが、咄嗟に上空を仰ぎ見る!
「言うたはずやぞ!……斬って伏せるっちゅうんは、こういうこっちゃあああッ!! 」
真上から大の字の豪快な構えで急降下してきたのは、ネルソンだ!
「チッ……ナメるなッ!雄たけび野郎が!」
ニコロはクロスさせていた腕のうち、右腕だけを即座に真上へと突き上げると同時に、至近距離でスキルを解放した!
「『飛弾の輪舞』――――ッ!!」
ゼロ距離から解き放たれたエネルギー弾幕が上空へと噴射される。回避の体勢を取る余裕すらなく、落ちてきたネルソンはその激しい弾幕を全身で正面から喰らってしまった!
――ズババババッ!!
至近距離で『飛弾の輪舞』の直撃を受けたネルソンの身体が、激しい衝撃とともに砕け散る。
しかし――弾け飛んだネルソンの身体は肉体ではなく、なんと眩い「光の粒子の塊」となって、ニコロとテンゴの頭上へシュアアアッと雨のように降り注いだ!
「な……ッ!? は……何……!?」
不自然な感触にニコロが目を見開いた、まさにその瞬間。
ニコロの真後ろ――完全な死角となる真背後から、冷徹な殺気が突き刺さった。
「もう一度言う……『斬って、伏せる』ッ!!」
「後ろかッ!?」
「『天球円舞・砕骨音衝』――――ッ!!」
回転の遠心力を乗せたネルソンの刀が、無防備なニコロの背筋へ深々と叩き込まれた!
「ぐっわあああああッ!?」
背骨を直接砕くような音衝波が体内を駆け巡り、ニコロは顔を歪ませて悶絶する。
「な……なぜだ……ッ!? なぜこんな不条理なことが起こるッ!?」
絶叫するニコロに対し、正面に立つテンゴが不敵な笑みを浮かべた。
「これが――『想像』の真骨頂だッ!」
「『想像』だと……それがどうしたあああッ!! 『飛弾の輪舞』―――ッ!!」
狂乱したニコロが半身を捻り、テンゴへ向けて至近距離から弾幕を叩き込む!
テンゴは逃げることなく、その衝撃を真正面から泥臭く受け止めた。
「っくぅ……ッ!」
「なぜだッ!? なぜお前だけ倒れない……!? なぜ吹き飛ばねえんだあああッ!?」
「そりゃあ勿論……俺が倒れたらパーティ全滅するからだッ! 死んでも倒れるわけにはいかねぇんだよッ!!」
テンゴは踏ん張った両足に全精力を注ぎ込み、手に握った光の剣でニコロへ怒涛の連続斬撃を叩きつける!
ニコロもただ喰らうだけではなく、死に物狂いで身を交わしながら、連続で『飛弾の輪舞』をテンゴの胸元へお見舞いする。削り合いの激しい肉弾戦でテンゴの体力が大幅に削られていく――その時、テンゴの背後で柔らかい気配が揺れた。
「『全休符』――ッ!」
モモだ。アザラシクッションのつぶらな瞳がエメラルドグリーンに激しく発光し、テンゴの削られた体力を瞬時に押し戻す!そして、またモモは無数の光の扇、星の壁に姿を消した。
さらにその横から、星のラインに乗って滑空してきたピローが疾走感そのままに肉薄してきた。両手に握られているのは、自身の赤いブレードではない。戦場に散らばる『光の扇』だ!
「っしゃあああッ!! 『星の扇』弾幕だッ!!」
ピローは二本の『光の扇』を、ニコロの顔面目掛けて投擲!
「チッ……! そんなものが何になるッ!!」
「っほい! っと、さらにっほい!!」
ピローは次々と空中に浮遊・再生成される『光の扇』を両手で掴んでは、お手玉のように怒涛の勢いで投げつけ続ける!
「っうぅ……ッ! この小癪な真似を……ッ!!」
飛来する『光の扇』の弾幕に怯むニコロ。その隙を逃さず、テンゴの光の剣による連撃も加速する!
怒りと焦燥が頂点に達したニコロは、血走った眼でバイオリンを構え直した。
「何が星に乗れだ?……この虫ケラどもがぁッ!! 『四重奏法』――――ッ!!」
ニコロがバイオリンの四本の弦を、弓で同時に強く弾く!
瞬間、宙を割って禍々しい弦の大蛇が再び姿を現した。だが今度は一本ずつではなく、四本の弦が一本の極太な大蛇へと融合・合体し、テンゴを呑み込まんと襲いかかってきた!!
悪魔の形相を浮かべ、何倍もの巨躯へと膨れ上がった弦の大蛇が、大口を開けてテンゴへ向けて猛然と突進する!
だがテンゴは慌てることなく、宙を舞う光の粒子を集めて等身大の「扇子の光大盾」を瞬時に生成し、その巨躯の突進を正面からガチりと受け止めた!
――しかし、いくらガーディアンの強固な各種耐性で「吹っ飛ばし」を無効化できても、判定が異なる「押し出し」までは殺しきれない。大蛇の圧倒的な質量に押され、テンゴの足元が地を削りながら十メートル近く滑らされてしまう!
「ふおおおおおッ!?」
体勢を崩したテンゴの隙を見逃さず、弦の大蛇が口を大きく開き、丸呑みにせんと襲いかかる!
「『超新星の聖歌』――――ッ!!」
死線の一瞬、頭上から聞き覚えのある凛とした叫びが降り注いだ!
上空から旋回してきたチヒロが強力な光撃を叩き込み、テンゴの窮地を間一髪で救い出したのだ!
聖歌の威光に弦の大蛇が苦悶の声をあげて悶え、ターゲット(ヘイト)をテンゴから上空のチヒロへと変更する。
「テンゴ、行ってッ!」
「あぁ、チヒロ! ありがとな、気をつけろよッ!」
テンゴは再び地面を蹴ると、星のラインに乗ってスケートのように滑らかに滑走を開始し、大蛇の巨体を横目に見ながら一気にニコロ本体の元へ向けて突き抜けていった。
「さっきは……よくもうちらの耳を傷めつけてくれたわね」
上空で星に乗り、見下ろすチヒロが冷ややかな視線を大蛇に向ける。
ヘイトを向けられた大蛇はチヒロを噛み砕こうと、巨大な顎をめいっぱい広げて喰らいつこうとした。チヒロがすかさず杖を構え直した、まさにその時――!
「『天球円舞・砕骨音衝』――――ッ!!」
凛冽な声とともに、星に乗って突風のごとく滑空してきたネルソンの刀が、大きく開かれた大蛇の口内へと深々と突き刺さった!
「ッ~~~!?」
弱点である口内への痛恨のカウンターを喰らい、大蛇がのたうち回る。
チヒロの目前に陣取ったネルソンは、星に乗って宙に浮いた姿勢のまま、ニヤリと口元を緩めた。
「拙者も付き合うげんぞ、チヒロ!」
「ふふっ、心強い! じゃあ……行こっか!」
頼もしい言葉を交わし、チヒロとネルソンが再び息の合った共同戦線を張る。肥大化した暴走の大蛇を相手に、二人のコンビネーションが冴え渡る!
◆◆◆
時を同じくして、ニコロの周辺――。
テンゴを「押し出し」で後退させたニコロだったが、その隙を逃さず真後ろから肉薄する影があった。
「僕はルスランだ!!」
「そんなの知ってる!!」
ルスランの掲げる『運命を断ち切る剣』と、ニコロが構える弓の突剣が激しく打ち合わされ、凄まじい火花が散った!
「何故お前は、姫様を奪ったんだッ!?」
「そんなの、俺の嫁にするために決まってんだろがああッ!!」
鍔迫り合いの姿勢のまま、両者の刃と言葉が激しく交錯する。
「本当はお前から『ダークマター』を回収しようと思ってたんだがなぁッ!」
「また……そんな分からないことをッ!?」
「分からないだと……? 単純な話じゃねぇか! 姫様を始末すれば、お前から『ダークマター』が回収できる……そう言ってるんだッ!!」
「何だと……っ!?」
「ほら怒れ! 俺を憎めッ!!」
ニコロは凶悪な笑みを浮かべると、突剣で『光の剣』を力任せに弾き飛ばし、一瞬の隙を作り出した!
「『飛弾の輪舞』――――ッ!!」
ゼロ距離からの弾幕がルスランを直撃する! ルスランは必死に剣で相殺を試みたものの殺しきれず、激しいダメージを全身に受けてしまう。そして――
「っな……僕の、剣が……っ!?」
限界を迎えた『光の剣』が、激しい破壊音とともに、その場で破片となり砕け散ってしまった。
「ハハッ!! まずはお前から終わりだあああッ!!」
「っ……!!」
ニコロが突剣を再び構え、無防備なルスランへ向けて追撃の『飛弾の輪舞』を放とうとした、まさにその時――!
「そうはさせねぇえええええ――――ッ!!!!」
天地を揺るがす叫びとともに強行突撃してきたのは、テンゴだった!
両手には、光の粒子を集めて即席で精錬した「光の槍」が握られている!
「なっ……!? っきぃいッ! 今度は槍かッ!?」
ニコロは反射的にターゲットをテンゴへ切り替え、迫る槍目掛けて『飛弾の輪舞』を叩き込んだ!
「おっしゃあああああッ!!」
テンゴの光の槍が弾幕に打ち消され、その身に激痛が走る。だが、テンゴが強引にニコロの意識を引きつけたその一瞬――真横からルスランが飛び込んだ!
「僕はお前を……許さないッ!!」
武器を失ったルスランは固く拳を握り締め、全身の体重を乗せたストレートをニコロの頬へ深々とぶち込んだ!
「っぶへぇっ!?」
顔面を撃ち抜かれ、体勢を崩すニコロ。しかしすぐさま顔を上げ、狂乱の面持ちで突剣を構え直す。
「この小僧がぁッ!!」
その間合いへ、泥臭く踏み込んだテンゴが割り込んだ。
「ルスラン! 剣が無いなら……今ここで作れッ!!」
「っハ!? そうか……っ! 想像だ……想像するんだッ!!」
テンゴの言葉にハッと目を見開いたルスランは、戦場を満たす『光の粒子』へ強く意識を向けた。次の瞬間――彼の手に、先ほどの剣を遥かに凌ぐ輝きを放つ『光の粒子の剣』が瞬時に実体化した!
「こういうことかッ!!」
手応えを得たルスランは剣を鋭く構え直し、懐に入ってニコロを拘束するテンゴに続いて、上段から一気に刀身を振り下ろす!
「っぐへぇあああああっ!?」
痛恨の一撃を喰らったニコロは大きく体勢を崩し、その拍子に手から大切なバイオリンを地面へ落としてしまった。
「っは……!? 俺の……俺のバイオリンがっ……!!」
転がるバイオリンを目に留めた瞬間、ニコロの顔が鬼のように歪む。
「あああああああ!!!!! お前らあああああああよくもぉぉぉぉッ!!!!」
愛器を汚された激怒で我を忘れたニコロは、懐にいるテンゴと追撃を加えたルスランに向け、殺意を剥き出しにして突剣を振りかざした!
その瞬間、滑空してきたピローが低空で地を蹴り、地面に転がったバイオリンを素早く拾い上げた。
このバイオリンから溢れ出る魔力が巨大な弦の大蛇を出現させている以上、チヒロとネルソン、そして後方でサポートするモモまでもが常に危険に晒され続けている。大蛇を消滅させるには、この媒介を破壊するのが最も確実な手だ。
「俺のバイオリンを……返せえええッ!!」
血走った目でニコロが叫ぶ。ピローは手の中のバイオリンを静かに見つめた。
「返さねーよ」
「……ッ!?」
「けど安心しろ。お前の大切な楽器だ、ぶっ壊しはしねえ」
ピローはそう言い捨てるや否や、屋敷の壁際にそっと優しくバイオリンを置いた。
「ここに置いておくからな」
大切な楽器を戦火から遠ざけると、ピローは即座に反転。再び星のラインを足元に滑らせ、暴れる巨大な大蛇の戦場へと躍り出た!
「おーい、お前ら! 俺も混ぜろーッ!!」
ピローの疾走を見送ったテンゴが、ニコロへ向けて不敵に言い放つ。
「そういうことだ。だからお前は、ここで俺たちの相手をしな!」
「ッ……!! 俺は……俺の護りたかった人は『歌姫』だったんだッ!!」
ニコロが空いた左拳を振るい、テンゴの顔面を力任せに殴りつける!
「なのにどいつもこいつも! 俺のせいだ俺のせいだと……ふざけたことを抜かしやがってええッ!!」
「ぐッ……!」
「俺は演奏家として……歌姫と一緒に生きていくつもりだったんだ!! なのに何故、俺から奪っていく!? どいつもこいつもッ!!」
ニコロはテンゴを殴りつけながら、手に握る突剣でルスランの『光の剣』と激しい剣劇を交わす。
「俺は……護れなかったんだッ!!」
「………………」
テンゴは黙ってニコロの拳を受け止め、泥臭く殴り合いを続ける。
「大切な人を護れなかった!!……お前は、大切な人を護れなかったらどうするんだッ!? 答えろおおおッ!!!!」
ニコロの魂を削るような叫びが響き渡る。
「………………ッ!」
「どうした、答えねぇのか!? お前の答えは何だと聞いているんだッ!?」
それでもテンゴはすぐには答えなかった。激しい殴り合いの渦中、飛び交う火花の中で、思考を巡らせ続ける。
そして――テンゴは覚悟を決めた真顔で、ゆっくりと口を開いた。
「悪い……答えられねぇや」
「っは……?……何……だと……!?」
「それがお前の答えかッ!?」
ニコロは怒りを爆発させ、突剣を突き出してテンゴへ怒涛の連撃を叩き込む!
「っぐっはぁッ!……大切な人が目の前からいなくなったら、俺だってきっとお前と同じになるさ。けどな……『今』は答えが見つからねぇ!」
テンゴの視線が、上空で懸命に戦うチヒロの背中を捉える。
「演奏家なんてのは……いつもいつも答えが見つからない真っ暗な道を手探りで歩んで、自分の進むべき道を泥臭く見つけるもんだろッ!」
「道だと……!? だったら俺の歩んできた道は……間違っているって言いたいのかッ!?」
ニコロが二人を纏めて切り伏せんと、突剣を鋭く構え直す。
「お前がどんな道を演奏家として歩んできたかは知らねぇ。お前自身がそれを正解だと思うなら、それでいいと思うぜ」
「……ッ!?」
「けどな、こんな……憎しみを生むような真似はやめるんだッ!! そんなもの、何の音色にもなりやしねぇよッ!!」
「―――――ッ!?」
テンゴの一言に、ニコロは息を呑み、絶句した。
「俺もお前も結局……演奏する『理由』を探してるんだ。その理由が完全に無くなったら、演奏家なんてやめちまうだろうぜ!」
テンゴとルスラン、そしてニコロ。2対1の苛烈な剣戟は終わらない。刃を交え、火花を散らしながら、互いの魂をぶつけ合う言葉の応酬が続く!
「仲間と協力して俺に挑もうなど……百年早いということを教えてやるッ! さぁ……来いッ!!」
「「オオオオオアアアアッ!!!!」」
輝く『光の剣』を力強く握りしめたテンゴとルスランが、全身全霊の踏み込みでニコロへ向けて突進する――!
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