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47:過去の話Ⅱ

 そこまで話し終えたステラは、震わせながら一度息を吐いた。


「それで、その夜に……サシュが、家に帰っていないってなって……」


 大捜索が始まったのだ。下町総出でサシュを探した。夜が深くなっても帰ってこないことはしょっちゅうだったが、その時に必ずいる場所にいなかったことで、よもやという思いがみんなに上がったのだ。

 案の定、サシュは自力で動けない状態になっていた。後々聞いた話ではステラの小鳥が気に止まっているのを見かけて捕まえて謝ろうとしたらしいのだが、足を踏み外して落ちた場所が悪かったのだ。石が多くある場所に落ちてしまったサシュは、頭を打ち、足の骨を折った重体だった。気を失っていたために助けを呼ぶこともできずに、体も冷えてあと少し見つかるのが遅かったら―――というところまでいってしまっていた。

 だから、ステラは怖くなった。自分が死んでしまえなどと言わなければ、こんなことにはならなかったのにと思ったのだ。小鳥がいなくなったのは悲しくてたまらなかったのに、サシュに降りかかったことは恐ろしくてならなかった。自分の所為としか思えなかったのだ。


「それで、熱を出して……次の日から、声が出なくなったんです」


 だから、


「だから私は、幸せになってはいけないの。他人にそんな事を言って、本当に死なせてしまうところだった私は……」

「お前、ガキだな」


 言葉を遮られ、ステラは顔を上げた。しかしアゼルはステラではなくサシュを見ていた。


「まぁ、その時は実際ガキか……」

「うるせえ!!」

「それで?死にかけたサシュとやら。お前はステラが幸せにならない方がいいと思うか?」

「そんなわけねえだろ!」

「だ、そうだが?」


 アゼルの表情はステラの気持なんぞこれっぽっちも慮っていないもので、ステラはかっとなって椅子を倒しながら立ち上がる。


「どうしてそんなに軽々しく扱うんですか!!私は、私はっ……」

「実際大したことない」

「なっ……」

「死んでしまえと言って死んでしまいそうになった。それはただの偶然だ」


 言の葉の力というものは時として恐ろしいものだが、だからといってそれを恐れて声を捨てるなどもってのほかだ。そう、アゼルは言う。何より。


「自分が言った言葉に売り言葉買い言葉で言い合って、懺悔の気持ちを込めて小鳥を探しに行ってヘマして大怪我して、治ってみれば喋れなくなってました、だなんて……」


 そんなもの、


「お前よりサシュ少年の方が傷は深かったと思うがな」


 ステラは目を見開いてサシュを見た。サシュは苦しそうな表情でアゼルを見ている。

 ステラが喋れるようになって帰ってきたとき、誰よりサシュが喜んでくれた。泣きながら、よかったよかったと何度も繰り返してくれた。それが―――もしも。


「発端はサシュだ。サシュが小鳥に嫉妬して小鳥を逃がさなければ、ステラが死ねということもなかったし自分が怪我をしてステラが喋れなくなることもなかった。もしお前がサシュだったらどうだ」


 ああ、嫌だ。そんなのは嫌だ。そう思いながら首を振って、振って、振る。


「ごめんなさい、サシュ……」

「いや……いいんだ……声が、戻ってるから」


 その要因が自分でないことが、泣きだしてしまいたいほど悔しいけれど。


「その上幸せになっちゃいけないとか、どんだけそいつの首を締めれば気がすむ?」


 アゼルの双眸はステラを射抜いていた。静かな怒気が、ステラを包んでいく。だがそれは、震えあがりそうなほど恐ろしいものではない。


「そいつだけじゃない。お前は、その言葉を言う時の周りの人間の顔を一度でも見たことがあるのか?」


 ステラは恐る恐る周りを見る。壁に背を預けて立っていた母親は、痛みを耐えるような顔をしていた。未だ帰らぬ父親も、きっと同じような表情をしていたのだろう。

 己が幸せにならないのではなく、そう思い続けることで、周りを不幸にしていた―――?


「―――と、まぁお前は少しそこで考えていればいい」


 俯いてしまったステラの頭の上にぽんと手の平を乗せて、アゼルは優しく言った。そうして目を向けたのは、カーラだ。


「あなたにもいくつか尋ねたいことがあるが、よろしいか?」


 それは疑問系ではあったが、拒否権などは用意されていなかった。

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