46:過去の話
ステラは、当時から大人しい子供ではあった。母親と一緒に台所に立って作業をしていることが一番好きで、友達と自作のお人形遊びをするのも大好きだった。
ある日、よくしてくれる近所の夫婦から小鳥を貰った。
「勤め先のお屋敷で貰ったの。よければ育てて頂戴」
そう、微笑んで手渡してくれた小鳥は、とても綺麗な小鳥だった。黄色い羽根にところどころ緑や赤が見えて、きらきらと輝いていた。それからステラは、小鳥を育てる時間がとても好きな時間となったのだ。
「おばさん、ステラは?」
自分の母親から頼まれたものをステラの家に届けたサシュは、台所で作業をしているカーラの隣にステラがいないのを見て首を傾げた。いつもならば、ステラも一緒に迎えてくれるはずなのに。
「ああ、頂いた小鳥の世話をしているの。最近はかかりきりよ」
ああ、それで。サシュは面白くない気持ちでいっぱいになった。最近遊びに誘っても滅多に来なくなったのはそのせいか。
もともと男子と混じって遊ぶような活発な子ではなかったが、だからこそ下町の同年代の男子から人気があったステラはいつも遊びに誘われ、木陰で男女混じって遊ぶ様を見ているような存在だった。その中でも家が近いということもあってかサシュとは一番仲良しで、サシュが誘うと来てくれることが多かったのだ。しかし最近それもなく、おかしいと思っていたがどうやら理由は小鳥らしい。
「ごめんね」
楽しくないという思いが前面に出ていたのか、カーラは苦笑しながらサシュに謝った。サシュの気持ちはカーラには筒抜けだ。というより、わかってないのはステラだけだろう。
サシュはむっつりと頷いて、家を出た。明日また遊びに誘いに来よう。そう決めて。
*
「行かないわ」
「どうして?」
「だって、小鳥の世話があるの。それにね、小鳥が歌っているのを見ているととても素敵な気持ちになるの」
そんなの、とサシュは奥歯を噛んだ。
サシュが誘えばステラはいつも一緒に遊んでくれた。ステラとサシュが一番仲が良いねと拗ねたように他の男子が言ったとき、とても得意な気持ちになった。なのに、最近はめっきり出てこなくなって、しかも、理由が小鳥だ。
憤りは原因がわかったために頂点に達し、サシュは気付けばステラの部屋に乗り込んでいた。
「サシュ?サシュ、何をするの?」
不安げなステラの声を背中に聞きながら、サシュは鳥籠に手をかける。困ればいい、と思った。
「サシュ、やめて!!」
がしゃん、と大きな音がして鳥籠が地面にたたきつけられる。その拍子に開いた扉から、驚いた小鳥は一目散に逃げ出した。そうして、窓から大きく飛び立っていってしまう。
「あ……ああ……!!何て事をするの、サシュ!!」
まさか部屋から逃げて行ってしまうだなんて、サシュですら思い及ばなかったことだ。ごめんと謝る言葉もすぐには出てこなくて、泣きそうな顔のステラを見る。
「どうしてそんなことをするの!?死んでしまったらどうするの!!」
「……死ねばいいんだ、あんな小鳥!!」
そうすれば、ステラは自分と一緒に遊んでくれる。そう思った。―――なのに。
「サシュの……サシュの馬鹿!馬鹿!大嫌いよサシュなんて!!大嫌い……死んじゃえ!!」
それは、ステラが初めて使った言葉だった。サシュが小鳥に死ねばいいなどというから、出てしまった言葉だった。互いに自分の言葉に驚きながら、だがもう後戻りも出来ずに、サシュは部屋から飛び出す。ステラは、そのままその場にうずくまってわんわんと泣いた。




