48:真実
まず、とアゼルは指を立てた。
「お父上の職業は医者で間違いないのですね」
カーラは頷く。アゼルもその答えに頷いて、まずそこが疑問だ、と言った。
「このような下街で医者、と言ったら下街を侮辱しているように聞こえるかもしれないが、ノクールでは下街に居を構える医者など存在しないのでな」
もちろん、居を構えていないというだけで下街の人間を診療する医者がいないと言っているわけではない。だが、医者というのは特殊な職業なのだ。まず知識と経験がなければ務まらない。下町出身というなら得心も行くが、そもそも下街の出身者に医者を輩出できるほどの財力を持ったものがいるとは考えづらいし、なによりそれだけの財力があればもっと良い場所に住めるはずだ。適度に広く、清潔な建物に。
「まぁ、下街に寄り添おうということでここにいらっしゃるのならば構わない。素敵な心がけだと思いますし」
「上から目線だな」
「悪いな、実際上なもので何を言ったってお前にはそう聞こえるだろうさ」
それは―――そうだろう。サシュは言い返せずに押し黙り、アゼルはそんなサシュに小さくため息をついてから話を再開した。
「だが、下街の医者にしては使っている道具が最新のもの過ぎる。我が城の御殿医にも引けを取らない」
カーラが、驚いたようにアゼルを見やった。
「それに今お父上は仕事に行っているのでしょう?予備があれほど充実しているというのも……些か腑に落ちない」
父親側の親の財力と言っても限りがあるだろう。どう考えても、下街での報酬は微々たるものに違いないのに、道具がそれに見合っていないのだ。
「それから、俺としては近所の夫婦というのも気になるな」
「え……」
「鳥を、勤め先で貰ったと言ったな」
「は、はい」
「そんなことはあり得ない」
下街の人間が奉公に出るとしたら、金銭にひっ迫しているからだ。現物支給にしても、食べ物や着るものならまだしも鳥とは笑えない。それに、それをぽんと隣の家の娘にやれるというのも考えにくい。だからといって、それが給金を貰った上での特別報酬の様なものだとは到底思えない。そんな事をする必要がないのだ。
「夫婦で奉公へ出ているのか」
「え……」
「いつも家にいるのか?」
矢継ぎ早に、アゼルがステラに尋ねる。ステラはそれに目を白黒させるが、やがて不安そうな顔になった。
「家を……知りません……」
「知らない?」
「奉公から帰ってきたのだとうちへ寄って、いつも私にお土産をくれて……それで、帰っていくんです……。私から会いに行ったことはありません……」
「いつも?」
それは尚更おかしいな、とアゼルはカーラを見た。カーラは緊張した面持ちでアゼルを見つめている。
「その近所の夫婦とは誰です?そして、あなたは、あなた方は……何か隠し事があるのではありませんか」
アゼルの中で、近所の夫婦が下街の人間ではないということは確定していた。来るたびに土産があるなど、下街の人間であり得るはずがない。そして、そんな人間が訪ねてくるらしいこの家も、何かあるに決まっている。
「まぁ、お父上がいなければ話しにくいでしょうから」
アゼルはそう言って、カーラから視線を外した。ここでどんなにカーラを問い詰めようとも、カーラは話さないだろう。そんな意志の強さがカーラからは読み取れた。だからアゼルは、再びステラに向き直った。




