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真綿のような優しさの中で

※先程の投稿と前後していたので、順番を入れ替えています。申し訳ありません。

次の日の朝食の時には、少し気まずさを覚えていたものの、いつも通りの朝。両親の対応は何も変わらなかった。

肩透かしを食らった気分でも、婚約の話が進まないのであれば何だって良い。その日から少しでも情報を集めたくて、執事や侍女、家令に家政婦長、あらゆる大人に婚約や結婚について聞いて回った。


幼いとはいえ公爵令嬢の私に仕事を邪魔をされていても、皆真面目に答えてくれる。けれど、私の不安を除く答えは見つからなかった。


言葉を選び、意図を変えながら聞いて回り、「結婚とはそういうもの」という意識が強くなり始めた頃、父が珍しく家にいる日があった。嬉しくて執務室へ遊びに行くと、そのまま傍のソファへと促される。

美味しいお菓子を準備してもらい、お気に入りのぬいぐるみを持ってくる。そのままおままごとをしながらお茶会を始めれば、思いの他父も乗り気だった。優しい笑顔を向けながら共に遊ぶおままごとは、いつもと違う環境と遊び相手にとても胸がドキドキしていた。


お菓子が無くなり一段落すると、少し真面目な話をするよ、と父が向かい合う。なんだか嫌な予感がして、ぬいぐるみを抱きしめた。


「前に話した、婚約の話は覚えているね?」


嫌な汗が背中をつたう。ドクドクと心臓の音がうるさい。上手く言葉にできず、ただ頷く。


「ペルの婚約者が、正式に決まりそうなんだ。お相手は──アスラン王太子殿下だよ」


ぬいぐるみを抱きしめる腕に力が入る。俯いたままでも、父は静かに話を続けていく。穏やかで、暖かい声色だった。


「色んな人に、結婚について聞いたんだってね。沢山聞いて、ペルはどう思った?」


「……いや」


「どうして?」


責められていないと分かっていても、言葉が詰まる。どう伝えれば良いのか分からず、顔をぬいぐるみに埋めていれば、背中に温もりが届く。驚いて顔を上げれば、私はいつの間にか父の腕の中にいた。

父と目が合うと、寂しそうに眉を下げる。困らせたい訳でも、わがままを言いたい訳でも無いのに。

どうしようも無い感情は涙となり溢れ出ていく。嗚咽混じりにも、どうにか婚約を回避したくて、必死に伝えようと口を開く。


「こ、わい、みん、な、いなくなるっの、いっいや、っだ」


優しい両親を、病に苦しむ兄を、私は失いたくない。婚約して断罪される未来を思うと、怖くて仕方ない。乙女ゲームで描かれなかった悪役令嬢の、そして公爵家の末路は未知数で、私のせいで壊れる家庭を思うと、どうしても婚約はしたくなかった。

背中を優しくさすられていれば、次第に落ち着きを取り戻す。そうして父はまた話を続けた。


「教えてくれてありがとう。…ペルは、婚約が怖いんだね。けれどね、ペル。婚約しても、すぐに何かが変わるわけじゃないんだよ。それに、結婚しても、父様と母様、兄のヴェスペルも、ペルの家族だよ。……他には、何が怖い?」


「何がこわい…?…おうたいし、でんか…」


「…どうして怖いのかな?」


「……………………」


失言に気付き、口を閉ざす。

断罪されることが分かっている今、彼のことを怖がらずにはいられない。けれど、怖いのはそれだけでは無かった。乙女ゲームの世界とはいえ、婚約を蔑ろにするなんて──。

ゲームでは最高の王太子だった彼が、今はただただ怖かった。


「……今度、一緒に会いに行こうか」


沈黙を割いたのは父だった。知らない相手だから怖いと解釈したのだろう。この一言で、もう逃げ場が無いと悟ってしまう。私のことを考えているからこそ、無理強いせずにいてくれる。ここで会いたくないと拒否すれば、それこそただのわがままだ。


ここまで来れば、腹を括るしかない。不敬でも何でもいい。王太子の幼少期姿をこの目に焼き付けてやる。

それで婚約が白紙に戻るなら、願ったり叶ったりだ。

かつて愛した“王太子ルート”への熱を必死に掻き集め、父に分かったと頷いた。




………夜、少しの物音で目が覚める。体は暖かく、瞼が重たい。両親が就寝を確認しに来ることがあると聞いたことがある。今日もそうなのだろうと、安心して寝返りを打った。

部屋が静寂に包まれれば、誰かの会話が聞こえる。少し聞き耳を立てれば、やっぱり両親の声だった。


「最近、ずっと思い詰めてるみたいだね。こんなに幼いのに…」

「婚約の話からずっとそう。…ペルは優しくて、聡い子になりましたね」

「ああ。会話もよく聞いているし、時折大人びたことを言って驚くよ」


自分の話をされていて、少しだけ居心地が悪い。寝たフリがバレたらとても恥ずかしい。このままやり過ごそうと思った時、頬に柔らかな感触。驚きはすれど、眠たさには敵わない。心地良さを受け入れていれば、もう夢の入口まで来ていた。


「……4歳ってこんなに…」

「…でも、王太子……」


前後の言葉を理解する前に、段々と言葉が遠のいていく。そうして次に目が覚めた時には、昨日の会話すらも覚えていなかった。

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