第16話 共闘、そして……
久しぶりの感覚だ。対峙する相手の鋭い視線が皮膚に焼け付くように感じる。
剣の柄を両手で握り、縦に構える。敵の動きをよく観察し、次の行動を読む。
熊も同じくこちらをジッと睨んだまま動かない。
熊は四足歩行の状態で俺に突進してきた。俺は横に転がって避ける。
切り掛かろうとするが、体勢を立て直す前に熊は素早い動きでこちらを向く。
今、熊の背後の草むらにはヒメノが潜んでいるはずだ。熊の背に攻撃をしてくれるといいが……。
「ファイヤーアロウ!」
ヒメノの声が響き、草むらから炎の矢が熊の背中へと当たる。熊は一瞬怯んでから後ろを見ようとした。あまりダメージにはなっていない。
今だ!
俺は走り出して熊の胴体めがけて剣を右上から左下へと斜めに振り下ろした。
浅い!
熊の胴に見事当たったが、使い慣れない剣のせいか深手を負わせることはできなかった。思ったよりも硬い。表面の毛が硬く、皮まで攻撃が通らない。
どうする。考えるんだ。
剣を構え直す。背中側が硬いとなると弱点は腹だろうか。なんとか隙を作って腹を狙うしかない。さっきの攻撃は浅かったが、もっと踏み込んで剣の重さに自分が振られないように腕に力を入れる。そして、腹の中心を狙う。
熊はこちらを見て、グルグルと声を上げ威嚇している。
「おらーーー!」
俺は気合を入れて熊の腹目掛けて突進した。
熊も腕を上げて俺に攻撃しようとする。
「火力不足ならば、ファイヤーボール!」
今度は熊の後ろから先ほどの炎の矢よりも大きな炎の玉が熊の背中へと当たる。熊も前後から来る攻撃を捌くのは難しいのだろう。背中が燃えているため、俺への攻撃の為に上げた腕を自分の背後へと振り、炎を消そうと試みる。俺はその隙に腹へと剣を突き立てることに成功した。
俺は喜びの声を上げようと思ったが、熊はまだ生きていた。俺は油断して剣の柄から両手を話してしまった。熊は体勢を崩したままに俺の方へと腕を振った。熊の最後の力を込めた一撃は俺の腹に当たり、熊の鋭い爪が腹を裂いた。俺はそのまま薙ぎ払われ近くの木まで吹っ飛び、背中を強く打ち付けた。
「グハッ、ク、クソ」
肺から空気が抜けて、裂かれた腹に焼けるような痛みが襲う。
手で腹を抑えても血は止まらない。
やられた。
先程いた場所から熊がゆっくりと近づいてくる。熊の腹には俺の剣が刺さり、血が滴っている。
俺の目の前まで来ると、剣を腹から引き抜いて俺の目の前にガチャンと音を立てて落とした。
熊はドスンと俺の目の前で倒れて動かなくなった。
相打ちか……。
俺は何とか剣に手を伸ばして柄を右手で掴んだ。俺、もう死ぬのかな……。やっと奴隷剣闘士から解放されて自由の身になって冒険ができると思ったのに……。
あいつを探そうと思ったのに……。
ヒメノが草むらの中からこちらに涙目になりながら走ってくる。もう視界は霞み指先が冷たくなってきた。
「キール! すぐ回復魔法を使うから。ヒール! ヒール! どうして血が止まらないんじゃ」
ヒメノは涙で顔をくしゃくしゃにしながら、ワンドを俺の裂けて血まみれの腹に近づけて唱える。しかし、血は止まる気配もなく流れ続ける。
まだ死にたくない。
まだ死にたくない!
俺が強くそう願うと、右手で力なく握っていた師匠から貰った剣が強く光った。
俺は眩しさに目を瞑った。
そして、ゆっくりと目を開けると俺はさっき隠れていた大木の陰にしゃがんでいた。
隣にはヒメノがいる。
この状況が理解できない。
俺は死んだんじゃないのか? どうして熊と戦う前の状態に戻っているんだ。腹の傷も確認するが傷も痛みもなくなっている。
「どうしたのじゃ? あの熊にビビッておるのか?」
ヒメノは俺の脇腹を小突いてニヤニヤしている。さっきの泣いていたのが嘘のようだ。
「いや、そういうわけじゃないけど……」
時間が戻ったということなのだろうか? そんなことが可能なのか? ヒメノが使った魔法なのか? でも、ヒメノの様子が全然違う。さっきのことがなかったようだ。
「なあ、逃げないか?」
「何を言うておるのじゃ。あんな熊ごとき、わらわと其方がいれば勝てるじゃろう」
ヒメノは俺の言葉にキョトンとして言った。
「いや、俺には分かるんだ。あいつには勝てないってことが」
ここで時間が戻ったとか言っても信じてはもらえないかもしれない。とにかくあの熊との戦闘は回避しなければ。
俺はヒメノのことをいつもの軽口を言うようではなく、真剣な目で見た。
「ふむ、其方がどうしてもというなら。仕方ないのう。じゃが、理由は後で聞かせてもらうからの」
「ああ」
そうして俺とヒメノは元来た道で街へと戻った。戻る頃には夕方になっていて、いつもの酒場へと向かった。
これまでの話が(作者的にも)割とパッとしまかったので、ここからが物語の転換点になってくれればいいかなと思います。
ゆるく日常回がほとんどですが、戦闘シーンやシリアスなところも作っていきたいです。




