17話 真実 世界
いつもの酒場に着くと、まだ師匠たちはいなかった。師匠は今朝、用事があると言っていたが終わったらこの酒場に来るだろう。
「どうしたのじゃ? さっきからまるでいつもの元気がないようじゃけど」
ヒメノは俺が力なくテーブルにもたれかかる様子を見て、心配そうに俺のことを覗き見た。
「ううーん、師匠が来た時に話すわー。俺にはどうすればいいのかわからん」
自分でも自分の身に起きたことが理解できない。何かの魔法であるのならスピカが知っているだろうし、時間が巻き戻るなんて現象に対処不能である。俺はもう考えることをやめていた。
「しょうがない奴じゃなー」
そんなことを言いながらヒメノは適当に料理を注文している。俺も運ばれてきた料理を食べていると、しばらくして師匠はスピカと一緒に酒場へと入ってきた。
「久しぶりー、キール!」
スピカは席に着くなり俺に抱きついてきた。うおっ、胸が当たった! なんていつもならドキリとしてしまうところだったが今日はそれどころではない。
俺の反応が薄かったことに、
「およ? どうしたのキール? 元気ないじゃない」
「いや、まあ、いろいろあって……」
俺が暗い顔をしてそう言うと、スピカはヒメノの方を見た。が、ヒメノもさっぱりな訳だから肩をすくめるだけだった。
俺はさっき戦闘中に起こったことを3人に話した。戦闘中のミスは恥ずかしかったが、死にそうになった後に時間が戻ったということは魔法だろうか、と。
「う、うん」
話を聞いてすぐにスピカは何か言いにくいのか、咳払いをしてから師匠の方をジロリと睨んだ。
師匠はそれに対して、「えっ? 俺?」みたいなとぼけた顔をしたが明らかに何か知っている様だった。
ヒメノはきょとんとして、
「そうだったのか~」
なんて言っている。反応が薄すぎて死にそうになった俺としては悲しい。もっと俺を労わってくれよ。
「どういうことなんだよ、師匠は何か知っているんだろ?」
俺も師匠を睨んで、椅子から乗り出して詰め寄る。
「あんた、まだ言ってなかったのね」
スピカも同調して師匠に詰め寄る。
「いやー、まさか剣を預けてすぐに死にそうになるなんてな。思ってなかったんだよ」
師匠は気まずい顔をしながら顎の無精ひげを撫でた。
「キール、その時間が巻き戻ったのはね、その剣の力よ。今回は結果的にはよかったけど、こいつがまだ話してなかったなんて私の考えが甘かったわ」
スピカはそういうと、テーブルに立てかけられている俺の剣を指して言った。
? ?
当然俺はなんのことかわからない。ヒメノと二人で首を傾げた。
「もう、私から説明するわね」
スピカは呆れたように言うと、説明をはじめた。師匠は申し訳なさそうな顔をしているが、実のところ大して申し訳ないとは思っていないだろう。
「つまりね。キールの師匠であるこいつが昔使っていた、その剣にはある魔法がかかっているの。それが時を巻き戻す魔法よ。そしてその魔法を開発し、かけたのがなんと! 私なのよ!」
普段のヒメノがするより数倍のドヤ顔で話を締めくくった。なるほど、ヒメノのドヤ顔師匠であるスピカ譲りのドヤ顔だったんだな—―—―
「えーーーーー! なんじゃその魔法は!」
ヒメノは肉を片手に絶叫した。俺も驚いたけど、予想が確信に変わっただけなのでそこまで大声を出して驚くほどでもなかったんだが……。
ヒメノは驚いたらしい。こっちが普通の反応なんだよな。
ヒメノの絶叫は酒場中に響き渡り、一瞬で騒がしく活気づいていた酒場を静寂が包んだ。
「あー、シー!」
スピカが指に人差し指を当てる。
「このことは公にはなってない極秘のことなんだから、静かに」
「うむ、すまんかった」
ヒメノは椅子から立ち上がっていたが、まったく反省をしていない声色で元気いっぱいに言って腰を下ろす。というか、極秘のことを酒場で、しかもドヤ顔で話すなよ。
「で、その魔法は何でかけられて、しかも何もしてないのに発動したんだ?」
俺は一番気になる重要なところを聞く。そんな秘密で、忘れていたが大魔法使いのスピカがかけた特殊な魔法だということは当然何か理由があるのだろう。
「それはね・・・・・・」
ここからは現在置かれている世界の状況、師匠の立ち位置などをスピカが丁寧に話してくれたのだが、いちいちヒメノがオーバーな反応をしたので話に深刻性を感じずに話が終わってしまった。
つまり、話はこうだ。
世界は現在、魔王と手下の魔六諸侯による進行を各国が受けている。
師匠・ガレリアは世界で唯一、魔王と対峙して生き残った人間であった。
数年前に、この国・カルディア王国軍が魔王に襲われた国の偵察途中に師匠を発見し国へと連れ帰った。体には魔王の強い魔力によりできた無数の呪いに近い傷が残されていたが、スピカによってどうにか抑え込んだ。その傷は現在でも完治はしていない。
その後、師匠に莫大な富を報酬とし、王とカルディア国の同盟国が魔王討伐を依頼した。そして、剣聖の称号と、この国に伝わる天使と契約された聖剣・コントラクトソードを授かった。それからはカルディア王国を拠点にして世界中を旅して、仲間を集め、魔王の情報を求める旅に出ていたという訳である。
また、不思議なことに魔王や魔六諸侯がどこにいるのかはわからず、南の大国を襲ったと思ったら、次は北の小国が襲われた。というように神出鬼没にいくつもの国を襲っては滅ぼしているという。大国では国ごとに軍を持つ国や、同盟を組み魔王討伐隊を組織してはいるが、いずれも魔王の襲撃に勝利したことはなかった。また、魔王の目的も不明であった。
俺の持つ師匠の古い剣は使用者の強い想いにより、時間を巻き戻す能力を付与した剣なのである。もしも、魔王討伐で剣聖が死にそうになっても剣の能力で戦闘前に戻すことを目的としてスピカがかけた世界で唯一の時を操作する魔法である。
そして、今の剣聖には、かつてのように魔王と渡り合うことはできないため、新しい魔王を討伐できる者を見つけたのが俺であったということだ。そうして俺が時を巻き戻す魔法を付与された剣〈タイムソード〉を託された。
これから俺は魔王討伐に向けて訓練をしていかなければならないようだ。こんな大事になってしまうなんて思ってもみなかった。
それに、俺の仲間にヒメノがなるということらしい。今回の戦闘を通して、そして普段の生活や性格からヒメノと共闘することに少し不安を感じた……。
お久しぶりです。ずっと更新できていなくてごめんなさい。もう少し定期的に更新したいです。




