第11話 魔法学園
「起きるのじゃー」
「ぐわー、なんだ!」
突然の大声に飛び起きると目の前にヒメノの顔があった。ヒメノは寝ている俺の上に馬乗りになって顔を覗き込んでいた。
「早く支度するのじゃ。学園へ行くのじゃろ」
ヒメノはベッドから降りると腰に手を当ててやれやれといった様子で俺を見た。
「えっと、なんで俺の上に乗ってたんだ?」
俺はかわいい女の子の顔が目の前にあったことにドギマギしながら聞いた。
「そりゃあ、其方が起きぬからじゃろ。あと、顔の堀が深いの~と思って見せてもらっておったのじゃ」
恥ずかしげもなくあっけらかんと言った。起きなかったのは俺が悪かったが、そんなに顔を見られていたとは恥ずかしい。
「ちょっ、何やってんだよ」
俺は赤面しながら言った。
「別に良いじゃろ減るもんじゃあるまいに。早く準備するのじゃ」
そう言って寝室を出ていった。なんだったんだ…。
俺は起きて応接室を横切ると、師匠はまだソファーでいびきをかいて寝ていた。その向かいのソファーにヒメノは座っていた。
「ちょっと待ってて」
と言ってバスルームに行きシャワーを浴びる。シャワーを浴びることのできる環境があるのだから朝も目覚まし代わりに浴びなくては損であろう。
急いで出てまた寝室に戻りいつもの服を着てナイフを腰につけて準備を完了する。
応接室に行きヒメノに近づくとヒメノはうつらうつらと居眠りしていた。
俺はさっきの仕返しにとヒメノの顔を真近でまじまじと見てやった。透き通るような肌に薄ピンク色の唇。睫毛は長く目は開ければぱっちりしているだろう。
そう思ったらドキッとした。女の子というものをよく考えたら初めて間近で見たかもしれない。いや、さっき寝起きで見たか。
と思っていると、ハッハクション!とヒメノは俺の目の前で盛大なくしゃみをした。俺の顔面にヒメノの唾が飛ぶ。
「うっわ、汚ねーな!」
俺が顔を拭っているとヒメノがムニャムニャと目を覚まして寝ぼけ眼に俺を見た。
「ふわー、お主何しとるんじゃ?準備はよいのか?」
「あ、ああ。いいよ」
俺は唾をかけられたことに抗議したかったが、そうすると俺がヒメノの顔を見ていたことがバレてしまう。
「では、行くかの。付いてくるのじゃ。魔法学院へ行こうぞ」
そう言うと立ち上がり扉を出て行く。俺も後ろを付いて行こうとしたが、師匠が寝ていることに気づいた。
「おい!起きろ!学校行ってくるから」
師匠を叩いて俺はヒメノの後を追う。
扉から出る時に師匠は寝ぼけて何か言っていた気がする。
慣れたようにヒメノは城の中を歩いて街に出る。
街は多くの人が行き交い賑わっている。左右には飯屋や物売りの店が軒を連ねて多くの人が歩いていた。
俺のいた国でも大通りはあったけどここまで人はいなかった。
俺はヒメノの後を追いかける。ここでヒメノを見失えば俺は迷ってしまいそうだ。
しばらく俺は無言で着いて行く。ヒメノの方も何も話さない。何を話せばいいのかも分からないから俺も無言でいる。
そうするとふと思い出したように言った。
「のう、其方は一緒におった剣聖様とそっくりじゃのう。わしは昨日見た時ちいとだけびっくりしたぞ」
突然よく分からないことを言われて俺は驚いた。師匠とは全然似てないような気がするが。
「いや、カルディア王国で俺が奴隷としていた所に師匠が来て俺を弟子にするって言うから俺は弟子になったんだよ。兄弟でもましてや親子でもないぞ」
「そうか、そうなのか。他人の空似とは珍しいこともようあるんじゃのう」
「そういえば、お前のその恰好はなんなんだ。珍しい服だなー」
「これかの?其方もお目が高いのう。これはの東方の国、妾の出身の国の服で着物というのじゃ」
そう言ってヒメノは目の前でくるりと一回転して見せた。動きに合わせて長い黒髪が揺れる。
「そうなのか、綺麗な布だな」
「そんな褒めるでない。褒めてもなんも出んぞい。おっ、そろそろ見えてきたぞ」
嬉しそうにしているヒメノが目の前の大きな建物を指差す。
王城とは違った大きな建物が大通りの先にそびえていた。大きな門の先には塔が二本立っている。その下にも大きな窓ガラスが等間隔にある建物がある。随分と大きな建物だ。
門に着くとどこか誇らしげに言った。
「ここが魔法学院じゃ!」




