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1年後の予見、迫る世界の寿命

「かくれんぼ」から、さらに一年の月日が流れた。

十二歳になったミリーは、相変わらずベレルムの研究所で、箱入り娘として天真爛漫に暮らしていた。しかし、その平穏な日常の裏側で、超天才魔科学者であるベレルムの部屋のモニターには、冷酷な滅亡へのカウントダウンが刻まれていた。

「……ふむ。魔科学エネルギーの多重飽和による、世界構造システムのエラー値。指数関数的な上昇が止まらないね。あと一年――いや、地球時間にして正確に三百六十五日後、この世界は過負荷による大爆発を起こす。チリひとつ、電子ひとつ残さず、すべてが完全消滅する。これが、進みすぎた魔科学戦争の代償か」

ベレルムは、青白く明滅する膨大なシミュレーションデータを前に、静かに眼鏡を押し上げた。

世界のシステムそのものが限界を迎えている。これは一国や一組織の仕業ではない。世界そのものの「寿命」であり、崩壊だった。

「世界を救う、か。そんな非効率で確率ゼロの選択肢は最初から除外だ。世界を直す発想なんて、私の可愛いミリーにはなくていい。ならば、私の取るべき唯一の最適解は――」

ベレルムの指先が、空間に新しい魔科学数式を凄まじい速度で展開していく。

それは、世界を救うためのものではなかった。ミリーを、そして自分たちを連れて、この崩壊する世界から完全に脱出するための超巨大ガジェット――『異世界転移扉(次元ゲート)』の設計図だった。

世界の終わりが残り一年に迫る中、政府の超常現象調査員たちの動きも、焦りを帯びて活発化していた。世界崩壊の予兆を彼らも薄々感じ取り、ミリーの「あらゆる不具合を直す力」を、世界の修復プログラムとして強制利用しようと血眼になっていたのだ。

だが、彼らが研究所の境界線に近づくたびに、ベレルムが張り巡らせた高度な魔科学トラップが容赦なく牙を剥いた。

「うわあああ! また空間反転トラップだ!」

「に、にゃあああお!!」

さらに今回は、いつの間にか調査員の背後に回り込んでいた黒猫のミャアが、鋭い威嚇の声を上げて彼らをパニックに陥れる。ミャアが巧みな誘導で、わざと結界の外の小型モンスターの巣へと調査員たちを誘い込み、彼らはミリーの姿を見ることもできずに、命からがら逃げ出していくのだった。

「ふふ、さすが私の可愛い姪っ子の相棒だ。野生の生命力と魔力伝導率のシナジーが素晴らしいね」

モニター越しにミャアを褒め称えるベレルム。しかし、罠を潜り抜けて研究所の裏手へと戻ってきたミャアの姿を見て、ベレルムの笑みがふっと消えた。

「……にゃあ」

ミリーの元へとトコトコ歩いていくミャアの足取りが、一年前と比べて、ほんの少しだけ重い。

以前なら風のように軽やかだったその跳躍が、どこか小さくなっていた。

「あ、ミャア! おかえりー! 今日はちょっと疲れてるの?」

ミリーが駆け寄り、ミャアを優しく抱きしめる。ミャアは嬉しそうにミリーの腕に顔を埋めたが、その呼吸は以前よりも浅く、静かだった。

ベレルムは眼鏡の奥の目を細め、胸の奥で静かに計算を弾いた。

(ミリーの力で驚異的な魔力を得たとはいえ、元はただの野良猫だ。この一年で、猫としての『寿命』が限界に近づいている……)

世界の寿命、そして、大切な相棒の寿命。

迫り来る二つの「終わりのカウントダウン」に囲まれていることも知らず、ミリーは腕の中のミャアを愛おしそうに撫で、沈みゆく美しい夕暮れの森をのんびりと見つめていた――。



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