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魔科学研究所での「箱入り娘」生活

「わあ……っ! おじちゃん、お部屋の中にピカピカする機械がいっぱいあるね!」

ベレルムの第一魔科学研究所に到着したミリーは、見たこともない最先端の光景に目を輝かせていた。

そこは、周囲を険しい山々と鬱蒼とした大自然に囲まれた、完全なる孤立地帯。しかし研究所の内部は、無数のホログラムモニターが浮かび、発光する液体チューブが美しいラインを描く、最先端の魔科学の結晶体だった。

「そうだろう? 全部私が発明したんだ。世間は私を『時代を先取りしすぎた狂気の天才』なんて呼ぶけれど、心外だな。私はただ、世界の法則を少しだけ効率的に書き換えているだけさ。さあミリー、足元のそのコードは踏まえないでおくれ。触ると君の可愛い髪の毛が静電気でアフロになってしまうからね。ふふ、それも少し見てみたいけれど」

「あふろ? おもしろそう!」

「おっと、いけない。お袋に怒られてしまう。今日の晩ごはんは、私が分子ガストロノミーを応用して作った『絶対に失敗しない特製オムライス』にしよう。ミリー、君はただ、笑って美味しく食べてくれればそれでいいんだよ」

ベレルムは物腰柔らかく、ミリーに対してとことん甘かった。

彼は、お婆ちゃんや亡き弟夫婦から聞いていたミリーの能力の特性――「心から救いたいと想わなければ発動しない」という絶対的な条件を完璧に理解していた。だからこそ、彼女の力を研究のために利用しようなどとは微塵も考えず、ただ一人の大切な姪として、世間の垢から遠ざけて「箱入り娘」のように大切に守り育てることに決めていたのだ。

おっとりした天然なミリーにとって、この研究所は最高の遊び場だった。

ベレルムが敷地全体に展開した超強力な『防衛結界』のおかげで、外の山に生息する獰猛なモンスターたちは、研究所の周囲には一歩も近づくことができない。ミリーは毎日、安全が保証された広大な敷地内を、一般的な十歳の女の子の運動能力のまま、元気にドタバタと駆け回っていた。

「にゃあ」

窓の外から、あの黒猫のミャアがひょっこりと顔を出した。

ミャアは完全に飼い猫になったわけではなかったが、このお気に入りの森に住み着き、ミリーが外へ遊びに出ると、どこからともなく現れては一緒にじゃれ合って過ごす、特別な相棒になっていた。

「あ、ミャア! 今日も遊ぼう!」

ミリーが笑顔で外へ駆け出していくのを、ベレルムは温かい目で見送る。

しかし、ミリーが森の奥へ向かったのを確認すると、ベレルムの眼鏡の奥の瞳が、ふっと冷徹な魔科学者のそれへと切り替わった。

「――ふむ。狂気的なまでの純粋情緒パルスによってのみ駆動する、因果律の完全修復リセット現象。これを世界から隔離し続けるのは、なかなかに骨が折れるタスクだ。特に、嗅覚だけは一人前の『彼ら』が相手となるとね」

ベレルムが指先で空間を弾くと、目の前に何重ものセキュリティモニターが展開された。

そこには、研究所を囲む広大な森の『外縁部』――ベレルムの防衛結界のギリギリの境界線上で、不審な魔導双眼鏡を構え、こちらを監視している男たちの姿が映し出されていた。

男たちの胸元には、特異な超常現象や秘匿された古代魔法を国家の管理下に置こうとする、政府直属の組織のエンブレムが刻まれている。

「国家の超常現象調査員、か。お袋の入院先のカルテから、ミリーの異常な回復パルスを嗅ぎつけたのだろう。まったく、国家のシステムというものはいつも一世代遅れていて、且つしつこい。私の優雅な研究と、ミリーの健やかな育成計画を邪魔するマクロバグどもめ」

ベレルムは、画面の中の調査員たちをまるで見計らったように冷ややかに見つめる。

政府関係者という、ミリーの平穏を脅かす大きな影。

しかし、超天才発明家ベレルムの辞書に「屈服」という文字は存在しない。彼はミリーには決して見せない裏の顔で、次なる防衛のチェス盤を静かに動かし始めるのだった。

そんな大人の緊迫した暗闘など夢にも知らないミリーは、今日も青空の下、ミャアを追いかけて元気に森の緑を駆け抜けていく――。



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