《たそちゃんの一日》2/ 裸締めからは逃げられない………!
「どーしてそんなに」「面白くないの……………!!!!!!!!」
としきりに繰り返して、まじちゃんは僕を叱責した。
他にも色々言っていたけど、まとめると息を潜めて様子をうかがっていた自室内での僕の行動があまりにも面白くなかった、というのがこのお怒りの理由のようだった。
「いや僕は待っていただけで、、、、」
「えぇ」
「お時間を過ぎてもお姿が見えなかったので、自室の中で待たせてもらおうかと」
「えぇ」
「そしたら15分経っても音沙汰ないから僕心配で、」
「じゅう、、、、、」「5分よ?」
「……………………」「………………え?」
「じゅうごふん、」「見せられたんだよ?あたし」「たなかんの、」「全ッ然面白くない、待ち姿」
「……………………」「………………待ち姿」
「そう。」「最初はね?」
「…………………はい。」
「こんこん、って聞こえた時、思ったの」「〝これは絶対面白くなる~!〟って」「〝ドアの裏に隠れて驚かせたらたなかん飛び上がって喜ぶゾ~!〟って」「そいで、」
「はい……………」
「〝ドアの裏には要注意だ!たなかん!〟って顔に指さして」「言ってやろうって……………」
「はい、」「はい……………」
「そしたら絶対今日一日が、楽しくなるぞ、」「って……………」
「あ、」「……………はい」
「そいたらね?」「そいたら、」
「はい……………」
「全然気付カナイジャン、」「たな、かん……………」
「気付かない……………」「はい、」
「ね?」
「はい、」
確かに全く気が付かなかった。
〝扉の裏に潜まれる〟までは気が付かない可能性が高いけど、その後も全く…………
普通衣擦れとか息遣いの音とかが聞こえてきそうなものだけど、そういうのも全く…………
ちなみにまじちゃんは、今日も服・化粧・髪共に完璧だった。
部屋のインテリアに沿った美容師か、カフェ店員かのようなロングスカートのお洒落な出で立ちで
それが、
今働いている奇行をより一層悪夢に仕立て上げていた。
「ぼぉん、っていったんだよ?一回」
「ぼぉん……………?」
「そう、たなかんが開けた扉が一回、」「まじきのおけつに当たって」
……………おけつ。
僕が開けた扉がおけつに当たった……………
「後ろを……………」
「ん?」「なに?」
「後ろを向いてらしたんですか、扉の裏に」「隠れてた時」
「え?うん」「後ろ向いてたよ?」「あの、」
「はい、」
「はしゃいでたから」
「はしゃいで……………?」
「そう、〝ウキ~!〟ってなってたから」「楽し過ぎて」
「は、」「はぁはぁ……………」
「……………………」「何?」
「…………………え?」
「何?」「問題ある?」
「い、いえいえ、」「全く……………」
この部屋の扉を開けた時に〝ぼぉん、〟という感触があったかどうかは覚えていなかった。
あったとしてもあの、
アレに当たった音として気に留めていなかったのかも知れなかった。
あの、
あの扉を受け止める役割をする
扉の裏の低い位置に大抵付いてる、あの
ゴムの白い丸いやつ。
「そいでね?」
「は、はい……………」
「なんか言うジャン?ぶつぶつぶつぶつ、」
「え、ぶつぶつ……………?」
「そう、〝えぇー?〟とか〝あれぇー?〟とか」「なんか面白くない、普通のやつ」
普通の
やつ…………?
「いや、普通って、それは」
「うん。」「………何よ」
「誰も見てないんだから普通になるに決まってる、」
「うん」
「面白いことなんて言うわけないじゃん、他人の部屋で一人でいて、人を待ってるだけの時に」
「…………………アッ!」
「えっ?」
「口答え口答え!」「口答えするんだァ、たなかん!」
と言ってまじちゃんは、右手を〝バキューン〟の形にして
本官が銃を乱射する時とそっくりに腕を振った。
「あ、わ、」「ご、ごめんなさい………………」
「タイホタイホ!」「本官は!」
「ひえぇ………………」
「タイホでありますゾォ~!!!!!!」
「ひいぃ~……………」
……………………………………
……………………………………
……………………………………〝本官は、〟
〝タイホでありますゾォ~〟…………………
想像つきますか?
長身垢抜けの大人の美人が
こういう奇行を演じている
この映像の恐怖が。
「ごめんなさい、ごめんなさい、」「ごめんなさい、本当に……………」
「そいでね!?」
「はい、、、、」
「一回こっち見たジャン!」
「…………………」「え?」
「一回ドア閉めて、こっち見たでしょ?」
「あ、」「…………………」「うん。」
「でしょ?」「一回見たじゃん、モロにこっちを」
「…………………」「…………………」
そう、僕は扉を閉めた時、一度扉の方に体を向けている。
真正面ではなかったかも知れないけど、そこに立っていたのなら気付かないわけがない。
「そこでね?思ったわけ、まじきは」
「はい……………」
「〝やや、こやつ、〟」「〝仕掛けてきておるな!?〟」「って。」
「え、しかけ…………?」
「気付いた上でやり返してきてるなって。」「ドッキリ返し、みたいな感じで」
「あ、あー…………」「なるほど」
「そのまんましれっと知らない顔でYogiboに座ったでしょー?」
「う、うん……………」「座った、ね……………」
「でしょ?」「そいたらさぁーあ?」「負けらんないじゃない、たなかんなんか」「ごときに!」
「…………………」「……………ははぁ、」
「デショ!?」
「……………はぁ、」
「デショ!?」
「…………………」「……………あの短い間に、そんな攻防が、」
「そう!」「あったわけよ!」
「ふ、」「ふぅん……………」
「っそう!」
……………………………………何をしとんねん一人で。
はよ声かけてこいや
「そいでね?見てたの」「〝どうオチをつける気なのかなー?〟って、わくわくしながら」
「……………えぇ、」
「お笑い強者だかんね!?」
「…………………」「……………えっ?」
「お笑い強者だかんね、たなかんは」「まじきの中での!」
「あ、あぁ、」「……………はぁ、」
「そいで〝どうすんのかなぁ~〟〝この機に勉強させてもらいますぞォ~〟って思いながら」「見てたらさぁ!」
「…………………」「…………………」
「ほんとに気付いてないジャン!」「気付かずにさぁーあ、物思いにふけったりしだすジャン!」
「………………はい、」「でしたね………………」
「びっくりしちゃってさぁ、」「どんだけ視野角狭いんだっていう」
「…………………」「…………………」
多分、その〝物思いにふけってる〟最中、
キモいこととか変なこととかは、してない筈。
思い出し笑いとか、変な身振りとかは、きっと……………
多分。
そう願いたい
「あとはさぁ、もう」「面白所作を見つけるしかないよね」
「え、面白」「所作……………?」
「っそう。」「引くに引けないから、こっちも」
「あ、あぁ…………」
「何とか撮れ高を作るためには、〝他人の部屋で一人で変なことをするたなかん〟を」「収めるしかないよね!?カメラに」
「…………………」「……………カメラ。」
「という名の!」「まじきの瞳に!」
「…………………」「……………はぁい、」
「そいたらさぁー、」「そいたらさぁーあ?」
〝ドン、ドン、〟と足を鳴らして歩み寄るまじちゃんに、一瞬体がびくりと強張る。
「そっから10分以上何にもないじゃん!」「たなかん!」
「い、いやだからそれはぁ、」
「地蔵か!!!!!?」
「………………えっ?」
「地蔵か!!!!!?そちは」
「………………いやいや、」
「本当に血の通うた、」「若い女子か!?」
「いやだからぁ、」
「もっと飛んだり跳ねたり色々するものでごじゃろう!?」「若い女子なら」
〝飛んだり跳ねたり〟はしないけど、〝玄関で靴を確認する作戦〟を思い付かずにあと追加で10分でもこの部屋にいたら、多分〝変なこと〟はしてた…………………してしまっていた。
多分ベッドにうつ伏せに寝転んで枕の臭いを嗅いでいた。
そして、
〝はぁ…………まじちゃん、〟とか言いながら
マットレスに体の前半分を擦り付けていた。
だから実は物凄く紙一重だったし、さっきからこの人の話を聞きながらずっと心臓が痛かった。
「だからしないって、普通」
「うん。何を?」
「他人の部屋に一人でいて人を待ってるだけの時に〝変なこと〟なんて」
「………………あそう?」
「うん…………」「お笑い強者と思ってもらってたのに申し訳ないけど」「しません、どんなお笑い強者でも。一人で他人の室内にいる時にそんな変なことは」
「………………あそう、」
「うん。」
「そう……………」「そう、なんだ……………」
「そうですよ」
「でも……………」「エッチなこと考えたよね?」
「えぇ…………」「………………えっ?」
「一回エッチなこと考えたでしょ?たなかん」
後頭部にじわり、と汗が滲み、
首筋の皮がピクピク、と痙攣するのを感じた。
「え、、、、、」「エッチな、、、、、?」
「そう。」「一回ベッドの方向いてさ、なんか」
「……………………」「……………………」
「その後なんか、上向いて天井見たり、下向いて項垂れたり、」
「……………………」「……………………」
「さらにちょっと頭を振ったりもしてたから、あれかな、と思って」
「……………………」「……………………」
「煩悩を振り払おうとしてるのかなー?って」
「……………………」「……………………」
「ね?」
「……………………」「……………………」
「……………………」「たなかん?」
「……………………」「……………………」
「……………………」「おーい…………?」
自慢じゃないけど、
僕は誘い受けだった。
誘い受け、
専門だった。
エッチな妄想をしてるとか性欲を波立たせているとかを(例えそれがまじちゃんやごじゃるであっても)他人に悟られるのが嫌過ぎる超えて無理過ぎて、
月25回ペースで重ねているそういう行為も、あくまで全て二人からの要望を受けて僕はそれに付き合っているだけ、という体だった。
僕にとって〝性欲を催す〟というのは、
おならやいびきなんかよりずっと恥ずかしいことだった。
「……………………」「……………………」
「………………どしたぁー?」「どしたどしたー?」
「……………………」「……………………」「あっ、」
「んー?」
「あっ、」「……………………」「あれ?まじちゃん…………笑」
「ん?」「たなかん…………?」
「あっ、あの」「す、」「すごいねぇ?今日、」「髪。」
「え…………?」「髪…………?」
「うん。あの、」「この背中から腰にかけてのボリューム感と、あの、」
「うん…………?」
「カールの仕方と言うか、」「癖の出方のバランスが、あの」「最高です、今日。」
「あ……………」「あそう?」「分かる?やっぱり」
「分かります。今日はもうコンディションが……………」「本当に、もう。」
「!」「そうなの!今日ね、特にセットが上手くいったの」
「あ、もうすごい分かる、」「この……………ねぇ?もうほんと。」「すぐ分かる。」
「ほんとぉ?」
「うん、いつも凄いけど今日はもうほんとに艶も凄いしハリがあってボリューム感も凄くて…………」「なんだこれ、凄いなぁ、ほんと」
「わぁ、嬉しい/////」
「髪ってなんだろう……………」「もう本当、才能ですよね、そこも一種の」
「あ……………!」「分かるかも、」
「ね?財産と言うか」
「そう、」「持って生まれた、ね?」
「そう、そうそう」「そこもやっぱり個人差があって、努力で埋められないものが…………」
「そうなの、それね、」「まじきも丁度この前考えてた」
「ほんとに?」
「そう。」「やっぱり肌とかも大事だけど、髪も綺麗な状態でたくさん生えてきてくれてるのって実は当たり前じゃなくて、本当にありがたいことなんだなぁ、って」
「あー、」「うんうん。」「恵まれてるというか」
「そう、ほんとに」「それにこれもやっぱり肌もだけど、髪も年齢と共に弱っていくものだから、大事にしなきゃなぁって。」
「年齢と共に?」
「そう……………」「なんか、」
「うん。」
「パ、」「パサパサして、」「ない…………?」
「え…………」「パサパサ…………?」
「うん、そう…………」「まじきの髪、特に先っちょの方なんだけど、なんか」
「うん……………」
「パサパサして、ない?最近……………」
「し、」「してないしてない!」「何言ってんの!」
「え……………」「ほんとう?」
「してないよ!もう、」「艶っ艶の!」「てらってら!」
「え、ほんとう?たなかん……………」
「うん、もう」「こんな綺麗な髪ないもん!」「もうさぁ、」
「…………………?」「うん、」
「内面の綺麗さが髪に表れてんだよね、」「心の奥の奥、」「心の底の方から…………」
「…………………ん?」「心の……………?」
「あ、なんでもない」「髪の毛一本一本の先の先まで、」「まじちゃんはいつも完璧!」
「えー、うれしい…………」「本当?たなかん」
「本当も何も!」「鏡を御覧じろ!」
「えー、うれしいなぁ…………」「沙汰泥氏よりも?」
「うん………………」「うん、何?」
「ちょ、ちょっと言い過ぎかな?」「敵わないか、さすがに。沙汰泥氏には。」「たはは…………」
「うん………………」「えへへ、」「………………えっ?」
「あの美髪には憧れちゃうよねぇ……………」「まじきも髪にはお金かけてる方だけど、あれにはちょっと敵わない……………」
「………………うん、うん………?」
「あれこそ才能だよ。」「〝髪の才能〟。」「もう本当、正にアジアンビューティーと言うか……………」「長っがい上に太っといの、なんか。一本一本が」
「う、うん」「うん、うん………………」
何の話だか全然分かんない。
「なんか、」「いい子だね、たなかんて」
「え、そ」「そう?」
「うん。」「今日綺麗だよ?たなかんも」「髪。」
「あ、本当?」
「うん。つやつやしてる」
「あ、これはね、ごじゃるが。」「何かしらの液体を塗り付けた上でドライヤーで、あの」「やってくれて」
「あ、そかそか。」「今日服もごじゃるだもんね?」
「う、うん…………」「そう。」
僕がお出かけする日の半分はごじゃるが服や髪や化粧の世話をしてくれるけど、残りの半分はまじちゃんが担当してくれていた。
ごじゃるに言わせると僕は〝ガーリーな方が似合う〟らしくて、ごじゃるが担当の日は僕はいつも丈の短い膝上スカートに少し派手めな配色の、露出もそれなりに多い女の子らしい服装になった。
まじちゃんは文化的なセンスの人なので、まじちゃんの日には黒やベージュやグレーが基調の、ロングコートを羽織ったようなパンツスタイルになった。
放っておくと上下黒のジャージにクロックスをつっかけ、レジ袋を片手に都心にでも赴こうとする僕を二人が慮ってくれてのことだったけど、この習慣を通して分かったのは〝ごじゃるはとにかくニーハイを履かせて絶対領域を作りたがる〟、そして〝まじちゃんは何が何でもキャスケットを被らせたがる〟という二人の服装的好み・癖だった。
「〝裏原系〟だね、いわゆる……………」
「あ、裏原…………」「系っていうんだ?こういうの」
「そう……………」「まじきには、よく分からない世界だけど、」
「うん」
「可愛いと思う…………」
「ほ、本当……………?」
「うん。たなかん地が可愛いし、若いから。今何でも似合うと思うよ」
「え……………?」「う、嬉しい……………」
「うんっ。」
「え、」「えへ…………//////」
「怖がらずに挑戦してみればいいよ、何系にでも」
「ま、」「まじちゃん……………」
まじちゃんは、優しい。
僕自身が諦めていた僕の女の子の部分をそっとつまみ上げて、
優しく褒めて目覚めさせてくれる。
〝美貌〟もそうだし〝意識の高さ〟もそうだけど、
何より僕はまじちゃんのこの〝下の者に対する優しさ〟に憧れてて、
常日頃本当に見習いたいと思ってる。
「……………………」「エッチなこと、」
「えへ、………………」「………………えっ?」
「考えてただろ…………?」
「……………………」「……………………」
「なぁ?」
「……………………」「……………………」
「考えてただろって。」「なぁ。」
「考えてません。」
「考えてただろ?」
「考えてません。」
「考えてただろ?」
「いえ、もう」「ほんとに」
「あれでしょ?」
「はい。」
「まじきに気付くのがもうちょっと遅かったら、」「そのスカートの中に手を入れてゴソゴソし始めてたでしょ?」
「!」「……………まじちゃん、」「何てことを……………」
「卑怯だよねぇー、たなかんて、なんか」
「………………え?」「ひ、卑怯…………?」
「〝自分はそういうの興味ありませんー、〟みたいな顔してさぁーあ?いっつも」
「……………………」「……………………」
「まじきに全部やらすじゃん、誘うとこから全体の進行から何から全部。」「全然動かないしさぁ……………」
「……………………」「……………………」
「こんなに毎日のようにしててこれが全部まじき主導だったらさ、」「まるで性欲モンスターじゃん、まじきが……………」
「……………………」「……………………」
〝下手だから動くな〟って
言われたんだこの前。
何ヵ月か前に。
僕だって一応誠意は見せようとしてるし
お返ししようとしたことはあるんだ、何回かは。
でも過剰に痛いか信じられないぐらい弱いかしかないからもういいよって、
言われたんだよ、あなたに。
…………………………………………
…………………………………………
…………………………………………あとごじゃるも。
見様見真似でしばらく触った後に〝うん。〟〝大丈夫、今後は全体的にごじゃるに任せておけばいいでごじゃるからな。〟って
多分大体、同じ主旨のことを。
だから僕は迷惑かけたくなくて自分から動くことを
やめたんだ。
まじちゃんが特にそう言うから。
自分から言ったことを忘れて何言ってんだこのバッ、
暴君。
…………………………こンのォ、
暴君めぇ~、、、、、、
「ほんとさぁ?ほんとたなかんてなんか、こう、」「ぶつぶつ…………」
「……………………」「いやほんとに、」
「?」「うん。」
「考えてません、」「えっちなことなんて…………」「と言うか、」
「うん…………?」
「何も考えてません。」「僕、石になるから」
「……………え?」「い、」「石…………?」
「そう、僕」「一人でいる時中身が完全に〝無〟になって、〝石〟になるんです。」
「い、」「石に…………?」
「はい。」
「…………………ふ、」「ふぅん…………?」
「だから何も考えません、一人でいる時には。」
「あそう?」
「はい。」「多分、まじちゃんが見たのはあれなんじゃないですかね。」
「うん…………?」
「筋肉の痙攣だと思います。」
「き、筋肉の。」
「そう。」「例えばなんですけど、」
「うん。」
「僕が今この部屋で死んでて、」「死体だとするじゃないですか」
「……………えぇ?」「うん……………」
「死体のたなかん。」
「………………え?」「し、したいの……………?」
「そう、死体のたなかん。」「それでも、絶対同じ動きしましたから。」「筋肉の痙攣だから。」
「……………………」「……………………」
「あと、あれですね。」「あの。」
「……………………」「………………うん、」
「宇宙のこととか、」「考えてました。」
「……………ん?」「さっき?」
「はい。」「上向いたり下向いたり、首振ったりしながら、〝あぁなんてちっぽけな存在なんだ、宇宙から見れば僕達は〟って」「思ってました」
「………………無で、石なのに?」
「ううん、なしなし。」「それなし。」
「……………………」「……………………」
「宇宙のこと考えてました、シンプルに」
「……………………」「……………………」
「まじちゃんも、たまには考えてみればいいですよ、宇宙のこと。」「考えた途端、都会の喧騒のど真ん中にいても、一瞬で静寂の彼方に─────」
「黙れ、この」
「はい。」
時計をちらりと見遣ると、もうあと10分足らずで12時になるところだった。
用があるのは確かなようだけど、どうやらそれは急ぎの用ではないようで、
まじちゃんも今日は特別忙しい日ではないみたいだった。
「もうさぁ、本当」「人生で一番つまらない15分だった……………」
「……………………」「……………………」
「まじき効率厨だし、一日の時間をなるべく無駄にしたくないタイプだからさぁ…………」「あんなに何にもない15分、苦痛で苦痛で……………」
「……………………」「……………………」
「あれだかんね?」「振り向くのがもう少し遅かったらいってたから。」
「…………………?」「え、何を…………?」
「後ろから、」「裸締め。」
「……………………」「…………………?」「は、裸………?」
「うん、そう。」「裸締めで、後ろからガッ、って」「もうほんと秒読み」「いついこうかと思ってたもん」
「……………………」「な、なあに?その」「ハダカジメ、っていうのは」
「え?」「裸締めっていうのは」
こうだよ、と言ってまじちゃんは僕の両肩を細長い指先でつまんでくるりと後ろを向かせ、左腕を僕の顎の下にするり、と滑り込ませてその手で自分の右腕を掴み、右の掌を僕の後頭部にあてがった。
「あ、ああ、なんか」「絞め技、みたいな」
「そうそう、」「単純だけど凄いんだよ?これ」
と言ってぐっ、ぐっ、とてこの原理で僕の喉にかかった左腕に力を加えていく。
「あっ!ぐ、」「お゛っ、……………」「がっ、」
「……………うん。」「凄いっしょー?」
「うっ、ぐ、」「うん……………」「しゅ、しゅごい……………」
「そうなの。」「こう…………」「こう!」
「あ、まじちゃん、」「あ゛っご、」「う゛っ、」
「あっはは、たなかん…………」「苦しい?笑」
ちょっと本当にゾッとするような、本当にヤバい感じの圧力が喉にかかっていることに、
まじちゃんが全く気が付いていない空気感を覚えたので取り敢えず足を踏ん張って上体を振り、
バタバタと抵抗してみた。
「…………………!」「…………………!!!」
「無駄無駄ァー、」「たなかん笑」「〝完全にキマった裸締めは逃げられない〟」「これだけは確かなコトなんですなァーっ笑」
〝楽しくなっちゃってる人〟特有の温度感で冗談半分にぐっぐ、ぐっぐ、と調子よく喉に圧力をかけてくる。
「あ゛っご、」「お゛ごっ!」
「うんうん、」「うん?」「どしたーーーー?」
「や゛、や゛め゛っ、」「まじっ、ぢゃ、」
「分かんないよたなかんーーーー笑」「何言ってるか分かんないぃーーーーーーー笑」
「ご、ごれっ!」「あ゛っ!」「ぢ、ぢぬ゛、」「や゛っぢゅ、」「あ゛っ!お゛っ!」
「えーーーーー?」「えへへへっへへへっへ、」「面白ーい、たなかーーーーんwwwwwwwwwwww」
まじちゃんはかなり体を鍛えていて、
一般の女性としてはびっくりするぐらい力が強い。
加えて、
身長がとても高い。
僕と比べると〝カップルの理想の身長差〟にさらに15cm足したぐらいの差があって、
こういう時本当に太刀打ち出来ない。
苦しさのあまり体全体で抵抗しようとすると軽くぴょん、と飛び上がって
上からずん、と頸椎に向けて体重をかけ、体勢を挫きにくる。
「あ゛っ!がっ!ごっ!」「や゛、や゛め゛、」「や゛め゛や゛ッめ゛、」「や゛ぁめ゛ぇで、」
「あっはっは、」「本当面白いたなかんー笑」「笑わせて止めさせる作戦?」
「ちが、本ッ当に、」「ぐぉっ…………………」
「あはっ、」「あはははっ…………?」「あははははは……………」「ウ゛ぉら゛ッ!」
まじちゃんには、
〝ブチギレスイッチ〟と〝暴力スイッチ〟があった。
〝ブチギレスイッチ〟は大抵こちら側が何か良くないことをした時か、もしかするとまじちゃん自身に何か嫌なことがあった時に八つ当たり的に発動するものだったけど、
〝暴力スイッチ〟はまじちゃんが自分でとった行動を起点にして、
そのまま流れで入っていくことが多かった。
例えば今みたいにじゃれ合っているうちに急に、とか
あとは
僕の服に付いていた埃を手でパンパン、と払ってくれている時にその音が〝バン…………〟〝バンバン…………!〟と大きくなってきて最後には拳でゴンゴン殴り出す、とか
そういう本人の何気ない行動が引き金になって発動することが多かった。
「あ゛っ、ぐぇ、」「……………ぎゅッ、」
「………………どう?たなかん。」「死ぬ…………?」「もう、」「死んでみる…………?」
「ぐぅっ、ぐ、」「ぐっう゛ぅぅうぅ……………」
「今ねぇ、たなかん、」「戸籍がね、ないの。運営が」「消しちゃったから…………」「頼んだんだぁ、まじきが…………」「消しといて、って」「ふふ、」
「あ゛ッ、」「がっは、ご、」「ぐはっ」「げっほ、げほ……………」
「だから、ね?今、」「〝ボキッ〟ってやってぇ、」「地下階の巨釜で焼いて、分解槽にインしとけば、」「完全犯罪、成立☆なんだな、」「これが……………」
「ぐほ、げぇーーーッほ、、、、」「がっ、ぐえ、がっァ、がぁ、」「がっ、」
「辛いことばかりの、人生だったでしょ?たなかん……………」「もうここいらで終わって、」「楽になって、」「みる…………?」
「かっ、かか、」「かッ!」「かはッ、」「……………かっ!かぁっ!」
「悪くないでしょ?まじきの……………」「一番好きな人の手にかかって死ねる、」「なら…………」
「…………………!!!」「…………………!!!」
〝ブチギレスイッチ〟は、
別にどうということはない。
下を向いてそれなりの相槌を打ちつつ(心の中で悪口も言いつつ)、
ただ時間が過ぎるのを待っていればいいだけのことだから。
〝暴力スイッチ〟は
対処しなければ死ぬやつだった。
丁度今みたいに…………………
〝ブチギレスイッチ〟や〝暴力スイッチ〟は、
ごじゃるに対して発動することももちろんあった。
でもそういう時ごじゃるが〝こらっ、まじきち!〟と言ってどやしつけると
まじちゃんは必ず〝ひぃっ、〟と言って止まった。
ごじゃるは若くて優しいけど、そういう胆力も持ち合わせていた。
僕にそれはなかった。
一度〝こりゃ!まぁじちゃん!笑〟と言ってみたけど
さらにエスカレートして、
本当に殺されかけただけだった。
「……………ほら、田中さーん…………?」「数を10から逆に、」「数えてくださァーい…………?」
「ふ、ゥ゛ーん………………」「ふ、う゛、う」「ウ゛ぅーん………………」「ぶぼっ、」
「眠くなってきますからねー?……………」
それでもまじちゃんと一緒にいるために、僕は僕なりにこの〝暴力スイッチ〟への対処法を編み出す必要があった。
ごじゃるみたいに胆力がない僕がこの悪魔的状況に対してとれる手段は
例えばこんな方法だった。
「……………………」「……………………ぺ、」「ぺれょぺれょ…………」
「はぁーい、もうすぐ全ての苦しみから解き放たれ」「来世へと続く光の道が………………」「………………んっ!?」
「ぺ、」「ぺれょ、ぺれょ……………」「ぺれょ、」「けちゃ、」
「は…………?」「えっ!?」
鉄の断頭台のように僕の首に深く食い込んでいた固く無機質な二本の腕が、
嘘のようにあっけなく、するりと解けて離れていった。
「は!」「はぁ゛ー…………、はぁ゛ー…………、はぁ゛、」「ぎっ、げ、」「げっほ、」「げぇぇぇぇっほ!!!!!!」
「……………………」「な、」「舐めた……………?」「今まじきの手、舐めた、の…………?」「たな、かん……………」
「げほっ、」「ヒュ゛ー……………」「ヒュ゛、」「ヒュ゛、ヒュ゛ー…………………」
「嘘…………」「なんで……………?」
まぁっずい………………
多分日焼け止めか
でなければ何かしらの美容液の味
「ヒィ゛ー………………」「ひ、ひ、」「ヒィ゛ー………………、ひ、」
「……………………」「……………………」
「げぇっほごほ!」「げっほげほ、」「ひっ、ひっ、」「ヒィ゛ー……………、、、、、、」「ぐるじ、」
「……………………」「………………ハァッ!!!!!!?」
まじちゃんの〝暴力スイッチ〟は、
それにより苦しんだり痛がったりしている時に一転、
急に甘えたような動作をとると解かれることが多かった。
例えばボコボコと殴られている時には(背の低さを活かして)正面から懐に飛び込んで腰にタックルをかまし、
そのまま困り顔を作って上目遣いに見上げるだとか、
髪をセットしてくれている最中に前髪を掴んでぐん、と引き上げられたら
〝ア゛ンッ……………///////〟
とエッチな声を出して、
だらりと脱力したまま無抵抗に身を任せてみるだとか。
そういう方向性の変調で、まじちゃんの〝暴力スイッチ〟は
解かれることが多かった。
「は、」「ハァ、」「ハァ………………」
「何…………?たなかん…………」「キんモ…………」「バカなの…………?」
「はぁー………………っ、」「はぁー………………っ、」
「どういう、」「発想……………?首、絞められて死にかけてる時に」「手、舐めてくるとか……………」
「ふぅ、」「はあ。」「あ゛ー……………………」
「ほんとバカ。」「キモすぎ、たなかん…………」
「はぁー………………」「はぁ……………」「ふぅ、、、、、、」
「ねぇ…………」「聞いてる?」「殺すよ?ほんとに。あんまり、キモいと……………」
「はぁー………………」「……………………」
「ねぇ…………」「バカ。」「ほんとバカ、たなかんて」
「……………………」「……………………」
「………………ふふっ、」「ばか、…………」「ばーか…………」
「……………………」「……………………」
「………………」「………………ね、」「おいで?」「こっち…………」
今僕を絞め殺そうとしたすらりとしていて細長い腕の中に、
吸い込まれるように戻っていく。
「……………………」「……………………」
「ふふっ、」「たなかん………………」
「……………………」「……………………」
「おはよ………………」
「……………………」「……………うん、おはよ」
「うんっ……………」「ふふっ、」
「……………………」「……………………」
「大変だったね?」「朝から…………」
言いながら乱れて顔にかかった僕の髪を
細長い指ですいすいと整えていく。
髪がよけられていくごとに
慈悲深く微笑みこちらを見下ろす女神のような顔があらわになった。
「…………………うん、」
「……………………」「……………可愛いね?今日も…………」
「…………………うん、」「ありがと…………」
「………………大好き。」「大好きだよ?」「今日も…………」
「……………………」「……………うん、」
「好き………………たなかん。」「大好きなの、本当。」「大好き……………」
「……………………」「……………………」
今日は始まりがちょっと大変な感じだったけど、
僕達今、超~熱々の
超絶ラブラブカップルです。
よく、〝付き合い始めてから3~6カ月ぐらいが一番熱い〟って
言うじゃないですか?
それです、正に。
しかも僕以上に、
まじちゃんの方が僕にぞっこん。
おみゃえらなんかじゃ見向きもされないような本物の超絶美女が、
この僕に…………………
ほとんど毎日、
それも向こうから誘ってきての
セッ〇ス三昧です。
すいません、本当
幸せ過ぎて。
でも、
浸らせていただきますね?
人生で初めて訪れた
春なので。
正直この話、
ここから先ずっと
ノロケ話です。
なので、
あの……………笑
もしアレだったら、
次話以降、
各自閲覧注意で
お願いしまァっす……………笑




