第10話 魔力回復と追手
ルナ曰く、一気にサルジニルグまで転移するには、膨大な魔力が必要で、少し体力、魔力回復の時間感を与えてほしい……らしい。
メイさんの見抜によって、ここはパミーフクスとオリエンルの国境付近の「パオミリ山」ということが判明した。
位置的にはパミーフクス。
「王家近衛監視隊」と「王家武力戦闘隊」の二つに隊が分かれおり、合計で数千人程度、恐らくこの山まで王家武力戦闘隊が来ているとのこと。
つまり、この山から出られないということだ。
どうしたものかと考えていると、ピーッ、ピッピッピッピッピとあからさまな機械音が流れてくる。
「まずいですね」
何がまずいのだろうか。
「これは|軍事用通信魔法《ミリタリーユースコミュニケーションマジック》の通信音です」
「つまり……」
「敵に勘付かれたということですね」
本当にまずい状況じゃねえか。
どうしよう♪あそれ、どうしよう♪
と、もう踊るしかねえ!状態になっていた俺の首筋がはたかれる。
クレイトだった。
こんな小さい奴に叩かれちゃった!
まあ、俺が取り乱していたし助かったけどね。
「いくぞ」
「わかった」
こいつが王子だったとしてもとてもじゃないが敬語は使えないな。
あ~ばよ。とっつぁ~んこんな山からはおさらばさせてもらうぜぇ~
と、逃げられないにも関わらず、そんなことを考えてフラグが立ったのか知らないが。
「みつけたぞ!あいつだ!王子を攫ったのは!」
みつかっちゃった。
「各自。撃てぇぇ!!!!!」
やばい、やばい、やばい、やばい、やばい。
パン!パン!パン!といった発砲音が絶え間なく聞こえる。
「アーッハッハッハッハ!いい気分だ!なあ兄上!いや、兄上なんて敬称、貴様には相応しくないな!」
そう高らかな笑い声が聞こえる。
見下すような内容。
「あの声……」
メイさんが憎そうにそういう。
「バルメントか……。」
クレイトが呟く。
見知った顔のように。
誰?
……まあ、兄上って言ってたしね、大体わかるけどね。
「ハッハッハッハ!死ね!無能力者が!息絶えろ!死ね!死ね!アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」
うーわっ。笑い方キッショ……。
何かよくない薬キめてるんじゃないの?
そうすると、なぜだか見ているだけで腹が立ってきて、殴りたくなる男が現れる。
おっ、俺の中の殺戮衝動があふれてきたのかっ……!
「何しに来た、バルメント」
クレイトは毒づいた声でそう言う。
「貴様を笑いものにしに来た」
バルメントはえらく楽しそうにそういう。
「それだけか?」
それとは対照的に、クレイトは冷静に聞き返す。
「そんなわけなかろう。貴様を殺しに来た!殺してやる!この手で!」
何言ってるんだこいつ。俺がそう思った刹那……。
「オラァッ!」
そのドスの利いた声とともに「ドッ」と鈍い音がなる。
気が付くとバルメントは吹っ飛ばされていた。
ほかでもない、メイさんの拳で。
「ぶちのめすぞ!このクソゴミ!これ以上口を開こうってんなら、無理やり、二度そのきったねえ口開けないようにしてやろうか?あ?」
え?あれメイさん?本当に?
怖すぎるんだけど?
え?
さっきまでの優しい面影がまったくない。
893かと勘違いするぐらいには怖いです。
一瞬チビるかと思いました。
……本当に怖いです。
「おい!クソゴミ!お前なんかと比べものにならないくらい、クレイト様は民のことを一番に考えているんだよ!無能力者ぁ?殺すぅ?ふざけんじゃねえ!無能力者だから何だってんだよ!お前の誇れるところが能力持ちってだけだから、そこだけで威張ってんだろ、情けねえ!」
メ、メイさん?
あの……口調が豹変してらっしゃるのですが……。
と、俺がメイさんのあまりの豹変ぶりに慄いていると、ルナが申し訳なさそうに、クレイトがすべてを見透かしたような顔をしている。
「おい、貴様ルナといったな。メイに酒を渡しただろ」
酒?ルナ、酒なんて持ってたっけな……。
「うん……。ごめんホニョ買った時におっちゃんに貰ったんだけど私お酒苦手だから……」
ああ、あのおっちゃんに貰ってたのか、あのおっちゃんなら渡しかねないしな。
「メイさんに聞いたらお酒好きだっていうから」
「あげた。のか」
「うん」
「メイは酒癖が悪いんだ」
クレイトが辟易としたようにそういう。
もうね、その説明ですべて察しがきくよ。
「ある時な、隣国との会談でメイが俺の側近として仕えていたんだが「その時にメイも一緒に」と隣国の王に進められて酒を飲んだが、態度が豹変し、王に向かってタメ口を利いた挙句、面と向かって喧嘩し始めて……」
大変だったんだな……。
クレイトの苦労が窺い知れる。
「それ以降メイには酒は飲ませていないんだが、メイは酒を気に入ってな。しかも、暴れている時の記憶がないのが余計に質が悪くてな」
俺がルナとクレイトの会話に聞き耳を立てていると、反対側ではまた「ドッ」という鈍い音が聞こえる。
どうやらバルメントがまた殴られたようだ。
「死ね!クソゴミ!」
本当に怖いです。
メイドって丁寧で物腰柔らかいイメージがあるのに、メイドって本当は
かわいい服を着たヤクザなのかなとか思ってきてるんだけど……。
メイドとヤクザの違いは?とか聞かれても「スーツかメイド服かの違い」としか答えらないかもしれない。俺。
「すみません。取り乱しました」
メイさんはそういい笑みを浮かべるが目が全く笑ってない。
それどころかエラガンスに「殺すぞ」という意味を孕んだ視線を投げる。
メイさん怖いです。
いやもう本当に。
「『万物操作』―――――」
メイさんがそう唱えると、小石が浮く。
「メイ。お前も能力者なのか!?」
バルメントは驚いたように言う。
「……」
が、メイさんは華麗にスルー。
そして、小石はバルメントの方へと飛んでいく。
「痛っ。メイ!クソがぁ!」
エラガンスは荒々しく叫ぶ。
するとどこからともなく「ガガガガガガ……」と、車輪の回る音が聞こえる。
馬車の音だ。
誰だ?こんな山奥まで馬車を走らせて来る奴。どれだけ歩きたくないんだよ……。
すると、煌びやかな修飾が施された馬車が現れる。
いや、重くないですかね。その馬車。
馬、大変だと思うんですけど……。
たったの三頭の馬にそんなことしたら、動物愛護団体に怒られちゃうよ。
まあ、この世界に動物愛護団体なんてないんだけどね。
そんなどうでもいいことを考えていると、馬車が俺たちの前で止まる。
馬車のドアが開き、中からは初老のおじさんが出てくる。
馬車同様、きらびやかな衣装に身を包んでおり、一目見ただけで「金持ってそうだな」と思うぐらいには、煌びやかで豪華な服だ。
そうすると、おじさんは一喝。
「クレイト、エラガンス!何をしているんだ!」
説教臭い、怒声が森に響く。




