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30. 阿佐美の昔話2

リコは、本当に変なヒューズだった。

ヒューズは本来、人間を見つけたら殺す。そうプログラミングされた殺戮兵器だ。

天才科学者――来栖雲雀。その男が作った、世界一迷惑な機械。

俺が生まれる少し前までは、ヒューズなんてものは存在しなかったらしい。地上を歩いても、いきなり殺されることのない世界だったという。今では、到底信じられない話だ。

だが、リコはヒューズなのに、人を襲わない。

料理は下手だし、よくこけるし、やたらよく笑う。ヒューズは容量が足りないから、感情を一つしか覚えられないはずだ。そんな話を昔、保護地区で聞いたことがある。でも、リコを見ていると、それがまるっきり嘘みたいに思える。

笑うし、怒るし、落ち込むし、時々泣く。人間より人間らしい。

……少なくとも、俺にはそう見えた。


あの日から、俺たちは各地を転々としながら生活していた。

リコはヒューズだから、避難地区には入れない。見つかれば即座に破壊される。

だから、情報収集は俺の担当。ヒューズを倒すのは、リコの担当だ。

リコは同じヒューズを容赦なく壊す。躊躇なんてない。壊したあとも、いつもと同じ顔で「ふぅ」とか言っている。歌唱用ヒューズなのに、人間よりよっぽど強い。

戦闘用のヒューズを相手にしても、普通に勝つ。だから結果的に、俺の護衛みたいになっていた。正直、普通の歌唱用ヒューズより絶対に強いと思う。


……比較できる個体はいないけど。


歌唱用ヒューズというのは、本来、人間側にとって害のない存在だ。戦闘プログラムが組み込まれていない。ただ歌うためだけに作られた機械人形。昔の世界では、歌ったり、イベントでパフォーマンスしたりするために存在していたらしい。

今でも保護地区には、ハッキングされた歌唱用ヒューズがいる。人間側に管理されて、歌を歌わされている。


……正直、見ていてあまりいい気分はしない。

リコはそれを見ると、いつも少しだけ悲しそうな顔をした。


気づけばリコに出会って、九年が経っていた。


俺は十五歳になった。


昔の世界で言えば、「高校生」くらいの年齢らしい。高校っていうのは、昔あった教育施設のことを指すんだとリコが教えてくれた。

どこでそんな知識を仕入れているのかは、いまだによく分からない。

でも、九年も一緒にいればそれなりに情は湧く。母さんがいなくなった寂しさは、とっくの昔にリコが埋めてくれていた。

ヒューズのリコと一緒にいるせいで、一つの拠点に長く留まることはできない。

でも、その代わりリコは狩りが得意だった。

野生化した動物も、時にはヒューズも、あっさり仕留めてくる。

だから、食糧に困ることはほとんどなかった。

……ヒューズ様々、ってやつだ。



ある日、俺たちの隠れ家に人間がやってきた。

よりにもよって、その日はリコが食糧調達に出ていた。洞窟の奥で火を起こしていた俺は、足音で気づいた。複数人。

振り返るより先に、入口から男たちがなだれ込んできた。


「お前――ヒューズを匿ってるんだってなぁ!?」


怒鳴り声が洞窟の壁に響く。


「ガキのくせに!! 何考えてんだ!!」


次の瞬間、長身の男の足が腹にめり込んだ。

息が一瞬で抜ける。

体が宙に浮いて、後ろへ吹き飛ばされた。背中が冷たいコンクリートの床に叩きつけられる。


「……っ」


息ができない。肺が空気を求めて痙攣する。

どうやら俺がヒューズと一緒にいることが、バレたらしい。

そりゃ怒るだろう。

ヒューズは人間の敵だ。殺すべき存在だ。

そんな奴と一緒に暮らしている俺は、どう見てもおかしい。

でも、

リコは、そんなヒューズじゃない。


「お前さぁ?」


長身の男がしゃがみ込み、俺の髪を乱暴に掴んだ。


「ガキだから、この世界のこと何も知らねーんじゃねぇのか?」


顔を無理やり上げられる。


「ヒューズが何したか知ってんだろ?」


男の目は、怒りで濁っていた。


「アイツらはな、人間を意味もなく殺して回る殺戮兵器なんだよ!!」


唾が飛ぶ。


「機関の奴らはハッキングやら何やらして再利用しようとしてるみてーだけどよ」


男は吐き捨てるように言った。


「そんないつ裏切るかわかんねー機械をそばに置くなんて――頭おかしいだろ!!」


ぐりっ。


さっき蹴られた腹の上に、もう一度足が乗せられる。

痛みが走る。


「っ……」


息が漏れる。

でも、声は出さなかった。

リコのことは、言わない。

絶対に。


その時、後ろにいたもう一人の男が前に出てきた。

こっちは少し背が低く、穏やかな顔をしていた。

そいつはしゃがみ込み、俺の目線に合わせる。


「ごめんねー」


やさしい声だった。


「リーダー、ヒューズ嫌いだからさ」


口調も柔らかい。

まるで本当に謝っているみたいだった。


「……ここに来たのは、そのヒューズを殺すためなんだよ」


俺は目を見開いた。


「だからね」


男は微笑む。


「君にも協力してもらおうと思って」


その瞬間だった。


男の手が、すっと動いた。

鉄パイプが振り上げられる。

そして――


ガンッ


鈍い音が洞窟に響いた。

頭に強烈な衝撃が走る。

視界が揺れる。

地面が傾く。

世界が、急に遠くなった。


そのまま俺の意識は暗闇に沈んだ。

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