4.連邦の陰謀と運命の始まり
翌朝、愛たちは宮殿内の広間に招集された。そこにはエリオットだけでなく、数人の重要そうな顔ぶれが揃っていた。その中には、昨日愛たちを案内したオルガの姿もあった。彼女の視線はどこか冷たく、特に愛に向けられる目は一層鋭かった。
「皆、集まってくれて感謝する。」
エリオットが声を上げると、部屋の緊張感が増した。彼は地図を広げ、ある一点を指差した。
「ここはヴァルディア連邦との国境付近、フェリーネ山脈だ。最近、この地域で連邦の動きが活発化しているという報告があった。」
愛はその説明を聞きながら、地図を見つめた。山脈周辺にはいくつもの小さな村が描かれていたが、そのほとんどが国境を挟んでエルドラヴィア側にあった。
「具体的には何が起きているのですか?」
克之が口を開くと、オルガが少し皮肉げな口調で答えた。
「どうやら、連邦側が資源採掘のために我が国の領土を侵害しているとのことです。しかも、ただの小競り合いではなく、組織的な動きが見られる。」
誠が眉をひそめた。
「資源採掘……これは単なる経済問題ではないですね。連邦側にとって、それは我々への挑発行為になる。」
「そうだ。」
エリオットが重々しくうなずいた。
「彼らは我々を挑発し、戦争の口実を作ろうとしている可能性がある。だが、我々はそれに乗るわけにはいかない。」
愛は地図をじっと見つめ、手元にメモを取り始めた。彼女の視線は鋭く、その手は迷いなく動いていた。その様子に、オルガは軽く目を細めたが、何も言わなかった。
「愛、何か気づいたことがあるのか?」
克之が尋ねると、愛は少し考え込んでから答えた。
「フェリーネ山脈は確かに国境だと明記されているけれど、具体的な線引きは曖昧みたいね。この曖昧さを利用して、連邦側は自分たちの領土だと主張しているんじゃない?」
エリオットはその意見に驚いたように愛を見つめた。
「確かに……その可能性は高い。だが、具体的にどう対応するべきか?」
愛は少しだけ微笑み、地図を指差した。
「まずは証拠を集めること。この山脈周辺の村や採掘現場に実際に赴き、どちらの領土かを明確にする証拠を探すべきよ。そして、もし相手が領土を侵害しているなら、それを国際的な場で追及できるだけの材料を手に入れる。」
エリオットはしばらく考え込んでから、彼女の提案にうなずいた。
「分かった。調査隊を編成する。その中に君たちも加わってもらおう。」
その言葉に、オルガが口を挟んだ。
「陛下、本気でこの『召喚された女神』に任せるおつもりですか? 彼女たちはこの国の事情も歴史も知らない、異世界の来訪者にすぎません。」
愛はその挑発的な言葉に何も反応せず、冷静に答えた。
「確かに私は異世界の人間よ。でも、その視点があるからこそ、既存の枠にとらわれない方法を見つけられると思う。それに、あなたたちだけで解決できていたなら、今ここでこの問題を議論していないでしょう?」
オルガは一瞬言葉を失ったが、すぐに冷笑を浮かべた。
「なるほど、女神様はお口が達者なようですね。」
エリオットはそのやり取りをじっと見守りながら、再び口を開いた。
「オルガ、彼女の力を試すのはそれからでも遅くない。今は協力してこの問題を解決することが先決だ。」
会議が終わり、愛たちは調査隊への同行を決めた。その背後で、エリオットの視線が愛に向けられていた。
(やはり彼女はただの召喚された女神という存在ではない。その鋭い洞察力と知識は、この国を救う鍵となるかもしれない。)
一方で、昨晩、ベランダで見せた愛の姿を思い出す。
あの時、彼女が見せたのは、篤志への心からの信頼だった。何も語っていなかったが、名を呼んだ時の込められた想いの深さは理解できた。
(昨夜の彼女は既にいない。というより、あの彼女の姿は誰も見ることが叶わないのであろう。それだけに、何故かもどかしく感じてしまうのだ…。)
出会ってまだ1日しか経っていないが、エリオットの心には彼女への想いが芽生えていた。それは、彼女が必要とする時に、自分が支えになりたいという純粋な想いだった。
一方、愛は心の中で篤志を想い返すことで、冷静に今の状況を見極める助けとなっていた。彼女は異世界から来た者であろうと、今の自分にできることを見極め、最善を尽くす決意を固めていた。
会議が終わり、愛たちはフェリーネ山脈へ向かう調査の準備を進めることになった。




