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3.王宮案内と初めての交錯

祭壇の儀式が終わると、エリオットは執事に小声で指示を出した。

「オルガを呼べ。この者たちに王宮を案内させる。」

執事が素早く退出した後、エリオットは再び愛たちを見つめた。その視線には、先ほどの王としての威厳だけでなく、彼女の存在そのものを探ろうとする興味が宿っていた。


愛はその視線に気づきつつも、特に表情を変えることなく克之と誠の方に目を向ける。

「私たち、どう動くべきかしらね。」

克之は腕を組み、低い声で答えた。

「まずは情報を集めるしかないだろう。この国の仕組みや文化を理解しないと、下手な行動はできない。」

誠も同意して頷く。

「それに、彼らが言っていた『女神』とかいう話も詳細を聞かないとね。単に崇められるだけならともかく、利用される可能性もある。」


その時、祭壇の扉が再び開き、背の高い女性が堂々とした足取りで入ってきた。黒と金の装飾が施された豪華なローブをまとい、その鋭い瞳が三人を見渡す。

「王が呼ばれたのは、貴方たちのためですか?」

彼女は愛たちを品定めするような目で見ながら、最後にエリオットに深く一礼した。

「オルガ・ミネルバ。参りました。」


エリオットは軽く頷き、愛たちに目を向けながら言葉を続けた。

「オルガはこの国の財務を任される大臣だ。彼女に王宮を案内させる。この国の事情を知る手助けになるだろう。」


オルガは表情ひとつ変えず、冷ややかに言った。

「もちろんです。ですが、まず確認させてください。この者たちは本当に『女神』なのですか?」

彼女の言葉に、愛は目を細め、口元に冷たい笑みを浮かべた。

「それは私たちにとっても疑問ね。むしろ、あなたたちがどれほど真剣にその言葉を信じているのか、確かめたいところよ。」


オルガはその挑発的な返答に一瞬目を見開いたが、すぐに笑みを浮かべた。

「なるほど。少なくとも口だけの女神ではなさそうですね。」

エリオットはそのやりとりを興味深げに見守りながら、静かに場を収めるように口を開いた。

「オルガ、案内を頼む。」


オルガは愛たちを連れて王宮の中を歩き始めた。広々とした廊下には、金細工が施された柱や壁画が並び、エルドラヴィアの歴史を物語っているようだった。


「この王宮は、エルドラヴィア建国から300年以上の歴史を持っています。」

オルガは事務的な口調で説明を続ける。

「ここで国政のすべてが決まり、国民の生活を支える仕組みが築かれてきたのです。」


愛は壁画の一つに目を留めた。王と女神が手を取り合い、国民に祝福を与える場面が描かれている。

「……これが、あなたたちの言う『女神』の役割ってこと?」

オルガは愛の質問に頷いた。

「そうです。女神は王と共にこの国を導く象徴。信仰の対象であり、同時に王国の繁栄を約束する存在です。」


愛は眉をひそめたが、特に何も言わず歩みを進めた。その一方で、エリオットはオルガの説明を黙って聞きながら、愛の反応を注意深く観察していた。

(彼女の目には迷いがない。普通ならこの状況に戸惑い、圧倒されるものだが……。それに、この王国の言葉を難なく理解し、話せる理由。ますます興味が湧く。)

エリオットの視線に気づいた愛は、一瞬だけ彼に目を向け、すぐにそらした。だが、その短い間に二人の間で無言の意志が交錯する。


「この王宮の全貌を知るには時間がかかります。」

オルガの声が二人の間の緊張感を断ち切った。

「ひとまず、王の執務室までご案内しましょう。これ以上は王自らの言葉で説明いただくべきでしょうから。」



愛は歩みを進めながら、ふと足を緩めた。そして後ろを歩く克之と誠に視線を送ると、わずかに顔を寄せ、フランス語でささやいた。

「恐らく……エリオットは日本語を理解しているわ。」

克之と誠は表情を崩さないまま、視線だけで彼女の言葉を受け取った。その反応を確認し、愛は続ける。

「だから、揚げ足を取られるリスクがある会話は、彼らが分からない言葉で進めたほうがいい。フランス語なら大丈夫でしょう。」

克之は短く頷き、誠も静かに了解を示した。3人は自然な振る舞いを保ちながら歩き続ける。その間も愛の目は状況を冷静に分析し、次の手を考えていた。


後方からその様子を見守るエリオットの目がさらに鋭さを増す。

(……ただの「召喚された女神」ではないな。この冷静さ、観察眼、そして言語能力。彼女の存在そのものが異質だ。)

エリオットは一度思考を止め、改めて愛の背中に視線を向けた。その艶やかな黒髪が歩くたびに揺れ、ほんのり茶色がかった瞳が考え込むように鋭く光る姿。そしてその知性溢れる雰囲気は、外見の美しさに勝るとも劣らないものだった。

(外見だけではない……。彼女の中には確かにこの世界を変える力がある。何より、私の言葉への微かな反応を見逃さず、すぐに対応策を取るその知性――これほどの能力を持つ者が、ただの「女神」に留まるはずがない。)


だが、それだけではなかった。次に愛が放ったフランス語の言葉――エリオットが理解できない流れるような響きに耳を傾けると、胸の奥がざわめくような感覚を覚えた。

(異なる言語さえ難なく操るとは。召喚される前、彼女はどのような世界で生きてきたのか?その背景こそが、彼女をさらに魅力的な存在にしている。)

彼はその新たな疑問と興味を胸に秘め、愛たちの背中を見つめながら小さく微笑む。


愛もまた前を向きながら内心を整理していた。

(この国が何を求めているのか、私たちがここでどう立ち回るべきなのか。それを解明するのが私たちの最初の仕事だわ。)


決意を胸に秘めた愛の背中を、エリオットは静かに追い続けた。

(この「召喚された女神」、いや愛という女性。彼女がこの国にもたらす未来――それを私自身で確かめる必要がある。)

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