第5話。猿田去吉(さるたさるきち)
悪魔
「ところで!君、猿田去吉君だね。
君は専業主婦を羨ましいと思っているだろ?』
猿田
『うっ、なんで僕の名前を!』
悪魔
『隠さなくてもいいよ、全部、全部、分かってるからね。
専業主婦という仕事はね、一種ベーシックインカムのようなものなんだよ。くだらなくて煩わしい社会生活を、就職しなくても食べていける、最低限の生活は保証されるんだ、旦那の稼ぎでね。
一方で男にベーシックインカムはないんだよ、一生ね。君がどんなに厭だと思っても、どんなに苦しい、どんなに眠っていたいと思っても、朝が来れば君は悪夢にうなされるように目覚め、死んだ魚の目をしながら満員電車に乗って吊革にぶら下がっているんだ。
そして来る日も来る日も必ず、会社に行かなければならんのだ。
君の最も軽蔑する人間とも大嫌いな人間とも1日、1週間、1ヶ月、1年、いや、何十年と作り笑いを浮かべながら過ごさなければならんのだ。ぷぷぷぷ。笑いがとまらん。
ぼくはそんな人間の姿を見ていておかしくてたまらないよ。笑いがとまらんのさ。あははは。人間の苦痛は悪魔にとって甘い蜜だからね、ゆかい、ゆかい。』
猿田去吉
『確かに僕は専業主婦的な生き方の方が自分には合ってるとは思ってはいるよ。でも男だしね。。。それは無理でしょうな。』
悪魔
『それと君。君は本当は髪を伸ばしたいと思っているね?うんうん、なんにも言わなくていいよ。分かってるから。確かに…君の顔立ちからすると短い髪よりも長い髪の方が君には似合うよ、君の魅力は長い髪の時こそ充分に発揮される。
男の子も学生の頃までは、髪を伸ばしてお洒落している子もいるけれど、就職活動に入ったり、社会人になると彼らはほとんどの人が羊の群れのように髪を短く刈りこまれてしまうね。
そして、若い女の子にこう言われるんだ。
『ダサい!』とね。ぷぷぷぷぷぷぷ。(笑)
今の君の短い髪は君の魅力を、君の人生の楽しさを半減させてしまっている。しかしだな、君は会社に行かなければならない!
社会人である君は会社のルールに従わなければ食べていけないから、不本意でも髪を短く刈り込んでいるってわけだ。」
悪魔はコホンと咳をしたあと、少し間を空けた。
猿田去吉
(なんだか、大変なことになってきたなぁ。)




