レファレンスNo.3 10 ~finale~
「今回はご苦労だったな、見習い」
葵ちゃんが帰った後、立川さんといっしょに閲覧室へ戻ってきたエノク君は、わたしを労うようにそう言った。
「別に苦労なんかしてないよ。結局キンタ君とアンちゃんはわたし達が何かしなくても帰れたわけだし、パーティのお手伝いだってわたしが好きでやったことだからね」
「フッ……。お前のそういうところは、ここで初めてレファレンスをやった時と全く変わらないな……」
肩をすくめながら、何やら小声で満足げにつぶやくエノク君。
本当に小さな声だったので「今なんて言ったの?」って聞き返してみると、エノク君は愉快そうに笑いながら「何でもない。気にするな」とだけ言うのだった。
「それはそうと、今回は何も失敗しなかったじゃないか。どうだ、見習い。初めて自分の力でレファレンスをやり遂げた感想は?」
「初めて……自分の力で……?」
エノク君の言葉に、思わずきょとんとしてしまう。
だって、わたしは今回のレファレンスでも、いつもと同じようにエノク君や立川さんに頼っていたのだから。『自分の力でやり遂げた』なんて言われても、実感が湧かないよ。
「ちょっと待って、エノク君。わたし、一人でやり遂げてなんかいないよ。わたし達が持ってきた古文書を読んでくれたのは、エノク君と立川さんだったじゃない」
パタパタと手を振りながら、エノク君の言葉に異を唱える。
そしたら今度は立川さんが、「いいえ、詩織さんは確かにやり遂げましたよ」と太鼓判を押してくれた。
おおう! まさかの援護射撃。そんな褒められても、わたし、何も出せませんが。
「いや、でも、立川さん――」
「一人でやり遂げるとは、自ら考え、数多ある手段からベストなものを選び出して結果への道をつけることです。必要な情報にたどり着くため、必要な人員を手配する。それは立派な一つの手段ですよ」
また否定の言葉を言いかけたわたしを押し止め、立川さんが勉強を教えてくれる時のような口調で語る。それに同調するように、エノク君が頷きながら言葉を重ねた。
「立川の言う通りだ。お前は自分にない能力を、仲間の手を借りるという手段で見事に補った。デューイの時のお前はそれができなかったが、今回は自然にオレ達の力を計算に入れることができたんだ。お前が一年間積み上げてきた努力の成果、確かに見せてもらったぞ」
満足そうに笑う上司一同。
ただまあ、正直なところ、褒めてもらってこそばゆいという感じばっかりで、何と言っていいものか……。理屈の上ではわかったけど、やっぱりまだ実感ないしね。
(……でも、もしかしたらそういうものなのかもしれないね)
誰かの助けになれるようにと努力して、その時にできる全力で利用者さんと向き合う。
その経験が積み重なって、知らず知らずのうちに自分にできることが増えていく。そうやって一歩一歩、一人前に近づいていくんだろう。
(なら今は、素直に自分が成長できたんだと受け止めておくべきなのかな)
自分の力に自信を持とう。今日のわたしは、昨日までのわたしよりもちょっとだけ前へ進めたんだと信じよう。
いつもわたしを見守ってくれる二人が、こうまで言ってくれたのだから――。
そうやってわたしが心の中で頷いた、その時だ。
「……とはいえ、まだまだ頼りないのも事実だからな。これに満足せず、できることを増やして、もっといろんな選択肢を持て。――お前の力を必要としてくる利用者は、これからもたくさん現れるのだからな。彼らのためにも、もっと上を目指せよ」
いつものいたずらっ子のような笑みで、エノク君が発破をかけてくる。
うん! やっぱりエノク君はこうでなくちゃ! ただ褒めて終わりなんて、このお子様館長らしくないからね。
「もちろん! 次は、崩し字だって自分の力で読んでやるんだから!」
「ふむ、その意気やよし! ――さて、それでは話もここまでだ。さっさと部屋を片付けてしまおう。いつ次の利用者がやってくるかわからないからな!」
パンパンと手を打ち、エノク君が後片付けを指示する。確かにいつまでも閲覧室をパーティ仕様にしていたら、次の利用者さんがびっくりしちゃうもんね。
見れば、立川さんがすでにテキパキと食器の片付けを始めていた。
パーティの主催者として、立川さんにだけ片付けをさせるわけにはいかない。わたしも早速片付けに取りかかろう――と思ったら、
「――ああ、そうだ。おい、見習い!」
急にエノク君に呼び止められてしまった。
あれ? 話は終わったものだと思っていたけど、まだ何か言い忘れたことでもあったのかな?
「何、エノク君」
「この間、お前に『役立たず』と言ってしまったことだがな……。あれはやはりできの悪過ぎる冗談だった。改めて謝る。――お前はまだまだ半人前の見習いだが、このラジエルライブラリを支える立派な司書の一人だ。これからも、よろしく頼むぞ」
エノク君からかけられた突然の言葉に、再びポカーンとしてしまうわたし。
エノク君、今なんて言った? 立派な司書? それって、つまり……。
「ほら、話は以上だ! お前もさっさと片付けに取りかかれ!」
「――うん! わたし、頑張るよ!」
パシンと背中を叩くエノク君へ、元気に返事をする。
わたしを認め、同じ道の先から導いてくれる人達がいる。わたしの必要とし、頼ってくれる人達がいる。
彼らと胸を張って向き合うために、わたしはさらなる一歩を踏み出すのだった――。




