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悪役王女の矜持  作者: ふう


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9/12

番外編 1 悪役王女の婚約者は過去を思い出す

もう一人の主人公ともいえるエリオット皇子の独白です。

数話完結予定です。



 「エリオット・ヘイズフォード!

そなたを(わたくし)の婚約者候補としての契約を破棄します!」


 このクロワルド王国の名門、王立エコールサンク学園での建国記念日の夜会で、黒い扇を俺に突きつけてそのひとは叫んだ。

 きつく巻いた赤い髪に少し吊り上がり気味のアメジストのような瞳、豪華なドレスを纏ったこの国で最も高貴で美しいマルグレーテ・ド・ラティエール王女だ。

 その後ろには俺と同じく国や家の威信をかけて送り出された三人の婚約者候補達がニヤニヤしながら立っている。

いや、いらない皇子のちょうどいい厄介払いとして放り出された俺とは違うか。

 まあそんな三人がどうせ目立っていた俺を蹴落とそうと王女にいろいろ悪口を吹き込んだんだろう。

 俺は王女に婚約者候補の破棄を考え直してくれるよう懇願するが冷ややかに却下された。

 そんな俺を庇うように飛び出して王女に反論し始めたのがリリーナ・ミュレー子爵令嬢だ。

 止めてくれ。これじゃ逆に余計に疑われてしまう。

王女の顔がますます険しくなり、とうとう俺にリリーナの婿に入れとか言われてしまった。


 まさかこんな事になるなんて…。

俺は後悔と絶望感で膝をつきそうになる。

確かにある目的を持ってリリーナに近づいたが誓って恋愛感情を持っていた訳じゃない。

彼女に仲の良い婚約者がいることも知っている。

その三人が主張していた事も実際には違うのだ。

全ては王女のためを思っての行動が裏目に出たのか。


「何もかも違いすぎる。前世とは…。」


俺の呟きは王女が去り再び賑わいを取り戻したホールの楽団の演奏にかき消された。



 俺は今、二度目の人生を生きている。

そのことに気がついたのは、俺が初めてこの経済大国であるクロワルド王国の唯一の後継者、マルグレーテ王女の婚約者候補として顔合わせをした時だった。

 俺と同い年の十二歳の王女は赤いフワフワの髪に吊り目がちのアメジストのような大きな紫の瞳を持つとても可愛い少女だった。

 皆から疎まれ平民以下の生活をしてきた偽物の皇子である俺とは天と地ほど違う、愛されてキラキラした本物のお姫様だった。

そんなお姫様と将来結婚出来るかも知れない。

今まで何の希望も持てなかった俺の人生で初めて持った望みだった。

マルグレーテ王女は俺にとって正しく天使か女神が目の前に降り立ったように感じた。

 そしてじっと俺を見つめる目と目が合った瞬間、何か激流のような知らない記憶が頭の中に流れ込んできて、どうにかその場は耐えたが俺はその夜から二日間熱を出して寝込んでしまった。

周りには旅の疲れだと思われていたが、王女も体調を崩したらしい。

 熱のせいで意識が混乱したのかとも思ったが、どう考えても説明がつかないそれは、実体験を伴った未来の記憶だった。

そんなことが本当にあるのだろうか。

まさかただのお伽話だと聞いていた話のはずた…。


 ほんのガキの頃、顔も覚えていない母が亡くなり他の側室から疎まれて、ブレイズランド帝国の後宮の倉庫の方がまだマシというボロボロの離宮でひっそりと暮らしていた時の話だ。

 あの頃は食事さえまともに無く、乳母のマイヤの息子のライリーと二人でよくこっそり後宮を抜け出して帝都の下町で食べ物を買う金を稼ぐために店の下働きの手伝いとか()()()()やっていた。

まぁ、子供のやることだから大した額にはならなかったが。

 その時、昔薬師をやっていたという婆さんと知り合い、その話によると、大昔、まだブレイズランド帝国なんてなかった時代、北東の湖や森林の広がる地に不思議な力を持つ一族が暮らしていたそうだ。

しかし長い歴史の中でその一族だけが持つ特別な不思議な力は恐れられ、魔女として迫害を受けその一族は滅んだという。

しかしその一族の技術は薬という形で今も僅かながら伝えられたものがあるということだった。

 街から帰り、何気なくマイヤにその話をすると、若い頃からずっと母の侍女をしてきたというマイヤは、母ユリアから似たような話を聞いたことがあるという。

母方の実家がその言い伝えの一族の末裔だという。


「その血を引く者が心から愛した者が危機に瀕した時、時を戻すほどの力を使えたとお聞きしたことがあります。

ただしその代償は自分の命だそうです。

ユリア様も坊ちゃまを愛しておられましたが、最後はもう何もかも分からなくなってしまわれて…。」


 遠い目で語った乳母の話を思い出し、まさかとは思ったがその時俺は確信した。

過去で一度俺は死んで二度目の人生を生きているのだと。

そして前世で俺の命を代償として、俺の愛した者に何かが起こり時が巻き戻ったのだと。


 この未来の記憶が本物なら俺は無事にエコールサンク学園に入学し、卒業後マルグレーテと婚約する。

 そして共に後継者教育を受けていた頃、この国の沿岸部にある伯爵領で輸入された肥料に付いていた新種の虫から蝗害が発生し、瞬く間に全土に拡散して深刻な飢饉となる。

 その混乱の中、俺の祖国では俺の父、と言っても俺のことも母のことも気にも留めなかったようなこれっぽっちも情などない父帝が死に次にもっといけ好かない長兄のリチャードが即位する。

 そんなブレイズランド帝国で伝染病が発生し、やがてこのクロワルド王国でも大流行となる。

元々飢饉で弱体化していたところに多くの死者を出し国も経済も大混乱になり、何とマルグレーテの父の国王も伝染病に罹ってしまう。

 ちょうどその時に祖国で伝染病の特効薬が開発され、すぐにマルグレーテは父のため輸入を打診するがあのリチャードが簡単に頷くはずがない。

散々交渉を長引かせ足元を見られて法外な金額をふっかけてきた。

マルグレーテが断るはずはなく、俺が新薬を受け取りに行くことになった。

 久々に戻った祖国だったが、顔を合わせた兄、リチャード新皇帝が俺にかけた言葉は早く結婚して王配となれという命令だけだった。

薬数本に城一つ買えるほどの金を要求しながら、まだそれ以上のものを狙っていると俺は確信する。

 その時のクロワルド王国は疲弊した状態だったが、元々は天然資源に恵まれ、気候も穏やかで農工業も発展している豊かな国で良港もある。

そんな美味しい国を手に入れるための俺は捨て駒なのだろう。

その時の俺は祖国をリチャードの出方を警戒する必要を感じだが、前世を思い出した今、あの時の考えがまだまだ甘かったと激しく後悔することになるのだ。

 そしてせっかく手に入れた特効薬も間に合わず国王が亡くなり、可哀想なマルグレーテは涙も乾かぬうちに王太女を飛び越して女王に即位する。

 本来ならここで俺たちは結婚式を挙げるはずだがマルグレーテの態度はなぜかよそよそしく煮え切らなかった。

あれほど望んで俺を婚約者にしたはずなのに理由は分からない。

残念だったがその時の国の状態では結婚式といっても大規模にはできなかったが。

 それでも俺はマルグレーテを一生懸命補佐し、城から出られないマルグレーテの代わりにこの国の現状を知るためよく王都に出かけていた。

 元々俺は祖国でも市井で生きる術を身につけたようなものだ。

そこにはあらゆる情報と城の内では分からない国の現状と知識があった。

俺はこの国を統べるマルグレーテの支えになれるよう少しでも力をつけたかった。

 そんな王都の下町で学園の同級生のリリーナ嬢に出会った。

彼女は学生の時から熱心に奉仕活動を続けていて、その時は炊き出しや治療院の手伝いを行い「下町の聖女」と呼ばれていた。

 彼女の婚約者が伝染病で亡くなっていて、何もできなかった自分のせめてもの罪滅ぼしだと彼女は言っていたが、祖国から拡大した病だけに俺は何となく罪悪感もあったのだ。


 そして俺は一度目の人生を閉じる日が来る。

その日、夜中に俺はただ一人の従者のライリーのノックの音で目を覚ました。

家の外で何か物音がすると。

そして大きな音と共に二つの悲鳴が上がった。

 祖国が用意したこのボロい家は簡単に賊の侵入を許し、唯一の使用人の老夫婦がやられたのだろう。

そして俺の寝室に乱入してきた黒ずくめの賊は四人。

多分プロの暗殺者だ。

 すぐに応戦するが俺たちでは歯が立たず、ライリーが俺を庇って斃れた。

あの賊が手にしている特徴的なダガーは祖国の暗部が使っているものだ。

と、いうことは…。

考える間もなく首と腹に激痛が走り俺は斃れる。


 薄れゆく意識の中で最後に浮かんだのはマルグレーテの顔だった。


(悪かった。俺がもっと上手くやっていれば…。)


 そうして俺は死んだ。

 






 

 


エリオット、ちょっとキャラ違うかも。



お読みいただきありがとうございます。

不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。

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