8 悪役王女は幸せを手に入れる
いよいよ完結
悪役王女の忙しいロードトゥウエディング
将来、処女王になるはずだった私の突然の結婚は国を大きく揺るがした。
国中で即位式と結婚式フィーバーが来た。
私の周りもとんでもなく忙しくなった。
まず、エリオットを迎えるためにかなりの金額の結納金をブレイズランド帝国へ送った。
と、いっても今のクロワルド王国は世界一のお金持ち国なのでまぁそれほどのことでもないが。
すぐさまエリオットの兄の皇帝陛下からは返礼のブレイズランド帝国産の大きなダイアモンドの原石とエリオットからは国宝級のエリオットの瞳の色によく似たサファイアのネックレスとピアスが届いた。
この結納金が少しでもブレイズランド帝国の復興に役立ったらと思う。
そして急ピッチで王宮の東棟を私達の新居にするために内装工事も始まった。
元々はお父様とお母様が新婚当初住んでいた王太子宮だったが、王となり本宮へ移ってからは使わなくなっていた棟だ。
私は始め結婚の予定がなかったのでそのまま本宮に住むつもりだったが、父母の強い希望で内装や家具も全て新しく入れ替えて引っ越しすることになった。
少し贅沢かとも思ったが、こうしてお金を使うことが国の経済を回すことになるらしい。
新しい王太女宮には私の執務室と隣に外務と軍事を任されることになったエリオットの執務室も作る予定だ。
それとともに急に決まった結婚式の準備も大急ぎで進んでいる。
まずは衣装で、私が前世でも着ることが叶わなかったウェディングドレスは、結婚祝いとして元婚約者候補のリュシアンの家、アンフォール公爵家から特産品である絹織物が献上されそれを使って作ることになった。
それに同じく元婚約者候補のハインリヒ王子の祖国、ファッションと芸術の盛んなレントル王国からも伝統工芸品のレース刺繍の美しいベールがお祝いに贈られてきた。
どちらも息子は婚約者にはなれなかったが、交友を示すことで実利を取るということか。
その他にもたくさんの貴族家から結婚祝いとしてその領の特産品であるワインや果物といった食品や、新種の花や家具や食器などの工芸品などが贈られてきた。
王都でも私達の結婚を祝してのお菓子や酒が発売されたり、二人の絵姿や記念のグッズが売り上げを伸ばしていると聞いた。
王太女の即位式だけの時には考えられなかった事態で、その贈られた物品を私達が使用したり食したりすることが益々宣伝となり経済効果が上がるということなので私も積極的に協力することにした。
また、貴族、庶民にも私達と同じように結婚するカップルが急増していて国中で何だかお祝いムードが高まっている。
そして、私達が結婚式後の新婚旅行先に選んだのは、一昨年新しくできた王都から少し離れた海沿いにあるリゾート地だった。
そう、何と前世で最初に蝗害で飢饉が起こったあの小さな伯爵領だ。
現世では、品種改良された麦が豊かに実り、その収益で風光明媚な海岸線を整備してホテルを建て、ロマンティックなリゾート地として人気のある場所となっていた。
私達がハネムーンに行くことで更に人気が上がりそうだ。
そして驚くことに、前世では伝染病が蔓延し、貴族で最初の犠牲者が出た国境近くのダルトン男爵領、あのリリーナの婚約者のレノンの家も今、山間の温泉を開発してスパリゾートをこの秋開業するという。
国内のみならず、友好国となったブレイズランド帝国の国内情勢も安定すると、そちらからの観光客も増えていくことだろう。
私もいつか視察を兼ねて行ってみたいと思う。
一人娘である私の、王族の結婚というのは経済効果だけでなく、国や民の心も明るくするものなのかもしれない。
私はちょっと今までの結婚しないと言った我儘を反省した。
そして今日、いよいよ私はエリオットと結婚式を挙げ、王太女として即位する。
空は晴れて日差しが降り注ぐ気持ちの良い朝、私は侍女達にもみくちゃにされながら磨き上げられ、髪を複雑に結いあげ、詐欺級のメイクを施され、そしてパールとダイアモンドが縫い付けられた白いウェディングドレスを着付されてエリオットから贈られたサファイアのネックレスをつけた。
前世から夢見た豪華な結婚式の開始を待ちながら、過去を思い出してからの6年間の思いが蘇る。
未来の悪夢に怯え声を殺して泣いた夜、震える足をドレスに隠し老獪な大臣達と渡り合った日々、そして心の痛みを悪役王女の仮面に隠してエリオットに婚約者候補の破棄を突きつけた夜会、あの時の自分にこんな幸せなハッピーエンドが待っていることを伝えてあげたいと切実に思った。
そんな時、ドアがノックされてエリオットが私を迎えにやってきた。
金の飾緒のついた儀礼服に首元には私が送った私の瞳の色の紫のアメジストのブローチをつけ、銀の長めの髪は一つにくくり、前髪を上げているので夜空のような紺色の瞳がよく見える。
あまりのかっこよさに眩しくて直視できない。
たぶん物理的に発光していると思う。
なのにエリオットは
「ああ、まるで咲き誇る美しい大輪の花のようだ。マルグレーテ。」
なんてキラキラした甘い笑顔で私を褒めるので、
「あっ、貴方も中々だと思うわ。」
って、緊張でものすごく残念な返事をしてしまった。
そして時間となり、聖歌隊による歌とパイプオルガンの響く荘厳な大聖堂の真ん中を二人で腕を組み進む。
両脇にはたくさんの招待客と、最前列には父王と母妃、反対側にはブレイズランド帝国のローランド皇帝陛下の姿も見える。
もうこの時点で心臓の音がドキドキと聞こえそうなぐらい煩くてもういっぱいいっぱいだ。
そして二人で祭壇の前まで進み、大神官が厳かに結婚の宣言を行う。
「聖なる誓いの下、マルグレーテ・ド・ラティエールとエリオット・ヘイズフォードの二人を夫婦と認め書き記す。
永久に神のご加護のあらんことを!」
そしてエリオットからはサファイアの嵌め込まれた銀の指輪を、私からはアメジストのお揃いの指輪をお互いの左手の薬指にはめて、エリオットは私のヴェールを上げて少し屈んでそっと口付けを落とした。
ああ、もう幸せとはこういうことか。
エリオットの美しいお顔のどアップに鼻血を吹きそうになったが、悪役王女の矜持でどうにか耐えた。
参列客の盛大な拍手と祝福の鐘の音を聞きながら、次に私達は大聖堂を出て、オープンの馬車に乗り込んだ。
これも即位式のみの時にはなかったオプションだ。
これから王都を回り、王宮へ向かい王太女の即位式に臨む。
四頭立ての白馬の引く馬車の前後には揃いのえんじ色の儀礼服を着た近衛騎士団が守っている。
その中に私の元婚約者候補だったジョルジュ辺境伯令息の姿があった。
領地に戻され一兵卒から扱かれていたのを私が呼び寄せた。
脳筋だけど忠誠心だけは本物だったから。
美しく飾りつけられた王都の沿道にはたくさんの市民が見物に押し寄せ私達に手を振っている。
歓喜の声に私達も手を振り返しながら、パレードは王都を一周してやがて王宮へと到着した。
王宮の大ホールには大臣を始め百官が並ぶ中、正面の一段高い場所に威厳を湛えた父、フィリップ国王より、ブレイズランド帝国から贈られたダイアモンドを嵌め込んだ王冠が王太女とその配偶者の将来の王配の証として授けられた。
私はその王冠の重みを噛み締める。
前世では父王が急死したため、何も分からず王太女を飛ばして戴冠式もなくそのまま女王になった。
今、私の隣にエリオットがいてくれることがこれほど心強いものだとは思わなかった。
そして即位式が終わって私は国民へのお披露目のため王宮の3階にあるバルコニーへと移動する。
長い廊下の突き当たりに光が漏れる大きなバルコニーへと続く窓が見える。
エスコートされながら二人で歩いているとエリオットがポツリと呟いた。
「この国は変わったね。」
「えっ?」
私はエリオットがまるで前世のことを知っているかのような言葉に一瞬ドキリとした。
「さあ、行こう。」
エリオットが私の手を取り開けた窓から外へと踏み出した。
「「ウワーッ!!!」」
と、歓声が湧き上がり、王宮前の広場にはクロワルド王国とブレイズランド帝国の小旗を手にした大観衆が皆笑顔で詰めかけていた。
さまざまな色の花びらが風に舞い、
「ご結婚おめでとうございます!」
「クロワルド王国万歳!」
といった声も聞こえる。
エリオットが私の耳元で囁く。
「見てごらん。君が変えた国だ。」
そう、かつて処刑台に上がった私に怨嗟の声をぶつけた野獣のような汚れた民衆の姿は無い。
「あぁ、やっと手に入れた。」
突然エリオットが私を抱きしめて頬にキスを落とした。
思わず真っ赤になって見上げた私に、エリオットはいたずらが成功したような甘いとびきりの笑顔を浮かべる。
一瞬エリオットの夜空のような紺色の瞳に昏い影が差したように見えたのは私の見間違いか?
「愛してるよマルグレーテ。前世から。」
私達の仲睦まじい様子を見た民衆が、キャーッと黄色い歓声を上げ、エリオットの最後の言葉はかき消された。
お読みいただきありがとうございました。
最後に評価等頂ければ嬉しいです。
一旦完結とさせていただきますが、お時間を頂いてエリオット視点の続編も書いてみたいと思っておりますのでブックマークをよろしくお願いいたします。




