6 悪役王女は悪夢を回避する
ミッションコンプリート!
季節は変わり、私はあと二ヶ月と少しで十八歳となり、王太女となる日が近づいてきた。
本来ならば王太女の即位式と同時に結婚式も行うのだが、誰とも婚約しなかった私は即位式のみだ。
お父様とお母様は私がエリオットを1番のお気に入りだと思っていたようで、婚約者候補から外したことを未だに不思議がっている。
まあ、エリオットのことは違う意味で気にかけていたけど…。
それならば残りの三人の婚約者候補のうちから誰か選べばいいのにと皆うるさい。
でも、あの三人、リュシアン公子、ハインリヒ王子、ジョルジュ辺境伯令息は笑えるぐらい前世と全く同じことをしでかして、結局私の周りから誰もいなくなったので、皆静かになった。
前世でも私はエリオットと結婚式を挙げないまま女王に即位したので、私も前世と変わってないのかもしれない。
それでも私の今もこの国も前世とは大きく変わった。
もう蝗害も伝染病も心配はない。
そして前世で私を蔑ろにし国を裏切った老獪な貴族達ももういない。
按察官達を使い、時間はかかったがスッキリキレイにお掃除した結果、今の会議には私を支持してくれる勤勉で優秀な貴族が大多数を占めている。
現在、王都の治安も前とは大違いだ。
下町の犯罪や病気の温床となっていたスラム街は解体して整備された新しい街ができ住民も入れ替わった。
前世で、飢えと貧困と犯罪と生活の不安を国への不満にすり替えて暴虐を尽くし、クロワルド王国の崩壊の原因の一つとなったかつての反乱勢力は現在、若者を中心に自警団という組織に名を変えて、王立騎士団に協力して自主的に王都の治安を守っている。
私もその活動に対して補助金を出して支援している。
そして私は低所得者でも利用できるよう、救護院を国営化し、平民でも無償で学べる学校と、職業訓練所を作り、そこで学んだ知識と技術を生かせるよう職業斡旋所も王都だけでなく各貴族の領地にも作った。
そうしてそこで学んだ質の良い労働者達はますます国の経済や農業を発展させ人々の生活を豊かにした。 前世のような街にあふれた貧困に喘ぐ平民や浮浪者や孤児や病人が、食べ物を求めて犯罪を犯し、善意の炊き出しや教会の救護施設に列を成し、リリーナ嬢が「下町の聖女」と崇められたかつての光景は見られなかった。
現世ではこのクロワルド王国は父、フィリップ王と母、イザベラ王妃がともに健在で仲睦まじく、そんな両親から溺愛されている私が次期後継者として皆の期待を一身に受け、この繁栄を支えるべく前世の記憶をフル動員してさまざまな恐ろしいイベントを回避してきた。
結婚できなかったことだけは残念だが、エリオットもどこかで無事にやってるだろうし、もちろんブレイズランド帝国との関係は良好で、戦争が起こる様子も内乱が起こる原因もない。
もう私はもう、前世のように捕らえられ、身も心もボロボロになって処刑される未来に怯えなくて良いのだ!
(よくやったわ私!!未来を変えたのよ!)
もちろん誰も褒めてはくれないけど、起こらなかった未来を思い一人安堵のため息をついた。
そうして私は新しい未来を歩み始めた。
毎日真面目に勉強と政務をこなしていた時、父からの執務室へ来るよう伝言を受けた。
行くとそこには立派な蝋印が押された封書があり、ブレイズランド帝国のローランド新皇帝から親書が届いたという。
一瞬、前世のブレイズランド帝国からの宣戦布告の書状を思い出し息を呑む。
しかし父王の様子は和やかで悪い知らせではないようだ。
促されて開いてみて、前世とのあまりの違いに驚く。
以前、ブレイズランド帝国で伝染病が流行した際にすぐさま依頼に応じわが国で開発された最新の治療薬と医師などを派遣したお礼と、感謝の意を込めて友好条約を結びたいとの申し出だった。
とんでもなく前世と変わってしまった帝国の態度に思わず遠い目をした。
でもこれはこれで私にとったら願ってもないことだ!
わが国はもちろん承諾し、工業や医療技術の協力協定、関税を下げるといった貿易推進、交換留学生などの文化的交流といった内容の友好条約を締結することが決まった。
そうして二週間後に開かれるわが国の建国祭にて条約を調印する運びとなり、ブレイズランド帝国から皇帝の代理の王族が使者として来訪する事になった。
その王族というのが先の帝国内で起こった政変の主導者といわれている者だ。
あの前世での私の因縁のリチャード皇太子を引きずり下ろして収監し、ローランド第二皇子を皇帝の座に就け、今は皇帝の右腕として荒れてしまった国内の平定に力を振るっている大変な切れ者だといわれている。
しかし暗殺などを恐れてか、その顔も素性も年齢も一切明らかにされていない。
私の優秀な按察官を使っても詳しくは分からなかった。
おそらく皇帝のたくさんいる兄弟か叔父や従兄弟といった近い血族の者か?
交誼を求めてわが国に来るのだから敵意は無いだろうが、前世のことを思うと用心に越したことはないだろう。
そしてとうとう本日、わがクロワルド王国は建国の日を迎えて王都は建国を祝うため華やかに飾り付けられ、街のあちらこちらにはわが国とブレイズランド帝国の国旗がはためいて歓迎ムードで賑わっていた。
そんな中、ブレイズランド帝国の「向かい合う一角獣」の紋章をつけた黒塗りの大きな馬車と護衛の騎兵隊が人々の歓声を浴び王宮に到着した。
王宮の正面玄関てお父様と並んで迎えた私は、馬車から堂々とした足取りで降りてきた人物を見て驚きで目を見張る。
肩下まである銀髪を一つに括り、ブレイズランド帝国軍の黒い軍服をまとった背の高い男性で、その顔の鼻より上は黒い仮面に覆われていた。
マスクの隙間から覗く夜空のような深い紺色の瞳と銀色の髪は確かにブレイズランド帝国の帝室、ヘイズフォード家に多く受け継がれる色だった。
その男性が真っ直ぐお父様と私の前まで進み、右手の拳を胸に当て頭を下げる軍隊式のお辞儀をして、落ち着いた声で挨拶をした。
「フィリップ・ド・ラティエール国王陛下、並びにマルグレーテ王女殿下、お目にかかれて光栄に存じます。
私はこの度ブレイズランド帝国皇帝ローランド・ヘイズフォードの代理として参りましたヘイズフォードと申します。
この度のこと心より御礼を申し上げます。」
「おお、ヘイズフォード公、よくぞ参られた。我がクロワルド王国はあなた様を歓迎致しますぞ。
さあ、どうぞこちらへ。」
仮面の下、男性の口元が美しく弧を描く。
向けられた仮面の奥の柔らかな紺色の瞳に、なぜか既視感と、微かな不安が私の心の中に小さな波紋を残した。
「おひとり様ですがなにか?
このわたくしに意見するなど100年早くってよっ。」
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