番外編 3 悪役王女の婚約者は戦う
エリオット、マルグレーテのため国をも変えてしまう。
ブレイズランド帝国の騎士爵の身分を持つライリーの従者の平民として素性を偽り祖国に入国した俺は、帝都内に密かに買ってあった屋敷へと戻った。
「まあ、坊ちゃま!急なお戻りで。
でもお元気そうで良かった。」
帝都の中心から少し離れた静かな場所にあり、裕福な商人か貴族が隠居所か愛人を住まわせるのにちょうどいい感じの洒落た造りのこの屋敷には、俺の乳母でライリーの母親のマイヤが管理を兼ねて住んでいた。
マイヤは騎士であった夫を亡くし、まだ小さかったライリーを連れて再び俺の母の元で乳母として働き始めたのだった。
俺の突然の帰国にも快く迎えてくれていそいそと世話をしてくれる。
ライリーにとっても久々の母親との対面だが、これから成すべきことを考えるとのんびりしていられないのが心苦しかった。
マルグレーテとの顔合わせで前世を思い出した十二歳だった俺は、未来のあの恐ろしい出来事を回避するために自分のできることを一生懸命考えた。
最初の転機は俺とマルグレーテが十七歳の時だから後5年後、まずは俺にとっては二度目になるが、王立学園に合格できるよう勉強を始めた。
マルグレーテが寄越してくれた家庭教師のお陰もあってマルグレーテに次ぐ好成績で入学した後、次に今後必要となる資金を作る事にした。
幸い前世の記憶と知識があるため、まず先物取引や株である程度の資金を作り、それを元手に潰れかけていた海運会社を買取り立て直して陸運業も手掛ける商会を作った。
今では幾つもの支店を持つ大会社となり、俺はオーナーとして表には出ずに他の者に経営を任せている。
そしてこの屋敷も買い、表向きはマルグレーテの婚約者候補として留学している隣国の力の無い皇子を装い、充分な資金を使いある計画を進めることにした。
運輸業というのは物を運ぶだけが商売じゃない。
どんな物品がどこへ運ばれていくのか。
その流れを見るだけでもいろいろな情報が読み取ることができる。
それらを集めて精査し必要とする者に情報を売る。
という裏稼業も始めたが、もちろん俺が関わっていることは秘密だ。
俺の商会が運ぶ物の中には武器や偽装されているが違法なものもあり、見つけ次第、情報を欲しがる者に売り、違法な物についてはこっそりそれらを取り締まる騎士団に通報したりもした。
マルグレーテが使っている按察官も実はお得意様だ。
今、特に目を光らせている商品は船で運ばれてくる肥料だ。
俺の前世の記憶によると、5ヶ月後、クロワルド王国の海沿いにある伯爵領で蝗害が発生する。
それでその伯爵領に一番近くて可能性のある港に目星をつけ、それより一、二ヶ月前に輸入される肥料の中から問題の害虫のついた物を見つけ出してマルグレーテが開設した検疫所に届け出る。
多分運ぶのは俺の商会の船だ。
だから積荷の肥料の検分を徹底するよう指示を出した。
これであの蝗害は防ぐことができるはずだ。
一方、俺の祖国のブレイズランド帝国では、父の皇帝が一年程前から病気で臥せっていて、公務は全て長兄で皇太子のリチャードが行っていた。
前世では今から半年程後の夏の終わりに亡くなっている。
父皇帝の死に関して俺は何の感情も持っていない。
むしろ母と俺が捨て置かれたこれまでの事に逆に恨みがあるぐらいだ。
問題はその後、このままリチャードが皇帝になることだ。
俺を暗殺し、マルグレーテを害して時が巻き戻るきっかけを作ったこの男を絶対に許さない。
せめて学園を卒業するまではクロワルド王国にいるつもりだったが、マルグレーテも動き始めている今、奴の脅威を少しでも早く取り除くため祖国に帰ってきたのだ。
元々、ブレイズランド帝国は広大な国土に天然資源も有する国だが、寒冷な気候のため耕地は少なく一部の貴族が富を独占している貧富の差の激しい厳しい国だ。
そんな歪んだ国のトップに残忍で狡猾なリチャードが就く。
そうなるとますます政治は腐敗し、奴隷と変わらない暮らしを虐げられている民は疲弊し、数年先は国としての存続も難しくなっていくことだろう。
それに昨年は冷夏で作物の収穫量が例年の半分以下となり、一部の貴族が他国より大量の穀物を密かに買い付けそれを倉庫に仕舞い込み、売り渋って高値を付け急激なインフレを引き起こしていることも商会を通じて知っている。
そんな状況を打開すべく、リチャードが大量の武器と軍事物資を輸入しようとしていて、他国に戦争を仕掛けようと準備をしているようだ。
南に位置し、豊かなクロワルド王国に攻め入るきっかけさえあればと狙っているに違いない。
ここまでのことを留学中に情報を掴んだのでこの先の計画も進めている。
ま、その行動をあの婚約者候補の三人に見られて誤解されたんだが。
そう、皇帝の死をきっかけに、この国にクーデターを起こすのだ。
そのため今の皇帝とリチャードに反感を持つ貴族を調べ始めた。
すると、一部の上位貴族を除くほとんどの貴族達が今の体制に不満を持っていることが分かった。
ただ、強力すぎる皇帝の権力に多くの者が息を潜め見ぬふりをしていた。
自分の家門に災いが及ばぬように。
民衆に至っては怨嗟の声しか聞こえてこなかったが、それに対抗する知識も金も無いのが実状だった。
そんな中、クーデターの旗印としたのが次兄で第二皇子のローランドだ。
ローランドの母は力のある侯爵家の娘だったが、第一皇子のリチャードの母親の実家の公爵家から目を付けられて毒殺され、実家も没落させられた。
まぁ、噂だが真実だろう。
それでもローランドは第二皇子だったため、第一皇子にもしもの事があった時のスペアとして、俺よりはマシな離宮で飼い殺しにされていた。
そんな事情のためか性格は控えめだが頭は悪くなく、何よりもまともだった。
だからローランドを次の皇帝にすると決めた。
ライリーは何なら俺が皇帝になるべきだと言うが、俺がこんな面倒くさい事を陰でやっているのは全てマルグレーテの為だ。
一国の女王に決まっている者を仮に皇帝になったとしても後宮に入れるわけにはいかない。
俺はマルグレーテ女王の王配になりたいのだ。
そのために留学中にライリーを使って、隠密にローランドの後ろ盾にするために没落させられた元侯爵家と、暗殺された第三皇子と母親の実家の辺境伯家と聖職者となり後宮を出た第四皇子と母親の実家の伯爵家や目ぼしい貴族達に繋ぎを付け、ローランドを説得し、有り余る資金を元に民衆の中にレジスタンスを組織した。
そして祖国に帰って来た俺は、身分と名を顔を隠し黒い仮面を付けて、ある王族の「エル」としてレジスタンスを直接率い反乱の狼煙を上げた。
まずは素人ばかりのレジスタンス軍の訓練も兼ねて、皇太子リチャードが外国より輸入した武器を運ぶ商隊を襲撃することにした。
もちろんこの商隊もその護衛も俺の商会の者達なので、怪我なく積荷だけを奪われるよう裏で手を回してあった。
荷運び料はもらい損ねたがそれぐらいは目じゃ無い。
次に奪った武器を手に、リチャードの母の実家の公爵家やリチャードに擦り寄っている悪徳貴族達が密かに溜め込んで私腹を肥やしている穀物倉庫を襲って市民に開放した。
今まで飢えや苦役に苦しんできた民衆の恨みが一気に膨れ上がる。
これに呼応して密かに声を掛けていた貴族達も立ち上がり、皇太子とその取り巻き達も無視出来る状態ではなくなり国は大混乱となった。
そんな混乱の中、とうとう皇帝が亡くなり俺は一気に畳み掛ける。
勝手知ったる後宮の裏から少数の精鋭で侵入してリチャードを捕らえたのだ。
そして第二皇子ローランドの名の下にリチャードを私利私欲に走り国を傾けた罪で拷問の後、最北の監獄に生涯幽閉として送り、新たにローランドを次の皇帝の座に就けた。
たっぷり二年の準備を要したが、たった三月でクーデターは成功した。
奴を葬った事でこれで俺とマルグレーテの死ぬ未来は無くなるはずだ。
取り敢えず一つ障害を取り除き、久しぶりにゆっくり眠れることに安堵のため息をついたのだった。
エリオットが思ったより仕事をしていてもう一話エリオット編続きます。
お読みいただきありがとうございます。
不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。




