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紅に燃ゆる〜千本桜異聞〜  作者: 吉野
第二幕〜伏見稲荷〜
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11/22

約束の鼓


弁慶は許されたけど、静御前の同行は最後まで認められなかった。



鎌倉方から逃れる旅の過酷さに加え、女連れの逃避行と揶揄される事も、あるいは恐れたのかもしれない。


そう、この逃避行の行く末を知っている私からしてみれば、破滅への旅なんだけど。


当の本人にしたら、汚名をすすぐため今は一旦逃れ、機会を見て弁明なり和睦なりをするつもりなんだろう。


だから危険な賭けだと思ってはいるけど、また返り咲く気満々な訳よね。



そんな名誉と存続をかけた旅に愛妾を伴うなんて、体面を重んじる武士には到底出来ない事なのかもしれない。



「九郎様、我が(つま)、私もお連れくださいませ、どうぞ!」


「我を夫だと、そう思うてくれるのなら、どうか聞き分けてくれ。

必ず戻ると約束するゆえ、待っておるのじゃ」


「九郎様!」



涙ながらの訴えも叶わず、泣き崩れる静御前。



「静、これを」


義経様が差し出したのは、初音の鼓。


「それを我と思い、戻るまで待っていてくれ」




…そりゃあ、疑いの元となった鼓だもんね。


鎌倉方の手に渡れば、どんな口実をつけられるかもわからない。

かと言って持ち歩けば、それはそれで反逆の象徴とみなされてしまう。


ならいっそ、信用のおける静御前に託した方が安全ってものよね。


なんて、うがった見方かしら?




泣いて縋る静御前と別れがたい様子ではあるものの、日が高くなる前に出発したい様子の義経様。


業を煮やした家臣の一人が、持っていた紐で鼓もろとも静御前を木に括り付けた。



って!

えぇ?ちょっとそれは乱暴すぎない⁉︎



「静、手荒な真似をしてすまぬ。

禅師殿、半刻ほど後に解いてやってくれ」



慌ただしく出発する義経一行。



もうね、ポカーンよ!

何この情緒もへったくれもない別れは。


静御前はまだ泣いてるし、禅師様に至ってはまだ呆然としているの。



——静御前ってば、こんな男のどこがいいんだろう。


とっても失礼ながら、そう…思っちゃったわよ。



***



括りつけた紐を解いてあげたいけど、すぐに解いては義経様の意思に反する。


かといってこのままでは、静御前があまりにも可哀想。



禅師様の中で葛藤している様子が見て取れたんだけど、とりあえず男の力で固く結ばれた紐を女の手で解くのは至難の技。


仕方がないから宿に刃物を借りに行こうと、禅師様に伝えその場を離れた。



宿で適当な理由をつけて小刀を借り、急いで戻ると何だか辺りが騒がしい。


慌てて物陰に隠れ、様子を伺う。

どうやら義経様を探しにきた討手が、ここを探し当てて来たようだった。


早朝の稲荷大社で、木に縛り付けられた若い女性。

怪しい事この上ないんだけど、せめて静御前とバレずに何とか言い逃れできたら。


その願いも虚しく


「こやつ、義経殿の想い者の白拍子じゃ」



あちゃー!

速攻バレちゃったよ。



見るからに下っ端っぽいのが、イヤな笑みを浮かべながら静御前に近づく。


手は出さないけど、代わりに言葉で嬲るように義経様の行方を訪ねる。



威圧、恫喝、揶揄、嘲笑。

嘘八百の見えすいた出まかせを並べ、義経様の行方を探ろうとする。


それに聞くに耐えないセクハラ発言。



ホント見ているだけでとても不愉快。


私が強かったら…力があったら、そんな事許しはしないのに。



でも刀を持つ男達に立ち向かえる程の力も度胸も…ないよ、悔しいけど。



手をこまねいているうちに、紐が断ち切られ鼓ごと静御前が捕まってしまった。


禅師様が男達に訴えるも、うるさそうに振り払われてしまう。



このままじゃ、静御前が鼓ごと連れていかれてしまう!




——誰か!

誰か助けて!



……いや、誰か、なんて居ない。


義経様でさえ、彼女を置いていったのに。




怖いけど…。

本当は行きたくないけど。

私なんかが行っても、何もできないかもしれないけど。


でも、姉妹のように接してくれた静御前を見捨てる事なんて…出来ない!



「待ちなさい!」


覚悟を決めて体当たりをするように、静御前の腕を掴んでいた男と静御前の間に身体を入れる。


その際、禅師様に目配せする事も忘れない。



「その者は偽者!本物の静は私です」


静御前を背に庇い、目の前の男を見据える。


…禅師様が、この隙に助けを呼びにいってくれる事を願いながら。



「何だ、この女」

「いや、しかし確かに顔は瓜二つ」


人相の悪い男達に囲まれ、足が竦む。



視界の隅で禅師様が駆け出すのが見えた。


——よし!助けを呼びに行ってくれた。

そう信じたい。



何とかしてこいつらを追い払わないと!

それが無理なら、せめて時間を稼がないと。


でも、だけど…どうすれば。



怖くて震えているのなんてバレバレなんでしょうけど。

せめてもと思い、相手を睨みつける。




「めんどくせぇ、二人まとめて連れていけ」


複数の男が私達に手を伸ばし、咄嗟に首をすくめた。




その時だった。



「待てぃ!

か弱き女子に男どもが寄ってたかって、何をしておる?」



現れたのは一人の男性。



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