Phase6-8:私は道を見つけるか、さもなければ道を作るであろう
イーオン、ウォルプタース。
「あちゃー、やっぱダメかー」
シイナは落胆した様子でスクリーンを眺める。アエラの艦隊は陣形を保ったままゆっくりと進軍を続け、ヴァレイが指揮を執る飛行戦艦アークに迫りつつあった。
「周りの戦闘機部隊も遠くで見てるだけだし、これはもうゲームセットだよね……」
「そうだな。ああいう乱戦になった時には、指揮系統がしっかりしているアエラの方が有利だ。例え一度陣形を乱され、戦力を削られても、すぐにまとまって体勢を立て直すことができる」
「見ればわかるよ……。これ、ウォルプタースまで攻めてきて私たちもやられちゃったら、賭けはどうなるの?」
「馬券は端末のデータやアイテムとして保存されるから、心配ない」
「それじゃ、やられる前にログアウトした方が良さそうだねー」
「いや、その必要はない」
「え?」
シイナがイッテツの顔を見ると、穏やかに笑っていた。
「お前の読みはいつも詰めが甘い。無意識に必要な情報はここまでと決めて、肝心なことを掴み損ねている。真実に達したかどうかを、もっと疑うべきだ」
「でもさっきゲームセットって……」
「確かにゲームセットだが、イーオンの勝ちだ」
緩衝地帯、飛行戦艦アーク艦橋。
「本当に、ハンスさんの言う通りになった……」
この事態に一番驚いていたのは、総司令官であるヴァレイ自身だった。
『俺だってここまで上手くいくとは予想してなかったぜ!』
楽しげな声が艦橋に響く。ハンスはアークの前方で、適度に牽制をしながらアエラの軍勢を誘導していた。
今回のショウタイムで、ハンスが初めて作戦の立案に参加することになった。ケイの紹介によるものだった。ハンスは戦時中、本物の戦闘機に乗る軍人だったため、こういった大規模な戦闘の作戦にも心得がある。
「恐れ入りました。もうそろそろですね」
『ああ! これだけ引きつければ、どんなにド下手糞でも当たるだろ!』
「うっ……。い、いや大丈夫だ。“リパルション・ブラスト”発射準備!」
ヴァレイは不安を拭うように、大きな声で命令を下した。直属の部下たちが動き始める。
「あいさー。リパルション・ブラスト、発射準備開始ー」
「ジェネレーター出力上昇中」
「砲門を開きます!」
乗組員の操作でアークの艦首が左右に開き、砲門が姿を現した。
「ここからはスピード勝負だ。敵に気付かれたらなにもかも無意味になる。空中、地上部隊に撤退命令!」
軍の通信機やガイドライン製のインカムによって即座に命令が伝わり、イーオンの軍勢が一斉に散開した。
「斥力波、収束開始」
「チャンバー内、圧力上昇中」
「ライフリングの回転を開始します」
着々と発射準備が進む中、
『おい小僧! いつまでやってるつもりだ!』
ハンスが通信回線を開き、艦橋に怒号が飛び込んできた。
「ハンスさん? どうしました?」
『ヤタガラスが言うことを聞かねえ! アエラのねーちゃんとまだやりあってる!』
「なんですって?」
話を聞いていた乗組員が即座にコンソールを操作し、スクリーンに上空のドローンからの映像が映し出される。アエラの空中要塞の正面で、一機の戦闘機と一人の竜騎士が戦っていた。どちらも凄まじい弾幕を回避しながら、お互いを狙って攻撃を続けている。
ヴァレイはインカムを操作し、ガイドラインのチャンネルに参加した。
「ケイ、どうした。撤退命令だ。そのままじゃ巻き込まれるぞ」
『緊急事態だ!』
聞こえてくるケイの声は鬼気迫っていた。ヴァレイは小声で訊ねる。
「なにがあったんです?」
『仕事用のアカウントが乗っ取られてる!』
「……そんな馬鹿な。軍事用のインターフェイスですよ? 乗っ取りなんて不可能です」
『じゃあなんで私のキャラクターが今動いてるんだよ!』
「と、とにかく今は撤退してください!」
『ダメだ! あいつだけは捕まえなきゃいけない! 最悪私ごと撃っていい! 通信終了!』
「あ、ちょっと! どういうことなんだ……」
「司令、間もなく指定ポイントです! 発射の指示を!」
手元のスクリーン上のマップで、青い輪と赤い光点が交わりつつあった。ヴァレイは咄嗟に、ヴォークリンデと通信を繋ぐ。
「ノックス!」
緩衝地帯、西方面。
「ちょっとケイ、どうしちゃったの! このままじゃ私たちまで巻き込まれる!」
ミヒロはヤタガラス後部座席のスクリーンで、ヴァレイと同じマップ情報を見ながら言った。旗艦サピエンティアはほぼ指定ポイントに到達しており、これ以上時間がかかれば作戦に気付かれかねない。
「悪いが俺と心中してくれ!」
「ええー! 打ち上げ出れないじゃん!」
「そんなもん明日またやってやる!」
「ふ、二人で?」
「ああ!」
「……わかった」
ケイはほとんど無意識に喋っていたが、ミヒロは怒っているのか照れているのか、曖昧な表情で頷いた。
ヤタガラスは弾幕を避けながら、時折ルシオラが放つ突風に機体を合わせて受け流し、追撃を狙う。
ケイはいわゆる、ゾーンに入っていた。極限まで集中力が高まっており、バッファーを用いた操作の限界に近い思考に達している。
一瞬が数秒にも感じられる感覚の中で、何度目かのチャンスがやってきた。ルシオラが弾幕の回避のために進路を制限され、一瞬動きが止まる。
「ここだ!」
ケイがスイッチを押し、ヤタガラスは粒子砲を放った。軌道は完全にルシオラを捉えていた。しかしルシオラは、グラウコスから飛び降りた。
「なっ!」
粒子砲はグラウコスに命中し、霊獣は粒子となって消えていく。それを見て、ケイは途端に我に返った。
「グラウコス……」
突然動きの鈍くなったヤタガラスに、アエラの艦隊が放つ弾幕が迫った。
「うおっ!」
「わっ!」
突如、全天周囲モニターの映像が急加速する。ヤタガラスはラインの乙女に抱かれ、戦線を離脱した。




