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Phase3-1:賽は投げられた

 イーオンの首都ウルブスの西南西、現実の単位でおよそ十五キロの場所。“ウォルプタース”という街があった。街としてオムニスに認められている地域ではあったが、実際のところ、それは賭場と言った方が正しかった。

 ネオンの輝く建物のほとんどはホテルで、すべてにカジノや雀荘、あるいはレース場が併設されている。そこでは仮想通貨ロスを使ったギャンブルが、昼夜を問わず行われていた。

 その数ある施設の中で最も人気なのが、“ロス・オブ・タイム”というホテル。実際にラスベガスでホテルを経営している企業が運営しており、著名人がプライベートなアカウントで訪れることもあるという。

 そのロス・オブ・タイムに併設されているカジノで、ブラックジャックに興じる者たちがいた。カードを引いて、合計値を二十一に近づけるという、カジノではお馴染みのシンプルなゲーム。二十一を超えるとバストとなり、賭け金はディーラーが回収する。

 最もレートの高いテーブルに四人が腰かけていた。すでにベットは終わっており、それぞれにカードが配られる。ディーラーのアップカードはクイーン。絵札はすべて十として扱い、エースのみ一か十一のどちらかの数字になる。

「ヒット」

 茶髪の若い男性はヒットを宣言。カードが配られ、合計が十八になったところでスタンド。

「……」

 無言で机をノックする老紳士に一枚のカードが配られ、合計は二十。手を振ってスタンドの意思表示をする。

「ヒットをお願いするわ」

 青のドレスを着た金髪の女性は、一度ヒットするも合計値が二十三となり、バスト。溜め息をついた。

「ダブルダウン」

 端に座る、無精髭を生やし、スーツを着崩した中年男性が宣言した。周囲で見守っていたギャラリーがどよめく。

 イッテツという名のこの男。現在の合計値は六。ダブルダウンは賭け金を倍にすることで、一枚だけカードを引けるという選択肢である。この場合、最大値の十一とカウントされるエースを引いたとしても、合計値は十七。ディーラーは十七以上になるまでカードを引くことが定められているので、ディーラーがバストしなければほぼ負け、良くても引き分けになる。ほとんど勝ち目の無い勝負だった。

 しかしイッテツは、掛け金である百万ロス分のチップをもう一枚、自分のベットサークルに置いた。百万ロスはこのテーブルの賭け金の上限だった。

 イッテツに配られたカードは七。合計値は十三。これでディーラーがバストしなければ負けが確定する。ディーラーは心なしか緊張した面持ちでカードを引いた。

 カードは四。合計値は十四。合計値が十七以上になるまで引かなければいけないため、ディーラーはもう一枚ドロー。カードはエース。一として扱い、合計値は十五。この時点で、ギャラリーのどよめきに悲鳴が混じる。ディーラーはもう六以下のカードしか引くことができない。

 半ば諦めたような表情で、ディーラーは追加の一枚を引いた。

「キング……バストです」

 ギャラリーのどよめきは歓声へと変わる。まぐれのダブルダウンなら誰も注目したりはしない。しかしイッテツは、今回も含め合計五回のダブルダウンをリミット額で決め、細かい勝ち負けを合わせて総額六百万ロスを手にしていた。

「どうなってる……カウンティングか?」

「いや、このカジノのドローカードはすべてランダムだ。カウンティングは不可能だよ」

「じゃあ一体どうやって……」

 ギャラリーの中で様々な憶測が飛び交う中、イッテツはコインをまとめ、席を立った。

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