オムニスに関する私見を含む調査報告書4
4.仮想通貨ロスについて
4―1.仮想通貨ロスの台頭
オムニス内で使用可能な仮想通貨であるロスは、前述の通りその価値を高め、現実へと進出する。当初は旧世代のオンラインゲームにも見受けられたリアルマネートレード(以下、「RMT」という)程度の規模であったが、二〇三六年を境にその価値は爆発的に上がることになる。
二〇三六年六月、農業協同組合がロスの支払いに対応した農畜産物の通信販売を開始する。“ゲームをして貯めた仮想通貨で食糧を買える”ということである。
これは日本の農畜産物の需要低下に対する苦肉の策であったが、農業協同組合の思いきった決断に後押しされて、一般企業はもちろん、民間の電力会社や水道会社等のインフラ、医療機関までもがロスによる支払いに対応していった。後を追うように交換所も生まれた。そして奇妙なことに、この流れは世界的に広まっていった。
これをきっかけに、それまでオンラインゲームに関心のなかった消費者たちが、簡単な小遣い稼ぎの気分でオムニスに押し寄せることになる。ゲームのクオリティの向上も相まって、この時点でのユーザー数は全世界で四千万人を超えていた。そして前述の仕様により、
・ユーザーの増加によるロス産出量の増加
・需要の増加によるロスの価値上昇
・接続端末の増加、記憶領域の増加、処理能力の向上により、ゲームのクオリティ向上
・さらなるユーザーの増加
という正のスパイラルが生まれることになる。当時オムニスを追っていくつかのVRMMORPGがサービスを開始したが、ユーザー数は到底オムニスには及ばなかった。サービス開始から十三年経った今、オムニスは全世界で二億人近くのユーザーにプレイされており、その市場規模は十一兆円を超える。これは小国の国家予算に匹敵する額である。
ロスの台頭は、人々が現実世界での生活を捨て、オムニスという仮想現実での生活を送るようになるきっかけとなってしまった。
4―2. オムニス内の国家
オムニスは二〇三四年のアップデートから、ユーザーが街を作ることができるシステムを実装している。街は小さいもので一千万ロス(現在のレートでロス/円 10.845)、大きいものでは数億ロスの費用がかかる。初期からプレイしているユーザーはゲーム内で稼いだロスを使って小さな街を作り、主にチームの本拠地として使用している。
ロスの支払いに対応した様々な企業はこれを利用して、オムニス内に街や国家を作り、通販の窓口として店舗を構えた。これによって、仮想現実内で気軽に買い物を行えるようになる。
最初にロスによる支払いに対応した群馬県の農業協同組合は、オムニス内に“ロクスソルス王国”を建国。国内に農作業に使う重機を遠隔操作できるコンテンツを用意し、簡単な仕事をオムニス内で提供し始める。現在ロクスソルス王国を運営する人物たちとの接触に成功しており、近日中に実地調査に向かう予定である。
このように、あたかもそれが実在する街や国家であるかのように、オムニス内で経済の循環が始まっている。
4―3.オムニスの誕生によって影響を受けた産業
オムニス内の経済活動が活発化する一方で、現実の産業は大きな打撃を受けることになる。まず最初に直接的な被害を被ったのは、外国為替市場だった。ロスの流通によって世界各国の貨幣価値は下がり続けている。貨幣がただの紙切れと化し、為替取引が完全に消滅するのは時間の問題だ。
この至上類を見ない異常事態は、ロスという通貨の優秀さから来ている。というのも、ロスの流通量のコントロールが絶妙なのである。これはスカイネットの処理能力を活かし、通貨の流通量に関する膨大な計算が行われていることによる。人間や従来のシステムの管理能力では歯が立たないというのが正直なところだった。
ロスの台頭と人類の生活のオムニスへの移行。これにより、現実に存在する様々な業種も打撃を受ける。
打撃を受けた業種として、観光業、服飾産業、建設業、不動産業、一部製造業などが挙げられる。戦時中、現実に存在するものがいかに頼りないものかを思い知った人々は、現実よりも頼りないが、復旧も容易いデータの存在価値を再考した。今、人々はオムニス内で観光を楽しみ、建物を建て、お洒落に気を使う。
一方で、勢いを増した業種も存在する。運送業、一部製造業(業種コード281-309)、情報通信業などの市場規模の拡大が顕著だ。特に運送業は、通信販売が主流になったことによって隆盛を極めることになる。国土交通省の調べによれば、現在日本国内の道路を走っている車のおよそ六割が運送業者だという。
こうした世の中の動きを、“人間の生活の進化のために必要なアポトーシスだ”と考える社会学者もいる。
しかし、この経済の大きな流動によって職を失い、崩壊した家庭や自殺者を、私は断じて、必要な犠牲だったとは思えない。




