〇〇しないと出られない部屋?②
「オーウェン氏、オーウェン氏ったら!! もう、もう、いいでござるよ」
リリアムの大きな言葉で我に返ったオーウェンは顔を真っ赤に染めたまま、急いで離れた。
「オーウェン氏? もしかして……風邪?」
リリアムは顔が真っ赤に染まっている理由に気づかなかい。何故なら、オタクの自分を抱きしめるなんて可哀想だな……ぐらいにしか考えていないのだ。
「ちっ、違う!!」
怒ったように叫び返された。オーウェンはただ、恥ずかしさから叫んだだけなのだが、リリアムはそのまま受け取ってしまった。
「オーウェン氏……ごめんなさいでござる」
そのため、彼に向かって目を伏せて悲しげな表情で謝った。
某の姉のせいで……本当に申し訳ない。
だが、その事に慌てたのはオーウェンの方だった。
「ちっ、違う!」
「?」
「おっ、俺は……怒ってはいない」
その言葉を聞いたリリアムは表情を明るくした。
「本当でござるか? オーウェン氏が嫌がってたら、どうしようと思っていたから良かったでござるよ!」
リリアムは彼の両手を掴んで微笑んだ。
「次のお題も一緒に頑張りましょうぞ!」
「あっ、ああ……」
オーウェンはリリアムと視線を合わせることができなかった。そして、離れたリリアムの後ろ姿を見ながら、オーウェンは自身の心臓を手で抑えていた。
「次のお題は…………」
声に出して読むつもりだったが、リリアムはそれに目に通した瞬間に固まった。
「どうした?」
いつまで経っても読み上げない彼を不思議に思ったオーウェンは近づいて、その紙に目を通した。
「なっ⁈」
そして、オーウェンも言葉を失った。
『キスしなさい』
とんでもないお題である。出られない部屋ではよく見た事があるお題だが、実際に自分がするのは別である。
「オッ、オーウェン氏……」
隣に立つ彼に視線を向けると、固まっていた。
「オッ、オーウェン氏〜? だっ、大丈夫でござるか〜?」
「…………はっ⁈ だっ、大丈夫だ! キッ、キスだろう?」
「あっ! オーウェン氏はイケメンでござるからキスの一つや二つした事があるのですな!」
さすがはイケメン! そんな事を思っていると、彼に頭を叩かれた。それも、無言でだ。
「なっ⁈ 急な暴力⁈」
リリアムが叫ぶが彼の耳には届かなかった。何故なら、オーウェンの心の中は荒れていたからだ。キスなどした事がない。それに、隣に立つ男、リリアムは見た目詐欺野郎な上、無自覚に人を煽ってくる。もし、このまま彼の口にキスをしてそのまま止まる事ができるのかどうかと自問自答を繰り返した。
だが、そんな彼の思いなど知らないリリアムは背伸びをして、彼の頬に口付けた。
「…………はっ?」
オーウェンはゆっくりと、感触があった頬に手をやった。そして、そのまま、リリアムに視線を向けると、悪戯が成功した子供のように笑った彼がいた。
「にしししし……。驚いたでござるか? いつまでも動かないオーウェン氏が悪いんでござるよ」
オーウェンはリリアムにゆっくりと手を伸ばした。
「オーウェン……氏? いたっ⁈ いたたたたたたた!! オーウェン氏⁈ えっ⁈ オーウェン氏ーー⁈」
オーウェンの手はリリアムの頭を掴んで力を入れた。
「こんな事は俺以外には絶対にするなよ」
その声色はとても低く、その上表情も真顔だった。リリアムはそんな彼に恐怖した。
「ヒッ⁈ しっ、しないでござるよ! そっ、某のようなオタクにされて喜ぶやつなんていないでござる!」
「絶対だからな……」
「しない! 絶対にしません!!」
そう言うと、彼は手を離してくれた。そして、それと同時に幻影魔法の効力は切れて、元の空き教室に戻った。
「リリアム・スロインド」
「はっ、はい!」
「俺は……剣の素振りをしてから帰る。先に寮へと戻れ」
そう言った彼の表情は見えないが、きっと怒っている。そう思ったリリアムは「頑張ってくだされ!」とだけ言うと、さっさと空き教室から出て行った。
そして、教室に残ったオーウェンはその場で膝をついた。
「はあーーーーー」
深いため息を吐いたオーウェンは耳まで真っ赤に染まっていた。
そんな彼らの様子をジッと見ていたヴィヴィアンは興奮していた。
「これよ! これ! さいっこう! 我が愚弟ながら、なんとも無自覚誘い受け!」
「ヴィヴィアン様が嬉しそうで何よりです」
ヴィヴィアンの隣で彼女の姿を見て嬉しそうに微笑んでいるのは友人であるリノザだった。リノザはヴィヴィアンとリリアムの幼馴染で二人の裏の顔を知っている。それに、彼女は魔法の天才とまで言われているのだ。だが、その魔法は彼女の興味を引くものにしか使われない。
「リノザのおかげよ!! ありがとう!!」
ヴィヴィアンはリノザの両手を掴んで微笑んだ。
「いえいえ……私も良いものが見えましたもの……」
二人の会話はオーウェンには聞こえていない。何故なら、二人の周りには防音魔法がかけられている上に、その周りにはさらに気配を消すための結界まで貼られていた。そのため、オーウェンは気づく事ができなかった。




