あいつは誰だ?
オーウェンは言葉を失っていた。何故なら、彼の中にあるリリアム・スロインドは見た目儚い美少年なのに中身は残念な男であるイメージだ。そして、騎士科に所属している理由もわからなかった。きっと、魔術科も普通科も駄目で最終的に公爵家の力を借りてここにいるのだと勝手なイメージで思っていたのだ。何故なら、見た目が華奢すぎて剣など持った方がないように見えたからだ。
「誰だ……あいつは?」
初めての剣術授業では力を見るために打ち合い訓練なのだが……オーウェンは目を見開いてリリアムを見ていた。それも、無意識に口からそんな言葉まで出てきた。何故なら、リリアムは無表情で木刀を振り、相手を圧倒していたのだから。いつもは可憐な天使のようなのだが、今は破壊を司った黒い羽根がまった堕天使のようだった。
「オーウェン様。何をおっしゃいます。リリアム様ですよ」
「そうです。リリアム様は入学試験で学年3位の実力を誇っています」
入学試験と言うのは入学する前に一度、勉強も実技のテストを行うのだ。そして、それを見てクラスを分けたりする。
「勉強だけじゃないのか?」
「いいえ。勉学と実技、両方の結果です」
「リリアム様は素晴らしいお方なのです」
その言葉にもう一度、視線をリリアムに向けた。しかし、打ち合いは終了していた。
「オーウェン君。次は君の番だよ」
タオルを手に持ち、近くに寄って来たリリアムにオーウェンの表情は信じられないものを見るような顔だった。
「本当に見た目詐欺野郎だな」
「ええ⁈ またしても、突然のディスり⁈」
そして、驚いているリリアムを無視して、オーウェンは木刀を手に取り打ち合いに向かった。
そんな彼をリリアムはジッと見つめた。
「剣術と見た目のビジュの良さが相まって、イケメンが増している」
彼の剣術は他を圧倒していた。力の強さもあるのだが、技術が凄いのだろう。見ていて目を奪われる。
「綺麗だな……」
無意識に出た言葉だった。しかし、言った瞬間に急いで口を閉じた。
某はマリーたん一筋! 他なんて見ないでござる。
首を横に振り、佇まいを直したリリアムをチラッとだけ見たオーウェン。
「変な事を考えてるんだよな」
「えっ?」
「悪い。考えが事をしていた」
「はあ? そんなんで、俺に勝てるとでも……」
別に自分を見て欲しいわけではないが、他を見ているリリアムに対して少しだけなんとも言えない気持ちになっているオーウェンはその気持ちを振り払うように剣を振るった。そのため、何人もオーウェンに挑んだが、全て倒してしまった。
「後は、リリアム様だけです! 我々の仇を取ってください」
クラスメイトに背中を押されて、オーウェンの前まで出てきてしまった。
普段は某とオーウェン氏を見て姫と騎士なんて言っているのに……。
そんな事を思いながらも、リリアムは木刀を手に取った。
「オーウェン氏……」
「リリアム・スロインド。例え、お前が俺を惑わす堕天使だろうと負けないからな」
「何て?」
「…………ごほんっ。何でもない。いつでもかかってきていいぞ」
構えたオーウェンを見ながら、リリアムは思った。
某の剣術って……オートモードになるでござるよな……。
リリアムは剣術をしだすと何も考えずに身体が勝手に動き始めるのだ。幼い頃はそんな事はなかったのだが、年を取る事に勝手に身体が動くようになっていった。その理由をリリアムはゲームのオートモードだと呼んでいる。何故なら、ゲーム原作のリリアムも見た目儚い美少年なのに、剣術の腕が強いと言うギャップがあるのだ。そのため、勝手に身体が動いてしまうのだと納得していた。
「オーウェン氏。手加減は無しですぞ」
「当たり前だ。さあ、こい!」
そして、二人は何度も打ち合った。結果は……。
「某が負けた……剣術で?」
まさかのリリアムが負けたのだ。そのショックから項垂れたリリアムにオーウェンは勝ち誇った笑みを向けた。
「すまない。学年3位の実力者だと知り本気になってしまった」
何だろう……何か……何か……悔しいでござる!!
リリアムはそんな彼の手を握り、にっこりと微笑んだ。それはもう、満面の笑みでだ。その表情を見た周りはまたしても心臓を抑えた。そして、それを真正面から受けたオーウェンも周りと同様だった。
「ぐっ……卑怯だぞ……」
「はっ? あっ、違う、違う……ごほんっ。オーウェン君」
「……何だ?」
「僕も次は絶対に負けません。絶対に。だから、また……手合わせしてくださいね」
「当たり前だ」
「ありがとうございました」
そんな彼らに周りは拍手を送った。
某のクラスは何と言うか……騎士科の筈なのに穏やかでござるな……。流石はマリーたんのクラスメイトになる予定だった皆さんでござるな。
リリアムはそんな事を思っていたが、クラスメイトの数人はオーウェンを睨みつけていた。その事にリリアムは全く気づかなかった。ただ、オーウェンだけはそんな彼らの存在に気づいていたが、別段特に気にすることではないと無視していた。




