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同室は……?

 ヴィヴィアン・スロインドは癖のある真っ赤な長い髪にリリアムと同じ色の瞳、髪色以外二人は双子なだけあってよく似ていた。そのため、二人が並んで歩くだけで皆が注目した。


「どうしたのよ。愚弟」


「……姉上……某はこれから、何を目標に生きていけばいいのか分からないでござるよ……」


 しかし、二人の会話は皆に聞こえていないようだ。それもその筈である。皆のイメージを壊さないように小声で話しているためだ。


「何よ? 愛しのマリーたんはどうした? 隣の席だったんだろう?」


「それが……」


 そして、ヴィヴィアンに隣の席がマリーの弟で、彼女は結婚しているという事を説明した。


「ヒロインも転生者のパターンだな。うん。それしかないな。愚弟よ、諦めろ……。時には諦める事も肝心だ」


 某の肩に手を置いて、同じ顔で微笑んだ。周りから見れば、新しい学園生活に緊張している弟を優しく励ましているように見える。だが、実際は違う。


「姉上……某はわかるでござるよ。面白がっているな?」


「何の事?」


 彼女の手を肩から外し、同じように微笑んだ。


「わかるでござるよ。姉上は某とマリーたんの弟がBL展開になる事を望んでいる事をな」


「あれ? バレていたか……愚弟。お前だけなんだ。私の腐った心を満たしてくれるのは……」


 彼女はそんな事を言っているが、この国で同性婚は認められている。主に、家の後継ではない事が重要になってくるが……。


「男同士の恋愛は自由な国でござるよ」


「馬鹿ね。愚弟。私の目の前で繰り広げられてくれないと。だからね……リリアム。私は貴方とマリーの弟を応援するわ」


「はあ?」


 思わず、顔を歪めたが、周りには見えななかった。何故なら、彼女によりその顔が見えないように場所を軽く入れ替えたからだ。


「リリアム、わかっているわね。私たちの裏はバレてはいけないのよ。皆のイメージを崩してはダメ」


「ぐっ」


「わかった?」


 姉の凄みある笑顔にはいと言う返事しか返す事ができなかった。そして、彼女と別れて寮へと向かうと、そこにいたのは……。


「オーウェン氏⁈」


 半裸のオーウェン・コーランがいた。


 ゲームの舞台である学園では主に貴族の子供と商家の子供が通う。そして、少数ではあるが平民でも入学できる。何故なら、この学園には騎士科、魔術科、普通科と分かれているからだ。リリアムは騎士科だ。それなのに、何故、ゲームではヒロインと隣の席で彼女が魔術科ではなく、騎士科なのか? 答えは簡単だ。ヒロインは光魔法が使えるが、男爵家は騎士科の家系なため、初めは騎士科からスタートした。二周目からは魔術科と普通科を選べるのだ。今考えると、曖昧なゲーム設定だなと思った。そして、この学園は皆平等を謳っているため、寮生活になるのだ。公爵家も例外ではない。


「何で、オーウェン氏がーー⁈」


 リリアムの叫び声に呆れた様子のオーウェンはタオルで頭を拭いていた。半裸なのはシャワーを浴びていたせいだった。


「とりあえず扉は閉めろ。それと、同室なんだから、俺がいるのは当たり前だろ」


 同室。某とマリーたんの弟が…………。


「何? あんたは嫌なわけ?」


 目の前に立たれて、上から見下ろされた。その瞳はマリーたんと少し似ているが、全くの別物だった。その証拠にその視線から逃れる事ができない。


「そっ……」


「そっ?」


「某にBL要素は不要であるーー!!」


 リリアムは大きな声で叫ぶと、呆気に取られた彼の隣の横を素早く通り抜けた。


「そのイケメン面が某に効くとおっ、思うなよ!」


「イケメン面って……」


「とっ、というか……某はオーウェン氏と同室で嬉しいでござるよ」


 顔を真っ赤に染めながら、小さな声で呟いた彼の姿はまるでこちらの事が好きなのでは? と勘違いさせるものだった。


「……お前は……もしかして……」


 そのため、オーウェンは勘違いしてしまった。目の前のリリアムはもしかしたら、自分の事を好きになったのではないかと……しかし、その考えはすぐに崩れる事になる。


「だっ、だって……オーウェン氏だと、某の本性を曝け出す事が出来るでござる。部屋の中まで表の顔は疲れるでござるからな」


 そう言うと、リリアムは屋敷から届いた荷物を片付け始めた。


「俺、お前が嫌いだわ」


 彼は素っ気なくそう言うと、ベッドに横になった。


「突然のディスリ⁈ 某、オーウェン氏に何かした⁈」


「…………」


「オーウェン氏⁈」


 そして、何を話しかけても反応してくれないオーウェンにリリアムは放っておく事にした。


「もう、いいでござるよ……」


 リリアムは部屋の中を推しのグッズで埋めていく。勿論、マリーたんのグッズだ。それも、リリアムが特注で作ったものだった。


 オーウェンは流石に無視は良くなかったと思い直して、起き上がった時に自身の姉のグッズを目にした。


「おい……」


 そして、リリアムに低い声で話しかけた。そんな彼に気づかないリリアムは鼻歌を歌いながら、さらに飾り付けていく。


「おい、ストーカー野郎」


 やっとその声に気づいたリリアムの手には特製のマリーたんぬいぐるみがあった。


「そのぬいぐるみ……俺の姉だよな?」


「そうでござる。良く出きてるであろう。特注であるでござるよ。細部までこだわりをだして……」


 しかし、最後まで説明する前にそのぬいぐるみをオーウェンに取られた。


「なっ⁈ マリーたん!! 某のマリーたんに何をするでござるか!!」


「それは俺のセリフだ。見た目詐欺野郎」


 見た目詐欺野郎⁈ …………その通りだ。


 そう思っていると、目の前でぬいぐるみが強く握られていく。そして、オーウェンの目も据わっていた。その姿にリリアムは只事ではないとやっと気づいた。


「自分の姉の姿を形どった人形や透明な板を飾られているのを見て何も思わないとでも思ったか?」


「透明な板? あっ! アクリルスタンドの事?」


「そんな事はどうでもいい。すぐに全て捨てろ。できないなら、俺が燃やしてやる」


「ええ⁈ それはおやめくだされ! この通りですから! それは、某の生きるために必要だったんです!」


「ああ?」


 低い声で凄まれるが、負けるわけにはいかないのだ。そのため、涙目になりながら、睨み返した。しかし、それに対して彼は深いため息を吐いた。


「ふぅーー」


 正直に言うと、オーウェンはリリアムの顔に弱かった。変な話し方をするが、真っ赤になりながら涙目で見上げる顔に心臓が大きく跳ねてしまったのだ。


「その顔に騙されるか……」


「まっ、待って、待って! 某の話を聞いてくだされ!」


「……何だ?」


 ぬいぐるみはギリギリと握りしめられるが、どうやら話は聞いてくれるようだ。


「そっ、某……幼い頃から病弱で……一目惚れのマッ、マリーたんに出会う事を目標に身体を鍛えて頑張って来たでござる。そのぬいぐるみは自分を励ますためのものでございます!」


 だから、返してと手を伸ばしたが、彼は渡してくれなかった。


「つまり、お前は……俺の姉に会うために病弱だった身体を鍛えた。そして、これは励ますために作ったと?」


 その言葉に何度も頷いた。リリアムはオーウェンがわかってくれたと思い、手を伸ばすがやはり、渡してくれない。


「今は健康なんだな?」


「そっ、そうでござるな」


「そうか……お前の事情はわかった」


「オーウェン氏……」


「なら……これは必要ないな」


 オーウェンはぬいぐるみの他にアクリルスタンドも手に取っていく。


「オッ、オーウェン氏?」


「健康なお前にマリーのこれは必要ないと判断した」


「ええ⁈ 待って、待ってくだされ!!」


「知らない奴に人形を作られるなんて嫌に決まってんだろ。それに、マリーは結婚している。ダンも自分の嫁の人形を持つ男は嫌だろうよ」


 正論にリリアムは膝から崩れ落ちた。


 確かに……そう言われると、某の行動は気持ち悪いな……。と言うか、マリーたんの旦那様の名前、ダンって言うんだ……新たな事実を知り泣き崩れてしまった。


「…………おい」


 そんなリリアムの目の前にオーウェンはしゃがみ込んだ。


「…………捨てはしないが、二度と取り出すな。家に送り返せ」


 そして、袋に纏められたグッズを返された。


「オッ、オーウェン氏……」


「仕方がなくだからな……」


「ぬいぐるみは置いたままでいい?」


 その言葉にオーウェンはにっこりと笑った。その姿にリリアムは許して貰えたのだと勘違いした。


「…………よし、全部送り返せ。今すぐに!」


 だが、すぐにオーウェンは表情を変えてリリアムを睨みつけると大きな声で叫んだのだった。

 そして、リリアムは泣く泣くマリーたんのグッズを屋敷へと送り返したのだった。

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