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オーウェンの困惑

 オーウェンは困惑していた。


「マッ、マリーたんが……男?」

「そんな……マリーたんが男の子だったなんて……」


 安静のために一週間学園を休んだリリアムのお見舞いのためにスロインド公爵家を訪れた彼は応接間に通された後に現れた二人が自分を見て驚いていたからだ。それも、自身の姉の名を呼びながらだ。


「あの……」


 そのため、困惑しながらも声をかけた。すると、二人は慌てて頭を下げた。


「すまない。弟の良い人が来たとヴィヴィアンが言うので……」


 弟、つまり彼はリリアムの兄であると言う事だ。確かにヴィヴィアンの髪色と瞳の色は一緒だ。ただ、彼は姉弟とは顔はあまり似ていない。リリアム達は可愛いだが、目の前の彼は綺麗だと思わせるほど整っている。


「私もごめんなさい。コーラン男爵家が来たと家令が言っていたから、てっきり……」


 そして、もう一人の女性は彼とは違い二人にそっくりである。髪と瞳の色は違えど、リリアムとヴィヴィアンが歳を取るとこうなるのだろうなと思わせる。


「「私達は『マリーたん』が来たんだと思ったんです」」


 だが、二人ともコーラン男爵家=マリーたんという認識にオーウェンは頭を抱えそうになった。


「マリーは俺の姉です」


「お姉さんだったんですね」


 二人は納得したように顔を見合わせて笑っていた。そして、すぐにオーウェンに謝罪した。


「すみません。ご挨拶もまだだったのに……改めまして、私はリリアムの兄であるレオン・スロインドです。よろしくお願いします」


「私もごめんなさい。不躾な視線を浴びせてしまったわ……」


 目元を下げて、申し訳ないと頭を下げた彼女にオーウェンは慌てた。


「俺は大丈夫です」


 リリアムで慣れてます。と言いそうになったが飲み込んだ。


「ありがとう。これからも、息子と仲良くしてね」


 そう言って微笑んだ彼女にオーウェンは目を合わせることができなかった。彼女の笑い方がリリアムにそっくりでいたたまれなくなったのだ。


 そして、二人と別れたオーウェンはこの屋敷の使用人によりリリアムの部屋まで案内された。


「リリアム様のお部屋はこちらになります」


 メイドが扉をノックすると、すぐに返事が返ってきた。そして、オーウェンがお見舞いに来たと伝えると、嬉しそうに「入って!」と声が帰ってきた。


 だが、オーウェンはリリアムの部屋に入った瞬間に言葉を失った。


「オーウェン氏ー! 久しぶりでござるな! まさか、お見舞いに来てくれるとは……某、感激でござるよ……」


 嬉しそうに話すリリアムはオーウェンの登場に上機嫌だ。


「リリアム・スロインド」


 だが、オーウェンはそんなリリアムに対して低い声で名前を呼んだ。


「オッ、オーウェン氏〜? どっ、どうしたでござるか〜? 某の家で嫌なことでもありましたか〜?」


 どう見ても彼の様子がおかしい事に気がついたリリアムは彼の様子を伺うように声をかけた。だが、それに彼は微笑んだ。ただし、その瞳は一切笑っていない。


「リリアム・スロインド。聞きたいことがある」


「なっ、何でござるか?」


「あれは……何だ?」


 オーウェンは部屋の片隅に沢山置かれた物を指差した。この部屋では異様な存在感を放っている。


「ああ! あれは、マリーたんの祭壇でござるよ! アクスタからぬいぐるみ、さらには絵姿までありますぞ」


 嬉しそうに語るリリアムにオーウェンはさらに問いかけた。


「お前の枕元に並んでいる物は?」


「マリーたんの学生服、騎士服、ロープバージョンぬいぐるみでござるよ! どれも、某の手作りの服を着ております! 流石はオーウェン氏。お目が高いでござるな!」


 饒舌に話すリリアムは気づかなかった。オーウェンが氷のような冷ややかな瞳をしている事に。


「リリアム・スロインド。いや、変態見た目詐欺野郎」


「んな⁈ まさかのお見舞いに来てのディスり⁈」


「良く、あれだけの物を用意できたな……」


「ふふふっ……某は公爵家の子息ですぞ? まあ、公爵家じゃなくても推しグッズは作ったと思いますがな……」


「…………俺の姉に申し訳ないとかないのか?」


 その冷ややかな声にリリアムは身体を硬くした。


「いや……マリーたんは優しいから、許してくれるのでは……?」


「なら、今度聞いてみようじゃないか?」


「…………えっ⁈」


「今度、俺の家に行こう」


「いっ、良いんでござるか⁈ 某がマリーたんに会っても⁈」


 興奮してベッドから起きあがろうとするリリアムをオーウェンが制した。


「ああ。そして、お前がマリーを模したグッズというのを作って部屋に大量に飾っていることも報告しよう」


 その言葉でリリアムは動きを止めた。


「そっ、それは……」


 リリアムは想像した。勝手に大量のグッズを作っている事を知られた瞬間にマリーに嫌われる事を。


「…………やめて欲しいでござる……」


 耳をすまなさなければ聞き取れないほどの小さな声でつぶやいた言葉にオーウェンはため息をついた。


「なら……もう、グッズを作ることはやめるんだな」


「そっ、そんな……」


「捨てろとは言っていない。ただ、作るのをやめろと言っているだけだ。難しい事ではないだろ」


「んぐっ……某の楽しみを……」


 そして、オーウェンは気になる事を聞いてみた。


「お前のその趣味を家族は認めてるのか?」


 先程の彼らの様子を思い出した。『マリーたん』二人は当たり前のように言っていた。


「そうでござるな……始めは驚いていましたが、実在する人物な上にマリーたんによって、某の身体は丈夫になっていきましたので。この屋敷では『マリーたん』を崇拝しております」


 新たな事実にオーウェンは痛む頭を抑えた。屋敷全体に『マリーたん』が通用する事実。しかも、崇拝しているなど、どう受け止めれば良いのだろうか?


「まあ……優しい家族なんでござるよ」


 穏やかな声色で話すリリアムにオーウェンは後で考えようと思考を切り替えた。


「仲が良いんだな」


 その言葉にリリアムは嬉しそうに笑った。真正面から受けた笑みにオーウェンは心臓を抑えた。


「だっ、大丈夫でござるか〜?」


「だっ、大丈夫だ。心臓がギュインとなっただけだ」


「それは大丈夫なんでござるか⁈」


「よくなるんだ。気にするな」


「いや、病院に行きなされよ!」


「気にするな」


「いや、気にするし⁈ オーウェン氏に何かあったら、某、泣きますぞ! 某の大事な大事な人であるのだから!」


 マリーたんの弟で某の唯一の友達でござるからな。


「…………っ」


「オーウェン氏⁈ 本当に大丈夫? 顔が真っ赤でござるよ?」


 オーウェンはリリアムの顔を見ることができなかった。そして、彼の心臓は痛いほど跳ねていた。

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