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責任はとる

「背中に傷痕が残るらしいな」


 オーウェンはリリアムの背中を見て瞳を伏せた。

 リリアムの背中には大きく一筋の傷跡が残った。治癒魔法が施された魔道具でも傷が深すぎたため、綺麗には治せなかった。


「オーウェン氏。気にしないでほしいでござる。某は男ですぞ? 怪我は勲章でござる」


「でも、痛かっただろ?」


「…………痛くなかったといえば嘘になるでござるよ」


 実際に治癒魔法が施されても打ち身のような痛さもあった。それに、オーウェンがお見舞いにくる前日まで寝込んでいた。


「すまなかった」


 オーウェンがリリアムに頭を下げた。


「なっ、何故にオーウェン氏が謝るでござるか?」


「俺の問題にお前を巻き込んだ」


 その声は苦しげで罪悪感の塊のように感じた。そんなオーウェンにリリアムは優しく声をかけた。


「おかしなオーウェン氏でござるな。某が勝手に巻き込まれに入ったでござるよ。だから、気にしないで」


 その言葉にゆっくりと顔を上げた彼にリリアムは微笑んだ。


「二人とも命があるなら、某達の勝ちである」


 オーウェンは覚悟を決めたような顔をして、リリアムの両手をとって握りしめた。


「オーウェン氏?」


「リリアム・スロインド!」


 大きな声でしかも、真剣な顔をして名前を呼ばれたため、リリアムも佇まいを直した。


「はっ、はい!」


「責任はとる!」


「…………?」


 リリアムはその言葉に固まった。そして、聞き間違いかと思い、首を傾げた。


「責任はとる!」


「…………えっ?」


「責任はとる!」


 繰り返される言葉にリリアムの頭の中でも同じ言葉がリピートされた。


『責任はとる!』って……えっ? 何の? 男としての責任?


「リリアム・スロインド。お前のこれからの人生を俺の手で幸せにしたい。だから、俺に責任を取らせてくれないか?」


「…………えっ? ええ⁈」


 嘘かもしれない。そう思って彼の顔を見ると、真っ直ぐに射抜くようにこちらを見る瞳は真剣で嘘ではないとわかった。


「じっ、人生って……そこまで責任を感じなくても大丈夫でござるよ」


 確かに身体に傷は残るが、それは決してオーウェンの責任ではない。


「違う。俺が責任を取りたいんだ」


 握りしめた両手には力が込められた。発熱しているのかと思うほど彼の手は熱い。それに、ジッとこちらを見つめる瞳にも熱がこもっている気がした。


「どっ、どうして……そこまで……?」


 リリアムは困惑した。確かにオーウェンの性格は真面目だ。だが、ここまでする男とは思えなかった。


「すっ……」


「すっ?」


「好き……なんだ……」


「好き……なんだ……? …………すき⁈ 某を⁈」


 驚いて叫ぶと、オーウェンの顔は真っ赤に染まっていた。


「オーウェン氏……」


「責任を取るって言ったのは……俺自身のためなんだ。そうすれば、お前とずっと一緒にいられると思ったから……」


「オーウェン氏……」


「俺、格好悪いな」


 小さな声で呟いた声はリリアムの耳には届いた。そして、彼はリリアムの両手を握りしめていた手をゆっくりと離した。だが、今度はその手を逆にリリアムの手が掴んだ。


「リリアム?」


「オーウェン氏は決して格好悪くない。それは……()が保障するよ」


 そして、リリアムは笑った。


「オーウェンは初めて出会った時から真面目で融通は聞かないし、剣は異様に強いし……だけど、一度も格好悪いなんて思った事ないよ。逆に、格好いいと思わせる男だ」


「……リリアム」


 オーウェンはリリアムの身体を抱きしめた。


「リリアム。好きだ。お前が好きなんだ……」


「オーウェン氏……」


「好きだ……」


 何度も好きだと告白するオーウェンにリリアムは痛いほど心臓が跳ねた。今までの人生でこんなにも好意を一生懸命に伝えてくれたのは彼だけだ。


「オーウェン氏……」


「リリアム……」


 お互いが見つめ合う。彼の瞳に映るリリアムの顔は真っ赤に染まっている。そして、徐々に顔が近づいてきた。


「リリアム……好きだ」


 そして、お互いの唇が重なり合おうとした時だった。


「やっ、やっぱり駄目でござるー!」


 リリアムの手によってそれは塞がれた。


「どうしてだ?」


 だが、それに納得がいかないのはオーウェンである。


「そっ、某……某は……マッ、マリーたん一筋でござるよーー!!」


 その叫び声を聞いたオーウェンは一瞬目を見開いたが、すぐにリリアムに向けて、にっこりと微笑んだ。


「リリアム」


「オッ、オーウェン氏?」


「マリーは結婚している」


「しっ、知っているでござるよーー!!」


 リリアムは顔を手で隠した。オーウェンとの距離に恥ずかしくなり叫んでしまったリリアムだったが、オーウェンの反撃の言葉でさらに叫んでしまった。


「なら、俺にチャンスをくれないか?」


「へっ……?」


 顔を隠していた手を下に下ろすと、オーウェンと目があった。その瞳はリリアムしか映していない。


「リリアム。俺はお前に好きに……マリーよりも好きになって欲しいからチャンスが欲しい。」


「オーウェン氏……」


「駄目か?」


 いつものカッコ良い彼とは違い今はまるで子犬のような彼にリリアムは絆されてしまった。


「いっ、いいよ……」


「リリアム……ありがとう」


 オーウェンはその一言で嬉しそうに笑った。


「ところで、リリアム」


「なっ、何でござるか?」


「俺と結婚したら、マリーの義兄になれるぞ」


「…………えっ?」


 今度はリリアムが目を見開いてオーウェンを見た。それも、近距離でだ。


「近いな……」


 オーウェン氏と結婚すれば……マリーたんと義兄妹になれる?

 考えたこともなかった話のため、思考が停止してしまったリリアム。


「リリアム」


 オーウェンはそんな彼の頬にキスを落とした。


「んな⁈」


 だが、突然の頬の感触に驚いたリリアムは我に返った。


「キッ、キス……した……」


 顔を真っ赤に染めて狼狽えるリリアムを見たオーウェンは悪戯が成功した子供のように笑った。


「リリアム。覚悟しておけよ」


「なっ、何のでござるか⁈」


「絶対にマリーよりも俺を好きだと言わせるからな」


「ななななななな……」


 リリアムはその言葉に顔をさらに真っ赤にさせた。

 そして、実はマリーと同じぐらいには好きになってきている事を自覚してしまった。


「リリアム。覚悟しろよ」


「のっ、望むところである!!」


 リリアムは思ってもいなかった。この翌日から彼が自分を甘く過保護に甘やかしてくる事を。

 そして、今のリリアムは知らない。数年後には彼の言葉通り、マリーよりもオーウェンにゾッコンになり、怒られながらも彼の推しグッズを作る事になっていることを……。

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