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モフモフ猫魔獣に転生した私は、イケメン公爵にモフモフ可愛がられるだけのスローライフが待っていました。【連載継続】  作者: 逆立ちハムスター


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秘密の和解

外は荒れ狂う夏の嵐。バケツをひっくり返したような豪雨が屋敷の窓を激しく叩きつけ、時折走る稲妻が、薄暗い廊下を白く浮かび上がらせていた。


「レオヴィル様とカトリーナ様は、この雨では王宮に足止めですわね……」

「少し寂しいですね」

セドリックとリネット溜息が漏れる中、私と最高評議会の面々は、今は使われていない北棟の空きフロアで、有り余る体力を発散させるべく「全力鬼ごっこ」に興じていた。


「捕まえるよー!!」

モグが巨大な体を揺らし、凄まじい勢いでコーナーを曲がろうとした、その時だ。

「――あっ!? す、滑る!止まれないよぉーーー!!」

激しい衝突音と共に、モグが豪華な装飾が施された古い暖炉の側面に激突した。


「だ、大丈夫か、モグ!?」

「大丈夫?」

「情けなねーなー」

「……モグ、少し落ち着いて」

心配する私たちだったが、衝突の衝撃で暖炉の裏側の隠しパネルが、まるで長い眠りから覚めるようにギギギと開いた。埃が舞い、中から一枚の古びたキャンバスが転がり落ちた。


「……あん? なんだこれ」

「宝の地図か? 任せろー!」

「何かしら? ねえ、ステラ」

ギル、ドン、プリシラと奪い回され、プリシラが不審そうに鼻を近づける。私は埃を肉球で払い、その絵画を注視した。

そこに描かれていたのは、まだ幼い、天使のように可憐な少女。今の面影を色濃く残す、幼少期のアランダ夫人だった。そして驚くべきことに、彼女の膝の上には、一匹の小さな黒猫が丸まり、少女は今の彼女からは想像もできないような、太陽のように眩しい「猫派全開」の笑顔を浮かべていたのだ。


絵画と共に、一冊の古い日記……「アランダ夫人の手記」も姿を現した。

しかし、絵と文字故に、猫たちは興味を失い「遊びの続きだ!」と去っていったが、元人間の私は、その文字を食い入るように読んだ。


『……お父様は仰る。「我が家は代々、忠実なる犬を愛でる家系。気まぐれな猫など、弱者の飼うものだ」と。今日、庭で見つけたあの子を逃がした。胸が張り裂けそうだった。私は、立派な犬派の令嬢として生きなければならない……』


(……アランダ夫人、あなたも『建前』の世界で生きてきたのね)


厳しい家風、伝統、役割。自分の「好き」を殺して、期待される「自分」を演じ続ける。その息苦しさは、かつて満員電車に揺られ、上司の顔色を伺いながら「理想の社員」を演じていた私の前世の記憶と、痛いほど重なった。


────


嵐収まらぬその日の真夜中。

嵐は一層激しさを増し、ギルメン達は、リネットの部屋で猫団子で寝ている。私はモグに食べられる心配が勝り、ウルルと、いつも通り寝ることに。


レオヴィルとカトリーナは当然戻らず、屋敷は静まり返っていた。私は寝室で、窓を叩く雨音を聞きながら、癒し枠なクッキーの「ウルル」を眺めていた。ウルルは、遊び疲れると、クッションを抱きしめるように寝た。


(……ふふ、おやすみ、ウルル)


私が毛布をウルルにかけ、目を閉じようとした、その時だった。

扉から、尋常ならざる「気配」を感じた。殺気ではない。もっと重く、湿り気を帯びた、執着の塊のような熱量。


「……ステラ……」


振り返ると、そこには寝間着姿のアランダ夫人が来ていた。月明かりに照らされた彼女の顔は、昼間の「鉄の女」とは別人のように、どこか虚ろで、そして欲望に忠実だった。ベッドにそっと座るアランダ夫人。


「今日まで……我慢したわ……。子供たちの前でも、陛下の前でも……」

彼女は音もなく近づくと、私の首元に鼻を寄せ、大きく息を吸い込んだ。


(……この吸い方、レオヴィルとカトリーナにそっくり! 遺伝子、恐るべし!!)


アランダは震える手で私の背中を撫で始めた。

「猫なんて……嫌いよ。不潔で、勝手で……。でも、どうしてこんなに……柔らかいの……。ああ、誰にも見せられないわ、こんな姿……」


彼女は自分の中の「禁忌」と戦いながら、それでも私を「吸う」のをやめられない。

私は思った。彼女に必要なのは、猫としての癒やしではない。彼女が今まで自分に強いてきた「犬派としてのアイデンティティ」を壊さずに、私を愛でるための「理由」なのだ。


(……よし。社畜上がりの接待術、見せてあげるわ!)


私はアランダ夫人の目の前で、シュタッと背筋を伸ばして座った。

そして彼女の瞳をじっと見つめ、猫らしからぬ「忠誠心溢れる軍犬」のような表情を作った。


(さあ、アランダ様。私を『犬』だと思えばいいのよ!)


私が前足を持ち上げ、「お手」のポーズをとると、アランダは息を呑んだ。

「……お、お手? 猫が、お手をしているの……? それともあの、レオが作った変な像の真似?」


続いて私は、アランダの反対の手に「おかわり」を披露。さらに、部屋の隅に落ちていたおもちゃのリングを口に咥えて持ってくると、彼女の足元にポトリと落とし、「投げて」と言わんばかりに尻尾を犬のように勢いよく振った。そして舌をへっへと、犬のようにする。


「な、なんてこと……!?。こ、この子は、猫の姿をしているけれど、中身は高潔な『犬』そのものだわ!! 素晴らしい教育……! こ、これこそ、わたくしが求めていた理想の伴侶ペットよ!」


アランダの瞳に歓喜の涙が浮かぶ。

彼女の中で「猫を可愛がる自分」は許されないが、「猫の姿をした、最高に賢い犬(のような聖獣)を教育する自分」は、正義として受理されたのだ。


「いい子ね、ステラ! さあ、フリスビー(の代わりの皿)をキャッチして!」


私は夜中の寝室で、アランダ夫人が投げるクッションや小物を、猫特有の機敏な動きで空中キャッチしては、彼女の元へ「忠犬」の顔で届けた。

アランダ夫人は「素晴らしいわ! ワンと言いなさい、ステラ!」と、もはや隠しきれない猫可愛がりを爆発させていた。


「ワンワン(……はいはい、これで満足? これで、明日からの『猫vs犬』の紛争が休戦になるなら、安いものよ)



嵐が弱まり、遠くで雷鳴が小さくなっていく頃。

遊び疲れたアランダ夫人は、ベッドの縁に再度腰掛け、私を優しく抱きしめた。


「……ありがとう、ステラ。わたくし、少し疲れていたのかもしれないわ」


彼女の抱擁は、レオヴィルのような力任せなものでも、カトリーナのような興奮したものでもなかった。

それは、自分を押し殺して生きてきた者だけが持つ、静かで、どこか悲しい温もりだった。


「あなたは分かっているのね。……わたくしたちのような人間は、本当の姿を見せる場所が、この世界にどれほど少ないかを」


アランダ夫人は、私の十円ハゲが治りかけている頭頂部を、そっと愛おしそうに撫でた。

私は彼女の腕の中で、静かに喉をゴロゴロと鳴らした。


(……ええ、分かるわよ、アランダ夫人。私も前世では、死にそうな顔をしながら『御社が第一志望です』って笑顔で言ってたもの。建前で生きるのって、本当に体力がいるわよね)


ステラという聖獣の私と、アランダという公爵夫人。

立場も種族も違うけれど、この瞬間、私たちは「役割」を演じ続ける同志として、深い部分で繋がった気がした。


翌朝。

王宮から戻ったレオヴィルとカトリーナが見たのは、庭園の「ドッグラン建設」を中止させ、私のために「猫用日向ぼっこスペース(ただし犬用トレーニング器具という名目)」を戻し、さらに増設させているアランダ夫人の姿だった。


「は、母上? 一体何があったのですか!?」

驚くレオヴィルに、アランダは冷徹な仮面を被り直して言い放った。

「……効率よ。聖獣の体力を犬並みに向上させるための、合理的な判断よ。文句ある?」


(……ふふ、相変わらずね)


レオヴィルとカトリーナが目を合わせ、パチパチと瞬きしながら、困惑していた。


私はアランダの指先に光る指輪の「ドッグ・マン!」のロゴを見つめながら、少しだけ親愛の情を込めて、彼女に「犬のような」ウィンクを送るのだった。

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