華麗なる変身と戦慄のカルタ
「ようこそ、皆様♪ 今日はわたくしが、とっておきの『魔法』をお見せしますわ」
パンチ・デ・シャー氏邸の一角、最高評議会のメンバーが集まる広々としたフロアには、目も眩むような「猫用最新ファッション」の山が築かれていた。プリシラの飼い主であるレオナルドが、商談の景気づけに世界中から買い集めた珍しい超高級ペット服の数々だ。
「最高評議会の威厳は、知性だけでなく外見からも滲み出るものよ。さあ、遠慮せずに着替えてちょうだい」
プリシラが優雅に尻尾を振ると、メイドたち(という名の、着せ替えを手伝係の人間たち)が動いた。
「おい、離せ! 貴族の真似事なんて、俺の柄じゃねえ!」
ギルは、鮮やかなロイヤルブルーのタイトなジャケットを無理やり着せられ、四肢をピンと突っ張らせて威嚇している。だが、その青い服が彼の銀色の毛並みに驚くほど映えており、プリシラは「あら、冷徹な騎士様みたいで素敵よ」と涼しい顔だ。
一方、意外な才能(?)を見せたのがドンだった。
「……ドン、あなたにはこのシルクハットと黒いタキシード風のベストが似合うわ」
プリシラに勧められるまま着替えを終えたドンは、鏡の前で自分の姿をまじまじと見つめていた。
(さすがはドンね。ギルより世界理を知っている猫だわ)
「……ほう。悪くない。いや、むしろ俺様の重厚さが際立つな」
ドンはさらに、宝石が埋め込まれた「葉巻型のおしゃぶりアクセサリー」を口に咥え、ソファにどっかと座り込む。その姿は、暗黒街を牛耳る「前世の典型的なマフィアのボス」そのものだ。マシンガンの代わりに、プープー鳴る、蹴り玩具を抱えている。
(……ドン、あんたノリノリじゃない。意外とファッション属性あったのね)
そして、いよいよ私の番が来た。
「ステラ、あなたにはこれこそが相応しいわ」
プリシラが自信満々に差し出したのは、魔導銀で精巧に作られた「猫用ティアラ」だった。繊細な彫刻が施され、中央には私の瞳と同じ色の宝石が輝いている。
頭に乗せられ、鏡を見る。
(……あら、意外と良いわね。前世の安物のコスプレ用カチューシャとは大違い。これなら『聖獣様』として、レオヴィルたちに威厳を見せつけられるかもね)
「見てちょうだい! これこそが我が国の宝、聖獣ステラよ!」
プリシラが誇らしげに宣言し、現場は拍手喝采に包まれた。
だが、悲劇は唐突に訪れた。
「……さて、次はあの赤いマントを試してみようかしら。プリシラ、このティアラ外してくれる?」
プリシラが前足でティアラを引っ掛ける。しかし、ティアラはびくともしない。
「あら……? 少し髪(毛)に絡まっているのかしら」
「にゃ、にゃーん(ちょっと、痛いわよ、プリシラ)」
プリシラが焦って何度も試すが、魔法の装飾が私のふわふわの冬毛にガッチリと食い込み、まるで接着剤でつけたかのように固定されてしまっていた。
「ステラ、じっとしてて。……んっ、んんーーっ!!」
「……どけ、プリシラ。俺がやってやる。俺のこのパワーに任せろ」
見かねたドンが、タキシード姿のまま立ち上がった。彼は「マフィボス」のような貫禄で私の頭に太い足をかけ、ティアラの縁をガシッと掴んだ。
「……ま、待って、ドン。落ち着いて、これは魔法だから私の毛が……!)
「ぬんっ!!」
ドンの渾身の力が込められた。
ベリッ!!!
「にゃ、にゃああああーーー!!!」
フロアに響き渡る私の絶叫。ドンの足には、ティアラと共に、私の頭頂部の「輝く白い毛」が、根こそぎ、丸い形でお披露目されていた。
(……抜けた。……私の聖なる毛が………むしり取られた……)
私は猫神家騒動に続いて、またしても「ビジュアルの崩壊」に、魂が抜けたような顔で床に突っ伏した。
……毛なんて、そのうちモフモフ生えてくるわよね。
────
翌日。
「今日は私が考案した、新しい遊び『カルタ』をやるわよ」
私は十円ハゲを隠すための特製サンバイザーを深く被り、キャットハウスの中央に手作りのカードを並べた。
いつもの最高評議会メンバーと、ギルメン一行。
この猫ハウスはもはやメタボ猫製造マシーンの形相を見せていた。ドンはフカフカソファに陣取り、片手で猫用ケーキをお尻を描きながら頬張っている。
ギル、プリシラ、ララは、新作の猫用マカロンドハマリしていてる。
モグや他のギルメンは大きくなったお腹を膨らませながら、グーグー寝ている。
「ほら! 集まって!」
ギルメンがノロノロと集まってくる。
「みんな、ルールは簡単よ。私が『読み札』を言ったら、その内容に合った『取り札』を一番早く肉球で押さえた子の勝ちよ」
猫たちの目が、鋭いハンターのそれに変わる。
「また変な遊びを考えたな〜ステラ。でもやるからには本気で行くぜ」
「面白そうだ! 受けて立とうじゃないか!」
「さすがステラ様ですね♪」
「結構、反射神経が重要な勝負なのね」
「……楽しそうだね! 僕、負けないよ!」
モグが巨大な体を揺らす。ギルとドンは尻尾を低く構え、やる気満々で瞬発力を最大まで高めている様子。
私は読み札を手に取り、声を張り上げた。
「行くわよ! 第一問!――『お や つ !』」
ドォン!!!
「「「ぐはあぁぁっ!?」」」
読み上げた瞬間、凄まじい衝撃波が走った。モグが、その巨体を砲弾のように飛ばしてカードにダイブしたのだ。あまりの勢いにカードが吹き飛ぶ。
「……あったお! おやつだーー! 食べられるのかな?」
モグの肉球の下には、ぐしゃぐしゃになった「おやつカード」が。
「……野蛮だな、モグ。カルタは速さだけでなく、正確さだ」
ギルが不敵に笑う。
気を取り直して。
「第二問!――『ひ る ね !』」
シュバッ!!
視認できないほどの速さで、銀色の影が動いた。
ギルだ。彼は誰よりも、そして私(鬼)の手が離れるよりも早く、完璧なタイミングで「昼寝カード」を一枚の爪で突き刺していた。
「……フッ。当然の結果だな」
ギルが自慢げに髭をなびかせ、ドヤ顔を決める。ドンは「クソぉーー! ギル! 無駄な技術をこんなところで使いやがって!」と地団駄を踏んでいる。
「次!――『に ん げ ん !』」
今度は全員が入り乱れる大混戦。
「にんげん!」
ララが突っ込み、プリシラがそれを華麗にかわし、ドンが「人間なんざ、俺が全員ひれ伏させてやる!」と吠えながらカードに飛びかかる。
結局、猫たちは「ほのぼのとした遊び」という当初の目的を完全に忘れ、野生全開の格闘戦へと突入していった。ギルが圧勝と思いつつ、ドヤ顔ギルを跳ね飛ばすドン。その隙にプリシラやララが手札を増やしていく事態に。その表情は誰もが楽しげだった。
札を取れた者も、取れなかった者も、最後には「にゃーにゃー」と騒ぎながら、一つの山になってじゃれ合っている。
窓の外では、夕焼けが公爵領を赤く染め始めていた。
「……お腹、空いたわね」
私のその一言で、長いカルタ大会は終了。
結局、最後は全員で「おやつ」を囲み、日が暮れるまで平和な時間を過ごした。
頭の十円ハゲのせいで心が少し冷えるけれど、仲間の温もりがあれば、それも悪くない。
私はカルタの札を片付けながら、明日もまた、この騒がしくて愛おしい「猫の毎日」が続くことを、確信に近い気持ちで願うのだった。




