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モフモフ猫魔獣に転生した私は、イケメン公爵にモフモフ可愛がられるだけのスローライフが待っていました。【連載継続】  作者: 逆立ちハムスター


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雨音のコンチェルト

「……降るわね。これじゃあ、外に出るどころか、庭の猫ハウスに行くのも一苦労だわ」


窓の外は、叩きつけるような激しい雨。風が唸り、木々が大きくしなっている。幸い雷は鳴っていないけれど、空はどんよりと低く、昼間だというのに屋敷の中は薄暗い。やっぱりこの世界でも、夏季は天候が荒れるみたい。


今日は、運悪く(あるいは運良く)公爵邸に遊びに来ていた猫たちが、雨のせいで帰れなくなってしまった日だ。レオヴィルが「風邪を引いては大変だ!」と大騒ぎし、今は使われていない北棟の大広間が「避難所兼遊び場」として開放されていた。


(……やれやれ。これだけの面子が集まって、何もしないのは逆に疲れそうね)


広い絨毯の上では、すでに個性豊かな面々が思い思いに過ごしている。

ララは、私の尻尾がパタパタと動くのが気になって仕方ないらしく、目を皿のようにして追いかけている。

「ステラ様! その尻尾、右へ左へ……まるで生きているみたいですわ! えいっ!」

ジャンプして空振るララを見て、柱の影で毛繕いをしていたギルが鼻で笑った。

「……ガキかよ。尻尾なんて、ただの体の一部だろ」

そう言いながらも、ギルの視線もしっかりと私の尻尾の動きに釣られて左右に動いているのを、私は見逃さなかった。


一方、部屋の隅では、モグが、巨大なドンの腹を枕にして爆睡していた。

「……むにゃ……このクッション、弾力が最高だおぉ……」

「……重てえんだよ、この食いしん坊。腹の上で涎を垂らすんじゃねえ」

ドンは毒づきながらも、モグが起きないようにと、石像のように微動だにせずじっとしている。その無骨な優しさに、私は少しだけ口角を上げた。

ギルメン達も退屈そうだ。


(トランプもやり尽くしたし、みんな退屈してるわね。……よし、元人間の知識を少しだけ披露してあげようかしら)


私はフカフカの赤い椅子に上がり「みんな、ちょっと注目!」と声を張り上げた。


「退屈しのぎに、新しい遊びをしましょう。まずは『しりとり』……と言いたいけれど、猫だと知識的に続かなさそうで飽きちゃいそうだから、ハンターとしての本能をくすぐる『かくれんぼ』はどうかしら?」


「……隠れる? 敵から身を隠す術なら、俺たちの専売特許だぜ」

ギルが不敵に笑う。


「違うわよ、ギル。鬼を決めて、見つけられたら負け。制限時間内に最後まで見つからなかった子の勝ち。……鬼は、言い出しっぺの私がやってあげる」


ルールを説明すると、猫たちは意外なほど食いついた。

「面白そうですわ! ステラ様に探していただけるなんて、光栄です!」

「僕、隠れるの得意だよぉ〜! 腹が邪魔だけど頑張る!」


私は壁に向かって目を閉じ、数を数え始めた。

「十、九、八……三、二、一。……行くわよ!」


振り返ると、広大な広間からは猫一匹の影も消えていた。

(……流石ね。みんな隠密のプロだわ)


私はクンクンと鼻を利かせながら、部屋を歩き回る。

前世の「かくれんぼ」は、せいぜいカーテンの後ろや机の下だった。けれど、今の私の視界は「猫の高さ」だ。そして相手も猫。


(……あ、あんなところに!)


天井近くの豪華なシャンデリアの隙間に、銀色の毛がチラリと見えた。

「ギル、見っけ! さすがにその高さは反則に近いわよ」

「……チッ、バレたか。匂いを消してたはずなんだがな」

悔しそうに飛び降りてくるギル。


続いて、大きなカーテンの裾が不自然に「モコッ」と膨らんでいるのを見つけた。

「モグ、お尻が見えてるわよ」

「……バレた!? 全身隠したつもりだったのにぃ!」


さらに、鎧の飾りの裏、暖炉の中、花瓶の影……。

猫たちは、人間では絶対に隠れられないような隙間や、立体的な空間をフルに活用していた。

私は夢中になって彼らを探した。気づけば、子供の時以来の純粋な楽しさに、私の心は踊っていた。


(……不思議ね。前世ではあんなに退屈だと思っていた遊びが、猫の視点で見るとこんなに新鮮で、スリルがあるなんて)


クローゼットの奥深く、暗闇に溶け込んでいたプリシラを見つけ、それからも次々とギルメンを見つけた。ンフフ、ある意味反則よね。でも容赦しないわ。遊びは本気だから面白いのよ! 最後に残ったドンが「重厚な絨毯の模様」に魔法で同化していたのを見つけ出した。


「はぁ、はぁ……ステラ様、流石ですわ。まさかあの隙間に気づかれるなんて」

ララが息を切らしながら感心している。


「みんなも凄かったわよ。特にドン、あなた、あんな魔法、どうやって絨毯と一体化させたのよ」

「……ふん、気配を消すのは基本だ」


そして鬼を代わる代わる交代していき……いつの間にか、外の雨音さえ心地よいリズムに聞こえていた。


遊び疲れた私たちは、広間の中心に集まった。

外の雨はまだ止まない。けれど、窓から入り込む冷気とは対照的に、広間の中心は猫たちの体温でポカポカと温かかった。


「……ふわぁ、なんだか眠くなってきちゃった……」

モグが大きなあくびをし、再びドンの横に寄り添う。

「……またかよ。……まあ、いいだろう」


一人、また一人と、温もりを求めて重なり合っていく。

ギルはそっぽを向きながらも、私の隣に座り込み、ララはその上に重なる。プリシラも優雅に丸まった。


(……これが、噂の『猫団子』ね)


私はその中心に身を委ね、目を閉じた。

前世では、雨の日は「洗濯物が干せない」「通勤が面倒」という、ただの不便な日でしかなかった。けれど今は、こうして仲間と寄り添い、雨音を子守唄にして眠るための「贅沢な時間」だった。


「……ステラ。暖かいわね」

カトリーナが、いつの間にか広間の入り口から私たちを見守っていた。彼女もまた、この光景に癒やされているようだ。


「おやすみ、ステラ。良い夢を」


カトリーナの優しい声を聞きながら、私は確信した。

どんなに激しい雨が降ろうと、この屋敷の中にいれば、私は世界で一番安全で、幸せな猫なのだと。

私は仲間たちの柔らかな毛並みに包まれながら、深い、深い眠りへと落ちていった。

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