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モフモフ猫魔獣に転生した私は、イケメン公爵にモフモフ可愛がられるだけのスローライフが待っていました。【連載継続】  作者: 逆立ちハムスター


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王宮舞踏会

「ステラ。ついに、ついに、この時が来たよ」


朝の陽光が差し込む執務室で、レオヴィルがかつてないほど厳粛な面持ちで切り出した。その手には、王家の紋章が刻印された重厚な招待状が握られている。


「来週、王宮で大舞踏会が催される。フェリクス陛下から直々に、我が公爵家の『至宝』……つまり、君を連れてくるようにと勅命が下ったんだ」


(……ついに来たわね、本物の舞踏会!)


意外にも、私の心は踊っていた。前世の社畜時代、唯一の癒やしの一つは、深夜に観る海外ドラマの華やかなパーティーシーンだった。煌びやかなシャンデリア、流れるようなドレス、着飾った紳士淑女。一度でいいから、あんな世界をこの目で実際に見てみたい! そう思っていたのだ。


(猫の姿とはいえ、本物の王宮舞踏会。……いいわ、受けて立とうじゃない!)


私がやる気満々で、笑顔で「にゃーん!」と鳴くと、レオヴィルは「おお、ステラも乗り気か! ならば、最高の準備をせねばな!」と歓喜に震えた。だが、そこへ現れた「最強の刺客」を、私は甘く見ていた。


「兄様、ステラのプロデュースは、このカトリーナにお任せくださいまし!」


扇をバサリと広げ、自信満々に現れたカトリーナ。彼女の背後には、王都一の仕立屋たちが、これまた王都一の宝石箱を抱えて控えていた。


「今度の夜会には、ステラにも特注ドレスで出席していただきますわ! 王宮中の視線を釘付けにする、至高の一着を用意させましたの!」


(……カトリーナ、あんたの気合、ちょっと方向性が不安なんだけど)


数日後、完成したという「ドレス」を前に、私は文字通り凍りついた。


そこに鎮座していたのは、もはやドレスとは呼べない代物だった。全面に大粒のダイヤモンドとルビーが隙間なく縫い付けられ、金の刺繍がこれでもかと厚塗りされた、重厚な「金ピカの成金趣味な鎧」にしか見えない物体。


「さあ、ステラ! これを着れば、あなたは真の女王ですわ!」


カトリーナと侍女たちに囲まれ、私は強引にその「宝飾品の塊」を装着された。


(……ちょ、重い! 重すぎるわよこれ! 物理法則を無視してない!?)


ガシャン、という金属音が響く。

私は四肢を踏ん張って立ち上がろうとしたが、ドレス(鎧)の重みに耐えきれず、そのまま「べちゃっ」と床に伏せった。前足も後ろ足も、重しをつけられたように動かない。


私は必死に足をバタつかせ、「にゃー!! にゃー!! にゃー!! (脱がせなさいよ! 潰れて液体になっちゃうわよ!!)」と喚き散らした。しかし、カトリーナは「あら、ステラがあまりの美しさに身悶えていますわ!」と、いつものポジティブすぎる勘違いを爆発させている。


結局、私が窒息しかけたところで、ようやくレオヴィルが「……カトリーナ、流石に重すぎてステラが沈んでいるぞ」と助け舟を出し、ドレスは剥ぎ取られた。


解放された私は、床に転がっていたレオヴィルの「シルクのネクタイ」を素早くくわえ、自分の首にクルリと巻きつけて見せた。

無駄な装飾などいらない。上質な素材と、シンプルで洗練されたライン。これこそが、大人の女(猫)の嗜みよ。


「……っ!!」


カトリーナが息を呑んだ。

「なんてこと……。宝石を並べることしか頭になかった私の未熟さを、ステラは身をもって教えてくれたのですわ……。そのレオヴィル兄様のネクタイ一本で、これほどの品格を醸し出すなんて!」


「ステラ! 私のネクタイを自ら選んでくれるなんて……! ああ、もう今日はこのネクタイを洗わずに家宝にするよ!!」


こうして、異世界のファッションリーダー「ステラ」が爆誕した。らしい。


────


そして迎えた、舞踏会当日。

王宮の広間は、魔法の光で真昼のように輝いていた。うっとりと眺めていると……。

そこに用意されていたのは、優雅なダンスだけではなかった。


「これより、王宮恒例――各国の名家が誇る『愛猫ファッションショー』を執り行う!」


(……は? 猫のファッションショー!? 何よそれ、聞いてないわよ! いや……予想しておくべき案件だったわ)


広間の中央には長いランウェイが設置され、そこを各貴族の猫たちが、それぞれの飼い主自慢の衣装(といっても、みんなカトリーナに負けず劣らずの成金趣味だが)を纏って歩かされていた。


順番を待つ間、私は極度の緊張で足が震えていた。ステージ裏に上がるまではそうでもなかったが、実際に立つと、空気が変わってしまった。

「にゃ、にゃ、にゃ、にゃ……(これ、意外と前世のプレゼンより緊張するわ……)」


そこへ、優雅に歩み寄ってきたのはプリシラだった。彼女は透けるような薄絹を首に巻き、余裕の表情を浮かべている。


「どうしたの、ステラ。そんなに震えて。せっかくの晴れ舞台じゃない。一緒に楽しみましょう♪」


「プ、プリシラ……。私、こういうの苦手なの。どう歩けばいいか分からなくなっちゃって」


「フフ、簡単よ。あそこにいる人間たちを、全員『自分の下僕』だと思えばいいの。あなたはただ、高貴に、傲慢に、自分の道を進むだけ。ほら、行きなさい」


プリシラに背中をそっと押され、私はランウェイへと踏み出した。


スポットライト(魔導照明)が私を照らす。意外と緊張する。

首にはレオヴィルの濃紺のシルクネクタイ。それをピンで留めるのは、公爵家の紋章が入った小ぶりなブローチのみ。

周囲の派手派手しい猫たちの中で、私の「シンプル・イズ・ベスト」な装いは、逆に強烈な異彩を放った。


(……落ち着け、落ち着くのよ私。私はステラ。前世で数々の理不尽を乗り越えてきた社畜。この程度の視線、駅でバッグの中身をぶち撒けた時に比べれば……!)


私は背筋をピンと伸ばし、一歩一歩、確かな足取りで進んだ。

猫特有のしなやかな歩み(キャットウォーク)に、前世のモデルたちの動きをイメージして、少しだけ首の角度をクイッと捻ってみる。


会場が、静まり返った。

そして次の瞬間、地鳴りのような拍手と歓声が沸き起こった。


「おおお! なんという気品!」

「あのネクタイの使い方は革命的だ! まるで人間の淑女のような知性と、猫の可憐が同居している!」


ランウェイの突き当たりで、私はレオヴィルとカトリーナの方を向いた。

二人は、今にも泣き出しそうな、それでいて、この世の何よりも誇らしげな笑顔で私を見つめていた。


(……な、なんだか、悪い気はしないわね)


拍手おかげで

不思議と自身が湧いてきた。

拍手を受けながら戻る道すがら、私は思った。

最初は面倒だと思っていたけれど、こうして誰かに認められ、大切な人たちが喜んでいる姿を見るのは、悪くない。


「よくやったわ、流石ステラね。王宮中の人間を、見事虜にしたわね」

戻ってきた私を、プリシラが満足げに迎えてくれた。


「ありがとう、プリシラ。あなたのおかげよ。でも、次はもっと派手な衣装でも良いかもね」


「ンフフ♪ その調子よ」


舞踏会の後半、人間同士のダンスが終わり、私はレオヴィルに抱かれ、豪華なシャンデリアの下で、音楽に合わせてレオヴィルと一緒にゆっくりと回った。周囲の貴族も愛猫を抱いて、優雅に、癒されながら踊っている。

前世で憧れた舞踏会。

形は違えど、私は今、間違いなくその中心にいた。


「ステラ、君は私の誇りだ……」

レオヴィルの囁きを聞きながら、私は少しだけ自慢げに喉を鳴らし、王宮の夜を心ゆくまで楽しむのだった。

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