暴かれた秘密と憩いの場
「……ふぅ。今夜のマタタビ・ポーカーも、なかなかのレートだったわ」
深夜、最高評議会の定例集会を終えた私は、夜風に吹かれながら公爵邸へと戻ってきた。誰もが寝静まった静寂の中、忍び足で自室へ向かおうとした、その時だった。
(……!? 誰か来る! 猛スピードで!)
暗闇の向こうから、凄まじい勢いで何かが突進してくる。幽霊か、はたまた暗殺者か。身構えた私の前に現れたのは、振り乱した髪に、血走った瞳のカトリーナだった。
「ステラーーー!! わたくし、ついに! ついに突き止めましたわよ!!」
「ふぎゃっ!?(ちょ、苦しい!)」
返事をする間もなく、私は強烈な力で抱き上げられ、骨が鳴るほどのハグを受けた。あまりの気迫と圧迫感に、私の意識は一瞬遠のき、酸欠で半失神状態に陥る。
「カトリーナ! それは本当か!? ついに特定したというのか!?」
突如、廊下の向こうの扉がバァン! と蹴破られ、レオヴィルが叫びながら飛び出してきた。どうやらこの兄妹、一睡もせずに何かを共謀していたらしい。
「本当ですわ、兄様! ご覧なさい、この調査結果を!」
カトリーナが広げた羊皮紙ノートには、驚くべきことに私の「交友関係」が、挿絵付きで詳細に記されていた。
『銀色の鋭い眼光の猫(通称:ギル)』
『食欲旺盛な灰猫(通称:モグ)』
『熱心な信奉三毛猫』(通称ララ)』
『色香漂う妖艶なペルシャ猫(通称:プリシラ)』
『片目に古傷を抱える黒猫戦士』(通称ドン)』
(……ストーカー!? 完璧なストーカーじゃない! どこで、いつの間に調べ上げたのよ!?)
「なるほど……。この銀色の猫が、ステラの『用心棒』的存在か。そしてこのペルシャ猫が、ステラの『社交界の指南役』だな……。カトリーナ、よくやった。これは我が公爵家の存亡に関わる重大な情報だ」
「ええ、兄様。ステラの友人たちを味方につけることこそ、ステラの心を真に掴む近道ですわ!」
二人は廊下に座り込み、まるで隣国との戦争計画でも練るかのような、深刻かつ真剣な表情で猫友リストを分析し始めた。
(……バカバカしくて付き合ってられないわ。勝手にやってなさい)
私は酸欠でフラフラになりながらも、隙を見てカトリーナの腕から脱出。呆れ果てて白目を剥きながら、ウルルの待つ、自分のふかふかベッドを目指し、そしてダイブでベッドに潜り込んだ。
────
翌日の昼下がり。
昨夜の騒動は夢だったのかと思うほど、私は幸せな三度寝を満喫した。ルンルン気分で最高級のサーモンパテを平らげた私は、「さて、みんなに昨日の戦利品でも配りに行くか」と、いつもの裏庭へ向かった。
だが、裏庭に足を踏み入れた瞬間、私の足が止まった。
「……え? な、なにこれ……。私のお気にの裏庭が……消えてる?」
昨日まで、ただの芝生と植え込みだった場所には、信じられない光景が広がっていた。
そこに出現したのは、大理石と金細工で飾られた、平屋建ての「猫専用・豪華絢爛ギルドハウス」だった。
柱には爪研ぎ用の最高級麻紐が巻き付けられ、屋根には太陽光を効率よく集めるための魔法の集熱板。内部には噴水から流れる循環式ミルク(!)の泉があり、至る所にシルクのクッションが敷き詰められている。
(……嘘でしょ。半日。たった半日で、こんな国家予算級の建物を建てたっていうの!? 公爵家の建設部隊、ブラック労働どころの騒ぎじゃないわよ!)
建物の中では、すでにギルメンや最高評議会のメンバーが、我が物顔ではしゃぎ回っていた。
モグは「ここ、どこを歩いてもおやつが落ちてるよぉぉ〜!」と、自動おやつ供給機の前で顔突っ込みながら、狂喜乱舞している。
無関心を装っていたギルでさえ、特注の「研ぎ味抜群の丸太」を前に、隠しきれない興奮で爪をバリバリと立てていた。
プリシラは、最も日当たりの良いテラス席の特等席で、琥珀色の瞳を細めてくつろいでいる。
そして、端の方ではドンが、ルールを知らないギルメン猫たちに「いいか、これがババ抜きだ」と、ドスを利かせた声でトランプの英才教育を施していた。
「ステラ様! 素晴らしい場所ですわね! これもすべて、ステラ様の威光の賜物ですわ!」
ララが目を輝かせて私の元へ駆け寄ってきた。彼女の背後では、物陰からレオヴィルとカトリーナが「ふふふ……友人たちを籠絡する作戦、大成功ですわね」「ああ、これでステラは、もうこの屋敷から一歩も出られなくなるぞ……」と、不敵な笑みを浮かべて密談している。
(……みんなが楽しそうなのは良いことだけど。これ、完全に『外堀から埋められてる』わよね)
私は、豪華すぎる猫ハウスの眼下で、かつてないほど真っ白な白目を剥いた。
自由を求めていたはずなのに、気づけば、私の周囲には最高に居心地が良くて、最高に逃げ出しにくい「檻」が完成しつつあった。
私は、ララに引かれるままにミルクの泉へと向かいながら、この屋敷の異常なスピード感と執念に、改めて戦慄を覚えるのだった。




