メタボ猫と暴かれた本音
「……おお! 見てくれカトリーナ! ステラのお腹が……神々しく膨らんでいる! これは伝説に記された『二段階変身』の兆しに違いない!」
朝一番、レオヴィルが私の腹部を指さして叫んだ。
連日の高級おやつと、動かない「有給休暇」のせいで、少しばかりお腹が「ぽっこり」してしまっただけなのだが。彼はそれを、私が真の姿を現そうとする魔力の貯蓄だと信じ込んでいるらしい。
(……ただの食べ過ぎによるメタボよ。夢のないことを言わせないで!)
「セドリック! すぐに聖獣専用の『神話級・猫鎧』を発注しろ! 私がステラが真の姿見届ける時、その身を護る黄金の鎧が必要だ!」
(……その鎧、今のお腹周りですらパッツパツで入らない予感しかしないんだけど。変身して巨大化したら、一瞬で弾け飛ぶわよ?)
レオヴィルは「神獣化」への期待に胸を膨らませ、職人たちに無理難題を押し付けに走っていった。私はその背中を、白目を剥きながら見送るしかなかった。
その日の夜。
レオヴィルが性懲りもなく、魔導工房に特注させた「最新型・猫用翻訳機(Ver.5.0)」を持って現れた。
どうやら職人訪問して、完成報告を受け取ってきたらしい。なんて分かりやすい男なの。
「ステラ……どうしても君の言葉が理解したいんだ。君が何を想い、何を望んでいるのか……。嫌ならすぐに外すが、今夜だけ、これを着けて寝てみてはくれないか?」
(……はいはい、どうせまた『お腹すいた』が『世界を征服する』とかなんとかに誤変換される不良品でしょ。勝手になさいな)
私は諦めて、首輪型の翻訳機を装着したまま深い眠りに落ちた。
その夜、夢の中で、私は前世のオフィスにいた。理不尽な上司が、定時直前に山のような書類を押し付けてくる。
「……ったく、あの高慢上司。いつも口ばかり。……レオヴィル、あなたもよ。……吸いすぎで最近、寝不足気味なの。……残業代を出せ……」
翌朝。
ムカつく夢でいつもより早く目が覚めた。
私がゆっくりと目を覚ますと、ベッドの脇でレオヴィルが魂の抜けたような顔で座り込んでいた。
(おはよう、レオヴィル)
「……すまなかった、ステラ。私の愛は、君にとって『残業』という名の苦痛だったのだな……。君の睡眠時間を奪い、報酬以上の労働を強いていた……。私は、なんて身勝手な主人だったんだ……」
(……あら!? まさか、あの夢の寝言が正しく翻訳されたの!? 翻訳機、意外と優秀じゃない! ……って、レオヴィル、そこまで落ち込まなくても……)
いつも自信満々で「ステラ命!」と叫んでいる彼が、借りてきた猫(私ですが)のようにシュンとしている。その姿を見ると、なんだか胸の奥が少しだけ、チクリと痛んだ。
そこへ、いつものように朝の挨拶にカトリーナがやってきた。
「あら兄様、そんな玩具の言うことを真に受けるなんて、公爵家当主として呆れますわね」
「カトリーナ……お前は、ステラが私を嫌っていないと思うのか?」
「当たり前ですわ。ステラが本気で兄様を嫌っていたら、とっくにこの屋敷から逃げ出していますわよ。今のステラなら、国中のどこへ行っても、女王として迎えられますもの。ここに居続けてくれていることが、既に答えではなくて?」
カトリーナの言葉に、レオヴィルの瞳に一気に光が戻った。
「……そうか! ステラは、私の愛という名の『残業』すらも、自らの意志で受け入れてくれていたのか! おお、ステラ! やっぱり君は私の天使だ!!」
(……いや、そこまでポジティブに変換してとは言ってないけど!)
復活したレオヴィルが、さっきの落ち込みを帳消しにするような勢いで、私のお腹に顔を埋めて「猫吸い」を開始した。
「にゃーん(……もう、しょうがないわね)」
私は逃げるのをやめ、彼の頭にそっと肉球を乗せた。
前世の孤独な社畜生活。もしあの頃の私が今の私を見たら、なんて言うだろう……。
「仕事」でも「義務」でもなく、ただここに居たいから居る。
(……私も、この家に長居しすぎちゃったわね。他のところで生活するなんて、もう考えられないわ。……みんなと離れるのは、やっぱり、寂しいもの)
私は、騒がしい兄妹のやり取りを聞きながら、温かいレオヴィルの体温に身を委ね、心の中でそっと「終身雇用(家族)」を誓うのだった。




