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モフモフ猫魔獣に転生した私は、イケメン公爵にモフモフ可愛がられるだけのスローライフが待っていました。【連載継続】  作者: 逆立ちハムスター


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猫耳王国と謎のクッキー

「……う、うるさい。まだ夜の三時(体感)よ……」


翌朝。猫耳パーティーの余韻と、地下カジノでの「禁断のババ抜き」による深刻な寝不足に陥っていた私は、部屋の外から聞こえる騒々しい兄妹喧嘩で無理やり意識を引き戻された。


「兄様、見てくださいな! 私が結成した『猫耳メイド隊』の凛々しさを! 公爵邸の景観が、よりステラに相応しい聖域へと昇華されましたわ!」


カトリーナの得意げな声に、私は猫枕を頭に押し付けた。だが、レオヴィルの返答はさらに斜め上を行くものだった。


「ふん、遅いなカトリーナ。兄である私の方が、ステラへの愛は一歩先を行っているぞ。セドリック! 騎士団の者たちを呼べ!」


嫌な予感がして、私は重い体を芋虫のように引きずりながら窓辺へ向かい、そっとカーテンの隙間から下を見下ろした。

そこには、朝日を浴びて整列する『モフり聖天教』の騎士たちがいた。彼らが一斉にヘルメットを被り、礼を尽くすと……そのヘルメットの頂部には、丁寧に、かつ頑丈に溶接された「鋼鉄製の猫耳」がピンと立っていた。


門の外に目を向ければ、市民たちもカトリーナの影響で猫耳バンドを装着し、熱心に「猫のポーズ(ヨガ)」を捧げている。


(……国民総コスプレ。終わった。この国、本当に終わった。もう何もかも手遅れだわ)


私はそっとカーテンを閉じた。鏡に映る自分を見つめ、「私は人間。前世は週休一日で働いていた立派な社畜。私は人間……」と、呪文のように心に刻む。いつか自分もこの狂った世界を「普通」だと思ってしまう日が来るのが、今の私にとって一番の恐怖だった。


そして昼下がり。嫌なことを忘れる為に二度寝から覚めた私を待っていたのは、さらなる災厄だった。


「ステラ! 愛する私の天使! 今日はあなたのために、このカトリーナ自らが、直接特製おやつを作ってあげますわ!」


(……嫌な予感しかしないわよ)


カトリーナは公爵令嬢のプライドをかけ、厨房を完全封鎖。シェフたちを廊下に放り出し、魔導オーブンをフル稼働させ始めた。


「隠し味はドラゴンの鱗の粉末! 小麦粉は北の聖域で採れた光る粉、砂糖は人魚の涙を精製したものですわ! さらにここに……」


おにぎりの時と同様、カトリーナの「最高級なら何でもいい」理論が暴走している。ドラゴンの鱗を粉末にしてクッキーに入れるなんて、それはもはやおやつではなく、高性能な魔導具か、あるいは兵器の類ではないだろうか。


三十分後……。

焼き上がったクッキーが皿に乗せられて運ばれてきた。

それは猫の顔形をしていたが、黄金色に輝き、ドクドクと拍動しているような……気がする。


「さあ、召し上がれ!」


私が恐る恐る手を伸ばした瞬間だった。

「……キュッ!?」

なんと、皿の上のクッキーが、チョコペンの目で私を見上げ、短い足(?)でトコトコと逃げ出したではないか!


(動いたぁぁぁ!! 高級素材を詰め込みすぎて、命が宿っちゃったじゃない!!)


逃げるクッキーを、私は反射的に肉球で押さえ込んだ。クッキーは私の足の下で「キュウ、キュウ」と怯えるように鳴いている。


(……これ、食べられないわよ。生きたまま踊り食い? をするのは、元人間ゆえに、少し抵抗があるわ……)


「あら、ステラ。そのクッキーが気に入ったのね? さすが聖獣ね。私の料理に命まで吹き込むなんて……感動いたしましたわ!」


(いや、あなたが素材を魔改造しすぎたせいだからよ!)


私は、プルプルと震えるクッキーを見つめた。とりあえず、このまま放置するわけにもいかない。


「仕方ないわね。名前をつけなきゃ。そうね、『モッタイナイ』からとって……モタイとかは、どう?」


クッキーは死ぬほど嫌そうな顔をして首を振った。食べられる直前の必死さだ。


「じゃあ……その目がうるうるしてるから、『ウルル』とかはどう?」


クッキー……改めウルルは、パッと表情を明るくし、私の肉球にスリスリと擦り寄ってきた。気に入ったらしい。


「ああ、なんて神々しい光景……! 聖獣様が、自らの従者クッキーを誕生させた歴史的瞬間ですわ!」


カトリーナはハンカチでそっと涙を拭いているが、私はそれどころではない。

これ、放置しておいたら腐るの? それとも魔法で永遠にこのまま?

何より、食いしん坊のモグに見つかったら、一瞬で「ただの美味しいクッキー」として処理されてしまうのではないか。と思考を巡らせていた。


こうして、私のスローライフ(?)に、また一人(一欠片)、奇妙な同居人が加わった。

私は、自分の尻尾を追いかけて遊んでいるウルルを眺めながら、この屋敷の異常事態が加速していくことに、またしても深い溜息をつくのだった。

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