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モフモフ猫魔獣に転生した私は、イケメン公爵にモフモフ可愛がられるだけのスローライフが待っていました。【連載継続】  作者: 逆立ちハムスター


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暗闇の公文書と聖獣の舞

「……にゃふぅ。この香り、案外悪くないわね」


カトリーナが大量に買ってくれたパパイヤベースの猫用香水は、前世の高級っぽい香水とは違い、私の魔力と混ざり合って微かな安らぎの香りをもたらしてくれた。

るんるん気分で、私は真夜中の公爵邸を歩く。

猫の体になってもう結構経つ。最近、私のバイオリズムは完全に夜型へと移行してしまっていた。明かりがなくても、猫の目は暗闇を昼間のように映し出す。


(ふふん。誰もいない真夜中。これぞ、いけない事をするのに最適な時間よね)


私が向かったのは、レオヴィルの執務室だ。

時折、彼が昼間に頭を抱えていた書類の続きをこっそりチェックするのが、私の「稀な日課」になっていた。


(さて、今日は……あら?)


棚の奥。普段は動かさないはずの重厚なファイルの隙間に、私は一通の古い、けれど厳重に封印された文書を見つけた。


(……何かしら、これ。国王陛下の封印付き? 親書? また猫バカ王の、猫仲間宛のやりとりかしら。ンフフ♪ 面白そうね)


丁寧に開くとそこには、驚くべき事実が記されていた。

現公爵夫妻――つまりレオヴィルたちの両親は、国王より下賜された遠方の新領地の開拓と統治のため、すでにそちらへ出向しているという。

そして、以前、所有していた、つまりこの現領地の全権は、嫡嗣である長男レオヴィルに継承されている……。


(……え。じゃあ、レオヴィルとカトリーナは、実質的に二人だけでこの屋敷を切り盛りしてるってこと?)


貴族社会において、現役の当主夫妻が家督を譲る前に別々に暮らすのは、かなり特殊なケースではないだろうか。


(自由とプライバシーを愛する一人暮らしが当たり前の世界から来た私にとっては普通だけど……。レオヴィルとカトリーナの両親か。あの廊下に飾ってある、やたらと威厳のある肖像画の人たちよね。今まで興味なかったから、あまり意識してなかったけど……)


過労死して、猫になって、レオヴィルの重すぎる愛に溺れ、王様の肉球マニアに事件に戦慄し、挙句の果てには怪しげな宗教まで始まった。そんな怒涛の日々の中で、私はこの兄妹の背景について考える余裕など一ミリもなかったのだ。


(あんな猫バカに育てたご両親は、一体どんな人たちなのかしら……。いつか会う日が来るのかしらね)


少しの疑問と、妙な胸騒ぎ。

私はそっと書類を元の位置に戻し、夜の静寂に身を委ねて再び眠りについた。


翌昼。

昨夜の気分を吹き飛ばすほど、私の体は「鈍って」いた。

最近、最高級のパテとおやつを貪り食い、ふかふかのベッドで寝るだけの生活を続けに続けてきたせいで、心なしかお腹周りがふっくらしてきた気がするのだ。


(マズいわ……。このままじゃ『聖獣様』じゃなくて『満福様』になってしまう。……よし、前世で流行っていたヨガをやりましょう!)


私は自室の絨毯の上で、記憶を頼りに「ヨガ」を開始した。

まずは「ダウンドッグ」。前足を伸ばし、お尻を高く突き上げる。……おっと、これ、猫が普通にするストレッチとほぼ一緒じゃないかしら?

ならば次は、片足を器用に上げてバランスをとる「立ち木のポーズ(猫アレンジ版)」だ!


「……っ!! ステラ、その動きは……!」


扉を開けたカトリーナが、驚愕の表情で固まっていた。


(げ。見られた。……ま、まあいいわ、猫が変なポーズしてても、普通『可愛い』で済むはず……はず……はず?)


ここは普通じゃないのを忘れていた。


「なんて神秘的な動き……。左右のバランス、呼吸の整い方。これこそが、古の文献に記されていた聖獣による加護の舞、『聖獣のホーリー・ダンス』なのですわね!?」


(違うわよ、ただの代謝アップのためのヨガよ!)


しかし、カトリーナの瞳はかつてないほど輝いていた。

「私も、ステラの高潔な魂に少しでも近づきたい……! 指導をお願いしますわ、ステラ!」


カトリーナはドレスの裾をまくり上げ、私の隣で「猫のポーズ(ヨガ用語)」を真剣に完コピし始めた。

そこへ、追い打ちをかけるようにリネットが通りかかる。


「……カトリーナ様。ついに猫になりたいと願うほど、ステラ様を愛してしまったのですね。そのお姿、リネットは感激の涙を流さずにはいられません……!」


(違うはリネット!そうじゃないでしょ。 カトリーナは猫になりたいなんて言ってないから!)


否定どころか、ヨガに集中しているカトリーナには、リネットの誤解の声は届いていなかった。


混乱はそれだけで終わらなかった。

カトリーナが「これは聖獣様から伝授された、美容と魂の浄化に効く動きですわ」と侍女たちに言い広めた結果、数時間後には屋敷中の侍女たちが、廊下や庭で一斉に「猫のポーズ」で四つん這いになり、深く呼吸を繰り返すという異様な光景が広がってしまった。


「ここは公爵邸か? それとも、大規模な鍛錬場か、あるいは新興宗教の修行場か……?」


唯一の常識人、セドリックが真っ白な顔で呟いている。

その足元で、私もまた、カトリーナの熱心なヨガ(聖獣の舞)を指導させられながら、遠い目をして白目を剥いていた。


帰宅したレオヴィルの反応は語るまでもない。

「……カトリーナ。お前、ついに猫になりたいと願うほど、ステラを愛してしまったのか……。その健気な姿、兄は涙を禁じ得ないぞ……!」


スローライフを求めて始めたヨガが、屋敷全体の「集団猫ポーズ」へと繋がる。

私の「普通」は、今日もまた、この屋敷の異常な情熱に飲み込まれていくのだった。

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